自転車の上の歯磨きエージェント
大学時代からの友人、かっちゃん。
なんというか彼は、ホモサピエンスなのだ。
いやそれみんなやん!なのだが。
彼はもっと原始的な人間の性で生きている。
大学時代。
彼は学校の裏に住んでいた。
なので自ずと僕たちの溜まり場になっていた。
ただ、彼の部屋は信じられないくらいの汚部屋だった。
風呂は物置となっていて、浴槽は化石のような水垢がドス黒く変色していたし、キッチンもカップラーメンの空の容器のタワーができていた。
部屋の中も悲惨な状態で、ゲームをする椅子を中心として、空のペットボトル、ビールの空き缶、弁当の容器、大学の課題のペーパーの山、歯ブラシが放射状に床に散乱している。
タバコの灰皿は4畳半の狭い部屋のいろんなポジションに10個くらい点在していた。
なぜこんなに灰皿が多いのか聞くと、
「バカだなぁどこでもタバコ吸えていいじゃないか」
ということらしい。
そして、2階のロフトには、どこかで手に入れたらしいスロットの実機(たしか明日のジョーだった)と布団が敷かれており、その奥にはシコティッシュが山積みになっていた。
僕が、
「おまえさ、ヌイた後のティッシュくらい捨てろよな」
というと必ず彼は、
「バカだなぁ個人情報が漏洩しちゃうじゃないか」
と返してくる。
彼はどこかしらの国のエージェントなのかもしれない。DNAという最大の個人情報漏洩防止に努めている。恐らく、どこかの国の機密情報を入手して、ほとぼりが冷めるまでこうやって大学生という仮面を被って生きているのだろう。トムクルーズもびっくりだ。
そんな汚部屋なのだが、不思議とみんなの溜まり場になっていた。
それは、シンプルにかっちゃんが面白かったというのがある。しかも大学生の男子なんてそもそも汚いもんだし(偏見)、僕らの専攻は魚類生物学なのだが、日々、魚を解剖して生臭い匂いをまとわせたり、船で外洋に出て船酔いでゲロにまみれたりしたりしているうちに清潔感という概念が欠落してしまっていたのだ。
そんなことより、ヤニ臭い部屋で麻雀やったりお酒を飲んだり、スロットしたり、ゲームしたり、くだらないテーマで延々に議論している時間が最高に楽しかった。
ある日、授業終わりにかっちゃんと呑みにいくことになった。大学の近くは何もないので自転車で駅まで向かう。2人でのろのろペダルを漕いでるとかっちゃんが、
「あ、歯磨くの忘れてた」
と思い出してハブラシを買いにコンビニに入った。どっかのトイレで磨くのかなと思っていると、おもむろにハブラシを袋から取り出して自転車を漕ぎながら歯を磨き始めた。
「いま磨くんかい」
僕がそういうと、かっちゃんは、
「バカだなぁ自転車漕いでる時のハミガキが1番気持ちいいんだぞ」
といいながら、ある程度磨き終わったらちょうど通りがかった公園の水道に行って口を濯ぐ。
そして、また自転車にまたがって磨き始める。
そのままこの水道で磨けばいいのに。
そんな目でかっちゃんを見ていると、彼はそれを察したように口を開く
「おれのハミガキで呑みの時間を削るわけにはいかないからな」
いいやつ。
そう言って駅に着くと、ゴミ箱に使用済みの歯ブラシを捨てた。
僕はその行為にめざとく、
「あ!おまえそれ、個人情報の漏えいじゃねえの?」
とつっこむと、かっちゃんは、
「ハミガキしたらDNAはいなくなるだろ。キシリトールで磨いてるんだから」
と返す。
それさ、なんのはなしですか。
彼は天才か鬼才か、それともキ○ガイか。
多分ぜんぶな気もする。
大学を卒業した今でもかっちゃんとはたまに呑みに行ったり、釣りにいったりする。
彼の話はいつも軽妙で、ついつい時間を忘れてしまう。
いつか彼が別の任務で唐突に姿を消し、どこかの国でエージェントとしての第二の人生を歩んでいるとしても、僕らが大学時代のくだらない話を肴に呑むことだけは許してほしい。
あとがき
なんか書いているうちにナゾナゾっぽくなったので、ナゾナゾにしちゃおう。
キシリトールで歯磨きしたらなんでDNAがいなくなるのか。わかった人はコメントください!
初めて、コニシ木の子さんが主催する
「#なんのはなしですか」を書いてみました。
