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酒は飲んでも元彼には飲まれるな

わたしがまだ20歳そこらの小娘だった頃、5歳年上の男性と付き合っていた時期があります。

彼とは、友人に連れられて行ったバーで出会ってお互い一目惚れし、その日のうちに交際をスタートさせました。
今思えば、お酒の力と若気の至りが悪い意味で噛み合ってしまったのだと思います。


初めての年上彼氏に浮かれていた脳内お花畑野郎のわたしは、仕事終わりでも会いに行ったり、休日は彼とのデートの予定を優先させたり、とにかく一緒にいる時間を増やそうと努力しました。

しかし、次第に違和感が積み重なっていきます。


仕事中でもお構いなしに来る連絡。
残業だから会えないと伝えると露骨に不機嫌になる態度。
休日デートできないとなったら一日中繋ぎ続けなければならない電話。
そして何より、自己中心的なセックスに付き合わされ、気持ちよくもないのにそれっぽく振る舞わなければならない虚無感。

年上=余裕があるという幻想は、思っていたよりも脆いものだと知ったのです。
最後に関してはわたしが期待値を上げすぎていたのも悪いのですが…。


付き合い始めた当初、バーの常連客のお姉さま方やオーナーからは「彼は一途で愛情深いからオススメだよ。絶対幸せにしてあげてね」と言われていました。

なんでわたしが幸せにしてあげる側なん?
愛情深いというか、重すぎん?
そんな疑問は、最後まで解消されませんでした。

結局、年上フィルターを持ってしても目を瞑ることのできない欠点の多さに疲れてしまい、1ヶ月半ほどで別れを告げました。

むしろ、長持ちした方かもしれません。
だって、顔は本当にタイプだったし。
人間、顔の良い相手を目の前にすると驚くくらいIQが下がりますよね。わたしだけですか?


別れ際は多少揉めたものの、なんとか関係は終わりました。



その後、彼はわたしたちが出会ったバーで店員として働き始めました。
若干の気まずさは覚えましたが、「今後は飲み友達として仲良くしよう」と言われていたことや、彼に新しい彼女ができたという噂を聞き、まぁ、気にする必要もないかーと、変わらず通い続けていました。
人間、生きる上である程度の図太さも必要ですよね。わたし、図々しい女日本代表なので。



ある日、いつものようにカウンターで一人お酒を嗜んでいると、隣に同年代くらいの男性グループが座りました。初めて見る顔で、たまたま訪れたお客さんのようでした。そこに彼も店員として加わり、最初は和やかな雰囲気で飲んでいました。

しかし、徐々に彼の様子がおかしくなります。

彼は、かなりの酒豪でした。
しかし、それと同時にかなり酒癖が悪いタイプでもありました。


「この子、俺の元カノなんですよ」
「酒飲めないんなら店来んなよ」

店員とは思えない発言を、初対面の客に向かって平然と繰り返します。
場を収めようとゲームを提案し、お酒を飲ませても火に油を注ぐだけでした。
アルコールは人の本性を暴くと言いますが、流石に暴きすぎです。

挙句の果てには、わたしと付き合っていた時のことをペラペラと喋りだす始末。パーソナルな事情を悪びれもなく口にします。


その瞬間、わたしの堪忍袋の緒は切れました。


「お前、一回外出て頭冷やせや」


店の外に連れ出し、なおもヘラヘラと暴言を吐く彼をその場に押し倒します。馬乗りになり、胸ぐらを掴んで言います。


「25にもなってそんなダサい飲み方しかできんなら家帰って寝ろ。こちとら金払ってんのになんでお前みたいな酔っ払いの相手せないかんのや」

我ながら、随分お口が悪くていらっしゃる。


普段は大人しくてなめられがちなわたしの豹変ぶりに、彼は言葉を失っていました。
少なくとも、一言も発さず静かになったので多少なりとも効果はあったのでしょう。

言葉と物理を駆使すれば、人は簡単に大人しくなると学びました。できれば他では活かしたくない知識ではあります。

わたしは床に這いつくばって唖然としている彼を置いて、そのまま帰宅しました。



後日、オーナーから連絡がありました。

あの日の謝罪とともに、彼をクビにしたという報告でした。
理由は酒癖の悪さに加え、他の客への態度の悪さや器物破損、女性関係のトラブルなど、問題行動が積み重なり庇いきれなくなったからとのことでした。
むしろ今までよく持っていたな、というのが正直な感想です。彼目当ての女性客も多かったので、お店としても苦渋の決断といった感じでした。


そんな人だと見抜けなかった自分もどうかとは思いますが、「酒は飲んでも飲まれるな」をここまで体現している人って、実在するんだという知見を得ました。


人生で人を怒鳴ったり馬乗りになるなんて、恐らく後にも先にも一度きりでしょう。普段のわたしは清廉潔白でお淑やかな人間ですので。は?⇽
そういう意味では、ある意味貴重な経験だったのかもしれません。もう二度としないからねー。



ちなみに、その後もなんだかんだトラブルはあったのですが、彼とは今でも薄い付き合いがあり、現在は結婚して二児の父になっています。

ただ、女遊びと酒癖の悪さは相変わらずのようで、飲みに出た先々で彼の悪評を耳にします。

そして、彼に手を出された女の子たちが「経験豊富って言ってるくせに死ぬほど夜が下手」と口を揃えて言っているところを拝察するに、わたしが過去に感じた違和感もあながち間違いじゃなかったんだな、なんて思う今日この頃です。
百人斬りしただの、テクニシャンだの、他の男じゃ満足できなくなるよだの、自称してはいけないのだと改めて感じました。
というか、ボロクソに言われまくってて草。

人はそう簡単には変わらないのだなと呆れつつ、ネタとして傍観するには面白い人間なので、今後も遠巻きに観察していこうと目論んでいます。