夜の街で拾った関係が、何故か10年続いている
わたしには、3ヶ月に一度くらい一緒に飲む男の子がいます。
夜7時頃に集合して居酒屋に行って、どちらかの知り合いのバーに流れて、「あとは各自自由行動!またね!」と、大体2時頃に解散する。
色っぽいことは何ひとつ起こさないし起きる気配もない、ただひたすら飲んで愚痴って帰るだけの、健全すぎる飲み友達です。
そんな彼との初対面はホストクラブでした。
…と書くと、一気に雲行きが怪しくなるから不思議ですよね。
当時わたしは20歳。
クラブで働いていましたが、お店のキャストの半数以上がホス狂いで、”なぜこんなに綺麗な女性たちがこぞってホストにハマるのか”という純粋な(邪な)好奇心から、自分も一度経験してみたいと常々考えていました。
そんなとき同じ店の先輩(以下、まなさん)に誘われ、満を持して初来訪するに至ったのです。
まなさんは、お世辞にも顔が華やかなタイプではありませんが、素人枠みたいな感じで勤務している人でした。素朴さが良い!みたいな。
担当の宣材と自分の自撮りをコラージュして勝手に画像を作ったり、クラブ勤務のお給料だけでは足りず、夜職掛け持ちしてホスト通いを続けている、theホス狂い。
せっかくチャレンジするなら、より面白いことが起こりそうな相手と行きたいよね、がわたしの持論です。
店内に入るなり、慣れた様子のまなさんと、煌びやかさに圧倒される初心者のわたし。
居心地の悪さを覚えつつ、男本(死語?)から気になる人を選んでくださいと言われます。何を基準に選べばいいのかわからず、結局、まなさんが仲良くしているというヘルプからお任せでピックアップしてもらうことにしました。
程なくして、代わるがわるホストがついてくれたのですが、もれなくみんな触ってくる。膝が当たるとか、手を握るとかのレベルじゃない。
(ここ、なんのお店だったっけ?接客されてる?してる?お触りパブか??)
と困惑しながらも、笑顔でやり過ごすことに。
ただし、スカートの中に手を入れてこようとした奴だけは普通に足を踏みつけてやりました。
いくらホスト初心者と言えども、それは違うということは分かる、舐めるなよ。
一方、まなさんは担当ホストに夢中。
それはまぁいい、構造上仕方ないよね…。
ただひとつ問題があって。
この人、キャストへはおろか、担当にすらドリンクの類を一切出さないのです。
さすがに申し訳なくなって、わたしがドリンクを頼むと、えー、ホストで有料ドリンク出してる子初めて見たー!などと宣う始末。
いや、出すやろ。
こんなもん、出してなんぼやろ。
同じ接客業、しかも同じ夜職をしているはずなのに、この感覚のズレはなんなんだろうと、まなさんに対しての若干の違和感も覚えます。
そんな中、新たにわたしの席についた彼。
目がやたら大きくて、どこか見覚えがある顔。
…そう、ハリーポッターに出てくるドビーだ。
ドビーは悪い子!ってよく言われない?
めっちゃ言われるから、一周回って愛着湧いてる
なんて切り口からスタートしつつ、聞けば同じ年ということもあって会話も弾み、やっとまともな時間が来たと胸を撫で下ろしました。
しかしそれも束の間。担当が別卓へ行って手持ち無沙汰のまなさんが乱入してきます。
「久しぶりー!相変わらずイケメンだよねー!」と言いながら、やたらと彼の身体を触るのです。どんどん距離が近づき、最終的にはズボンにまで手が及びます。
まなさん、酔っ払いすぎですよー!担当さんに怒られますよー?なんて軽くいなしつつ、なんとも言えない空気が流れ始めた時、担当が戻ってきたことでまなさんの興味はそちらに移り、わたしは静かに安堵しました。
ナニとは言わんが恐らく守られた…。
当初の予定の2時間が経ち、そろそろ帰ろうと言うと、延長しよ!お金出すから!とまなさん。
断りきれず延長することに。
延長=わたしも誰かを指名しなければならず、どうしようと思索していると、「彼がわたしのお気に入りだから!」という鶴の一声でわたしの指名が勝手にドビーになりました。
もう…すきに、してくれ…。
心の中で叫んでみても声は届きません。
延長後は大きな事件もなく、わたしはとりあえずドビー()と連絡先を交換し、また来るねー、次は俺も千晴ちゃんのお店行くねーみたいな社交辞令を交わしていたところで、またしてもまなさんがぶっ込んできます。
「わたしも連絡先交換したい!」
いや、爆弾じゃねーか。やめとけ。
そしてお会計前のタイミング、担当とアフターができないことが分かるや否や、不貞腐れたまなさんが寝ました。
見事なまでのふて寝。って、ゆーてる場合か。
結果、その場はわたしが2人分を立て替え、「まなを連れて帰ってやって」と宣う担当さんに、大人なんで一人で帰れますよ。と告げ、置いて帰りました。というか逃げました。
---それが、わたしたちの最初の出会いです。
それから十数年が経ち、わたしとドビーは今でも、3ヶ月に一度くらいのペースで飲んでいます。(なんで)
あの1回以来、お互いの店を行き来することはなく、なぜか居酒屋とバーをはしごして適当に喋って帰るだけの飲み友達になりました。
わたしたちの間に恋愛感情はありません。
そもそも、お互い顔がタイプじゃないし。見れば見るほどドビーだし。
しかし、厄介なことに彼は現在ボーイズバーで働いていてそこそこ人気があるらしく、2人で歩いてるところを見かけたお客さんからたまに掲示板で「あの女誰?エース?」などと書かれることがあります。
店行ったことないのに?
本人曰く、そういうときは姉ですと答えているらしい。いつの間にかわたしまでハリーポッターの世界線にぶち込まれるようになりました。
そんな感じで、出会いはめちゃくちゃだったのに関係は驚くほど平和で、いまだに理由はよくわからないまま交流が続いています。
わたしが夜飲み歩く理由のひとつに、
普段であれば絶対に関わらないであろう人と人生が交わる瞬間があるから、というのがあります。
わたしの知的好奇心を満たしてくれる出会いや、はたまた何回噛んでも味がするガムみたいな出来事、誰かに喋りたくて堪らなくなるようなやばい人との交流まで、有象無象が交錯するカオスな夜の街がわたしは大好きです。
そして、一期一会であろうとそこからずっと続く関係であろうと、ひとつひとつがわたしの構成要素の一部になっています。
まぁ、中には本当に関わらない方がいい人も紛れ込んでたりするんで、半分博打みたいなもんなんですけど。ハイリスクハイリターン。
そしてわたしは大体その二分の一に負け続けている。負債を回収しきれません。
そんな夜の街で出会った彼とも、多分これからも特に何も起きないまま、人生何が起こるかわからないよねーなんて言いながら、居酒屋からバーに流れて、2時に解散するんだと思います。
あ、ちなみに当時ホストクラブでわたしが立て替えたお金は、勤務先のクラブ店長に泣きついて()全額返してもらいました。
めでたしめでたし。
