【奇跡】閉店したはずの🇹🇭バンコク名店と再会。5年ぶりに震えたガパオの味
「えっ 嘘だろ……」
思わず、ビールを運ぶジョッキの手が、ピタリと止まった。
バンコクの自宅。
何気なく眺めていたTJ氏のYouTubeに「あの二人が」。

そこに映し出されたのは、とうの昔に閉店したと思い込んでいた名店「ウタイ」のご夫婦だった。
思わず目を疑った。
5年以上前、日本人が多く行き交うプロンポンエリアにあったガパオの名店「ウタイ」。
コロナ禍の波に飲まれ、とうの昔に閉店したとばかり思い込んでいたあの店が、なんと別の場所でしっかりと息づいていたのだ。
まさに、奇跡のような偶然だった。
しかも、動画で紹介されている店舗は、今の家からバイクでふらりと行ける距離。
永遠に失われたと思っていた縁が、突然目の前に転がり込んできたような、不思議な巡り合わせだった。
こんなことってあるのだろうか?
——しかしこの時、私はまだ自らの「厄介な思い込み」の正体に気づいていなかったのである。
【再会】プロンポンから消えた名店「ウタイ」──5年を超えて
コロナ禍というとんでもない荒波を越え、あの店は生き続いていたのだ。
何ということだろう。
信じられなくて当たり前だ。
あの数年で、どれだけ数多くの店が姿を消してしまったか。
日本だけでなく、タイも同様だった。
あまりの多さに、贔屓の店がなくなることへの感傷はすっかりなくなっていた。
かつて通った数々の店の存在自体すら、次第に忘れてしまっていたのが事実である。
イサーン(タイ東北部)で暮らしていた3年弱は、近所に美味い「ガパオムーチン」を出す店があった。
この料理はカオマンガイ同様、必ず週に1回は食べるタイでのソウルフードだ。
にもかかわらず、バンコク郊外に移ってからのこの3年弱。
どうにも納得できる「ガパオムーチン」に出会えない日々が、続いていた。
そんな矢先の、画面越しの再会だった。
【路地裏の再会】迷い込んだ私を救った、お母さんの「サワディカー」
動画を見た翌日の昼。
はやる気持ちを抑えきれず、バイクを走らせた。
しかし、閑静な住宅街の入り組んだ路地に阻まれ、目当ての店がどうしても見つからない。
10分近くウロウロと彷徨っていた、その時だ。

「サワディカー」
不意に声が降ってきた。
店のお母さんだった。
迷子になっている日本人を見つけ、わざわざ外まで声をかけに来てくれたのだ。
「よく来てくれたね。どうして分かったの? TJ(の動画を見たの)?」
「そう、昨日YouTubeを見たんだ。家からバイクで来られる距離だったから飛んできたよ。5年以上、会っていないよね」
話を聞けば、コロナでどうにもならず、現在の住まいであるこの場所へ移転したのだという。
先週も動画を見た日本人が来てくれたが、やはりこのわかりにくい場所で迷っていたことなど、お母さんは次々と話してくれた。

「とにかくガパオが食べたいね。5年以上食べてないから」
「ムーサップ(ひき肉)?」
日本人とくれば定番のひき肉。
そう尋ねるお母さんに、私は首を振った。
「いや、ムーチン(スライス肉)で」
「ムーチンなんてタイ人になったみたいだね。タイ人はムーチン派だからね」
「今はタイに5年以上いるから。しかも3年近くはイサーン(東北部)だったし、タイ人仕様で」
すると、奥で調理中だった親父さんの顔がパッと綻んだ。
「えぇー! うちもスリン県の出身だよ」
「同じイサーンだ」

かつてはただの観光客と店員でしかなかった私たちが、突然の再会と「イサーン」というローカルな共通項で、5年の空白が一気につながった瞬間だった。
【衝撃】一口で脳が震えた。5年の空白を埋める「本物のガパオ」
やがて、奥から運ばれてきた一皿。
焦げたバジルの香りが、鼻腔を刺激する。
一口、口に運ぶ。
脳が震えた。
美味い。
それ以外の言葉が見つからない。
調理師資格を持つ端くれは、唸るしかなかった。
5年という歳月を、この一皿は一瞬で飛び越えてしまった。
昭和の頑固オヤジの舌を満たす「あの味」と再会できた瞬間だった。
店が生き残っていたことも奇跡だが、私の舌がこの味を完璧に記憶していたこと。
それもまた、一つの奇跡ではないだろうか。
筋書きのないドラマ 「メイク・ミラクル。」
まさに、このことだ。
一度火がついたB級食い道楽の執念は、恐ろしい。
5月27日を皮切りに、日本帰国を除けば20日弱で6回の訪問。
私はすっかりこの店に通い詰めている。
平らげた料理はすでに12品。

ガパオは
ムーチン、ムーサップ、タレー(海鮮)、イカ
その他はヤムウンセン、スキーヘン、カナームーグローブ、海鮮チャーハンに海鮮パッポンカリー等々。
【結び】人生を豊かにするのは、きっとこうした「縁」だ
もし、B級食い道楽の舌がこの奇跡的な再会をお膳立てしてくれていたのであれば、この舌も決して捨てたもんじゃない。
私の人生から「ウタイ」という物語が、永遠に消え去るのを防いでくれたのだから。
感謝の印に、しばらくはこの舌を「ウタイ」で存分に接待してやらねばならない。
高橋克典さんの番組『私が日本に住む理由』の中で語られる言葉がある。
「How strange life is.(人生とは不思議なもの)」
異国の地で、まさにこの言葉がピッタリの出来事を経験し、今さらながらに深く膝を打った。
失われたと思っていた味と再び出会い、なんだか5年前に戻り、若返った気がする。
【新たな物語】一人の客から常連へ。親父さんから届いた「挑戦状」
しかし、物語にはまだ続きがある。
実は先日、親父さんから挑戦状を受け取った。
「来週は自慢のゲーン・キャワーン(グリーンカレー)を用意するから、ぜひ食べてみてくれ」
観光客の一人から、常連へ。
魚を捌くことだけが得意な調理師だが、この挑戦を受諾しないわけにはいかない。
奇跡の再会から始まった物語は、今まさに新たなフェーズへ入ろうとしている。
果たして、このお付き合いはどのような展開になるのだろうか。
全く予測がつかない。

5年という月日は、街の景色を変え、多くの店を消し去りました。
それでも、変わらぬ味を守り続けてくれたご夫婦に、心からの敬意を。
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「ウタイ」以外にも、私が唸ったバンコクの味があります。
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