[014]命題・対偶・背理法による証明
数学の世界では、式変形による証明だけでなく、論理的な思考を使った証明方法が重要な役割を果たしている。
特に「命題と対偶」「背理法」は、数学の証明における強力な武器となる。
これらの証明方法は、まるで探偵小説のトリックを解くように、一見複雑な問題を論理的に解きほぐしていく面白さがある。
命題とは何か
命題とは、真か偽かがはっきり決まる文章のことである。
数学では「もし $${p}$$ ならば $${q}$$ である」という形の命題をよく扱う。
これを「$${p \Rightarrow q}$$」と表記することもある。
具体例1
「$${n}$$ が偶数ならば、$${n^2}$$ も偶数である」
これは命題である。なぜなら、この文章が真か偽かを確認することができるからだ。
実際、$${n = 2}$$ のとき $${n^2 = 4}$$ で偶数、$${n = 4}$$ のとき $${n^2 = 16}$$ で偶数となり、この命題は真である。
具体例2
「明日は晴れるだろう」
これは命題ではない。「だろう」という推測が入っているため、真偽がはっきりしないからである。
具体例3
「福山雅治は女である」
これは命題である。いやいや、女ではないでしょう??と思うところであるが、「真か偽かがはっきり決まる」のが命題であり、これは「偽である」ことがはっきりと決まるので命題である。
対偶とは何か
「$${p \Rightarrow q}$$」という命題に対して、「$${q}$$ でないならば $${p}$$ でない」という命題を対偶という。
記号で書くと「$${\overline{q} \Rightarrow \overline{p}}$$」となる。
重要なのは、元の命題と対偶は常に同じ真偽を持つということである。
つまり、元の命題が真なら対偶も真、元の命題が偽なら対偶も偽となる。
具体例4
元の命題:「$${n}$$ が偶数ならば、$${n^2}$$ も偶数である」
対偶:「$${n^2}$$ が偶数でないならば、$${n}$$ も偶数でない」
これを言い換えると:「$${n^2}$$ が奇数ならば、$${n}$$ も奇数である」
この対偶も元の命題と同様に真である。
対偶を使った証明
元の命題を直接証明するのが困難な場合、対偶を証明することで元の命題を証明できる。
これは数学における非常に強力な証明技法である。
具体例5
命題:「$${n^2}$$ が偶数ならば、$${n}$$ は偶数である」を証明しよう。
$${n^2}$$ からスタートして $${n}$$ について議論するのは結構厄介な内容である。
「$${n=7}$$ のとき $${n^2}$$ の値を求める」のは簡単であるが、
「$${n^2=7}$$ のとき $${n}$$ の値を求める」のはなかなか面倒である。
これからも分かるように、この命題を直接証明するのは少し面倒だが、対偶を使えば簡単になる。
対偶:「$${n}$$ が偶数でないならば、$${n^2}$$ も偶数でない」 つまり:「$${n}$$ が奇数ならば、$${n^2}$$ も奇数である」
【対偶の証明】 $${n}$$ が奇数とすると、$${n = 2k+1}$$ ($${k}$$ は整数)と表せる。
$${n^2 = (2k+1)^2}$$ $${ = 4k^2 + 4k + 1}$$ $${ = 2(2k^2 + 2k) + 1}$$
$${2k^2 + 2k}$$ は整数なので、$${n^2 = 2}$$ ×(整数)$${ + 1}$$ の形になっている。
したがって、$${n^2}$$ は奇数である。
よって対偶が成り立つので、元の命題も成り立つ。
具体例6
命題:「$${ab}$$ が無理数ならば、$${a}$$ または $${b}$$ は無理数である」を証明しよう。
これも、直接証明するのはなかなか大変なのである。なぜなら「実数のうち有理数でないもの」が「無理数」であるので、無理数を扱うのはなかなか難しいからである。
対偶:「$${a}$$ も $${b}$$ も有理数ならば、$${ab}$$ は有理数である」
【対偶の証明】 $${a}$$、$${b}$$ がともに有理数とする。
$${\displaystyle a = \frac{p}{q}}$$、$${\displaystyle b = \frac{r}{s}}$$ ($${p, q, r, s}$$ は整数、$${q \neq 0}$$、$${s \neq 0}$$)と表せる。
$${\displaystyle ab = \frac{p}{q} \cdot \frac{r}{s} = \frac{pr}{qs}}$$
$${pr}$$ と $${qs}$$ は整数で、$${qs \neq 0}$$ であるから、$${ab}$$ は有理数である。
よって対偶が成り立つので、元の命題も成り立つ。
背理法とは何か
背理法は、証明したい命題を否定した状態から出発し、矛盾を導くことで元の命題が真であることを示す方法である。
これは「これ、違うんじゃね??って思ったけど、それだとおかしくね??じゃあ、最初のが合ってたんだね!!」という論理である。
イメージとしては、迷路を遊んでいるときである。
スタートからゴールに向かう道を探すのだが、左右の分かれ道に差し掛かったとき、どちらに向かうか。
右に向かう道はよく分からないが、左に向かう道はちょっと行くと行き止まりになっていることが分かった。
この場合、$${100}$$ 人に聞けば $${100}$$ 人が右に進むだろう。
これが背理法の考え方である。
「左に行けばいいんじゃね??でもちょっと進んだ道を探ってみると行き止まりじゃね??じゃあ、右に進めばいいんだね!!」
背理法の手順は次の通りである:
$${1.}$$ 証明したい命題を否定する
$${2.}$$ その否定から論理的に結論を導く
$${3.}$$ 矛盾が生じることを示す
$${4.}$$ したがって、否定が間違っているので、元の命題が正しい
具体例7
命題:「$${\sqrt{2}}$$ は無理数である」を背理法で証明しよう。
【背理法による証明】
$${1.}$$ 否定を仮定する:「$${\sqrt{2}}$$ は有理数である」と仮定する。
$${2.}$$ 論理的帰結を導く: $${\sqrt{2}}$$ が有理数なら、互いに素な正の整数 $${p}$$、$${q}$$ を用いて $${\displaystyle \sqrt{2} = \frac{p}{q}}$$ と表すことができる。
両辺を $${2}$$ 乗すると: $${\displaystyle 2 = \frac{p^2}{q^2}}$$
両辺に $${q^2}$$ を掛けると: $${2q^2 = p^2}$$
これより $${p^2}$$ は偶数である。
「具体例5」より、$${p^2}$$ が偶数なら $${p}$$ も偶数である。
$${p}$$ が偶数なので、$${p = 2r}$$ ($${r}$$ は正の整数)と表せる。
$${2q^2 = (2r)^2 = 4r^2}$$
両辺を $${2}$$ で割ると: $${q^2 = 2r^2}$$
これより $${q^2}$$ は偶数である。
したがって $${q}$$ も偶数である。
$${3.}$$ 矛盾を見つける: $${p}$$ も $${q}$$ も偶数ということは、$${p}$$ と $${q}$$ は $${2}$$ という共通の約数を持つ。
これは「$${p}$$ と $${q}$$ は互いに素」という仮定に矛盾する。
$${4.}$$ 結論: 矛盾が生じたので、「$${\sqrt{2}}$$ は有理数である」という仮定が間違いである。
したがって、「$${\sqrt{2}}$$ は無理数である」が正しい。
具体例8
命題:「素数は無限に存在する」を背理法で証明しよう。
【背理法による証明】
$${1.}$$ 否定を仮定する:「素数は有限個しか存在しない」と仮定する。
$${2.}$$ 論理的帰結を導く: すべての素数を $${p_1, p_2, p_3, \ldots, p_n}$$ とする。
$${N = p_1 \times p_2 \times p_3 \times \cdots \times p_n + 1}$$
という数 $${N}$$ を考える。
$${N}$$ は $${1}$$ より大きいので、何らかの素数で割り切れるはずである。
しかし、$${N}$$ を任意の素数 $${p_i}$$ で割ると、余りは $${1}$$ になる。
$${3.}$$ 矛盾を見つける: $${N}$$ はどの素数でも割り切れないが、$${N > 1}$$ なので何らかの素数で割り切れなければならない。
これは矛盾である。
$${4.}$$ 結論: 矛盾が生じたので、「素数は有限個しか存在しない」という仮定が間違いである。
したがって、「素数は無限に存在する」が正しい。
論理的証明の使い分け
これまで見てきた証明方法には、それぞれ適した場面がある。
対偶による証明は、元の命題の「否定」を扱う方が簡単な場合に有効である。
特に「〜でない」や「〜以外」という条件が証明しやすい状況で力を発揮する。
背理法は、直接証明が困難で、かつ仮定の否定から明確な矛盾を導ける場合に有効である。
「無限」や「存在しない」といった概念を扱う場合によく使われる。
また、背理法は証明の過程で新しい洞察を得られることが多く、数学的発見につながることもある。
まとめ
命題・対偶・背理法は、数学における論理的思考の基礎である。
これらの証明方法を身につけることで、複雑な数学的問題に対しても体系的にアプローチできるようになる。
式変形による証明が「計算の技術」だとすれば、論理的証明は「思考の技術」である。
両方を使いこなせるようになることで、数学の真の面白さと美しさを味わうことができるのである。
証明は単なる「答えの確認」ではなく、真理に至る道筋を論理的に構築する創造的な活動なのである。
