[映画]『シビル・ウォー アメリカ最後の日 (IMAX)(アレックス・ガーランド監督/2024)』

データ
原題: Civil War
監督: Alex Garland
製作年度: 2024
製作国: イギリス=アメリカ合作
アスペクト比: 1:1.85f
時間: 1h49
公開日: 2024年10月4日
鑑賞日: 2024年10月9日
配給:ハピネットファントム・スタジオ
はじめに
mixiの2024/10/09掲載分を転載、修正、追記しています。この日は午前中に人間ドックを終えて、その足で浦和に移動して、ガラガラのIMAX劇場で鑑賞しました。
感想
この作品においてはあまり意味をなさないが、設定を整理すると、近未来のアメリカを舞台に独裁的な大統領に対抗するためにテキサスとカリフォルニアによる「西部勢力」とフロリダ~オクラホマの「フロリダ連合」が反旗を翻し、国内は内戦となる、というもの。
4人のジャーナリストが主人公で、マスコミをシャットアウト(弾圧)している大統領に独占インタビューするためにニューヨークからワシントンD.C.まで車での移動を始める。
このジャーナリストたちのニュートラル(実際はそうでもないのだがジャーナリストの根底としてのニュートラル)な視点で内戦状態のアメリカを描いていく。
前述の設定に拘ると(つまり通常の戦争映画やディストピア映画を期待すると)つまらないのではないかと思う。銃撃戦は散発的だし、勇壮な音楽もなく、何よりも"悪政を倒す"ドラマティックな革命ドラマとしては描いていないので、目前の出来事をどう解釈すべきか常に困惑させられる。
主人公達は困惑し、それがそのまま観客の困惑でもあるのだ。
印象に残ったシーンが二つある。
主人公たちの乗っている車が狙撃され慌てて建物の陰に隠れる。と、すぐそばにライフルを構えた兵士が二人いる。兵士たちも遠く離れた狙撃兵に狙われ身動きが取れない状況らしい。
ここで主人公の一人ジョエル(ワグネル・モラウ)が兵士に狙撃兵が政府側なのか反政府側なのか、兵士たちの所属はどこかを尋ねる。と、兵士は相手が何者かは知らない、撃ってきたから撃ち返している、と答える。
また主人公たちが銃を持った男たちがガードしているガソリンスタンドに立ち寄った際に二人の血まみれの男たちが吊るされているのを目撃するシーン。何をしたのか聞くと男はライフルをなでながら"盗みを働いた"と答え、高校時代の同級生だが当時はまったく口もきいたことはない、と答える。
前者は政府軍とか反抗勢力とかの組織立った立場での攻防戦ではなく、疑心暗鬼となった者同士の突発的な撃ち合いに過ぎない。距離が離れているため仲間同士で撃ち合いをしている可能性もある。
後者は(男いわく)盗みを働いた顔見知りを自らの正義の元、痛めつけ、吊るしあげる。そしていつ処刑するかでもめている。自警団ならではの暴走である。
政府を倒す、とか、政府を守る、といった大義名分を免罪符にして、やりたい放題をする連中が大量発生するだろうという予測に立ち、ジャーナリストたちの視線を通して描くことがこの作品が目的のひとつであり、その背景にあるのはトランプ支持者たちによる議事堂襲撃なのだろう。
二極化が進んだアメリカは一触即発な状況であることを示唆し、いったん立ち止まりクールダウンすること、互いを拒絶するのではなく議論をすることに立ち返ろうと訴えているように感じられる。
もうひとつのテーマはジャーナリズムの復権である。内戦下で既にジャーナリズムは無力化している。そんな中で、主人公である著名なジャーナリストのリー・スミス(キルステン・ダンストが素晴らしい!)が大統領へのインタビューという特ダネを求めて危険を顧みず修羅場へ向かうのだが、DCに辿りつき、リンカーン記念堂での銃撃戦を目撃した結果、報道の意味、目的を失う。
いきつくところまでいってしまった状況(DCでの銃撃戦)でジャーナリストに何の力があるか…リーはジャーナリストとしての無力さを痛感する。
権力に迎合し弱体化したジャーナリストに何ができるのか。ジャーナリストが身近な環境で生まれ育ち、海外特派員を目指して世界を廻った(結局バックパッカーの経験で『ザ・ビーチ (The Beach/1999)』のシナリオを書いて映画界入り)アレックス・ガーランド監督のジャーナリズムへの諦めきれない希望をリーに投影したという。
なおこの作品は意図的にスマホやSNSは出てこない。具体的な説明はされていないが通信手段は途絶えているという設定なのだろう。冒頭のニューヨークでリーの「wifiがクソ遅い」と呟いたり、いつ停電するかわからないのでエレベーターの利用を停められるシーンがあるので、そういうことなのだろう。ただガーランド監督がSNS(X)を極端に嫌っているということも遠因しているのかも。
ラストはちょっと色気を出した気がする。アクション映画ギリギリな展開になってしまったし、戦場カメラマン志望のジェシー(ケイリー・スピーニー)の成長譚に寄ってしまったのもバランス悪く感じた。
主人公たちが様々な出来事にカメラを向ける際にモノクロの静止画の連続となる。シャッター音がついていたかどうかは記憶にないが、この昔ながらの演出法が健在なのはご愛敬か。
今年一番の力作でした。ハリウッド娯楽大作風のサブタイトルだが、くれぐれも『エンド・オブ・ホワイトハウス (Olympus Has Fallen/2013)』のような活劇を期待しないように。
追記: 報道 (25/9/20)
後半がジェシーの成長譚に寄ってしまったことがブレーキに感じたのは、ジェシーの描き方に多少遠慮があったのかもしれない。修羅場を(それもアフリカや中東ではなく自国アメリカで)乗り越えていくたびが戦場カメラマンとして成長していく…という描き方だが、成長ではなく、感覚が麻痺しているだけなんだろうな。ジェシーが一人前になることが良いことなのか、ラストで大統領にわざわざ命乞いさせてから処刑させるジョエルは正しいのか。
一方で世界各地の修羅場を体験してきたリーは、よもや自国で戦場(それも同じアメリカ人同士の殺し合い)を取材するとは…というショックを受ける。報道が世の中を良い方向に変えていく手段と信じて各地を渡り歩いてきたが、母国内の内戦を停めることはできなかった…その無力感。
追記: エンディング (25/9/20)
監督の製作意図は"If…"を映像化することなので、このD.C.の戦闘シーンは色気を出したと感じてしまった。他にもっと適した終わり方は無かったかな…と思った。例えば一行がD.C.に着いたら既に大統領が処刑されていた…という終わり方。
実際、大統領が処刑されたところで内戦が収束するのか謎なので、終わりようのない地獄巡りにひとつオチをつけたのが今回の描写なのかもしれない。
追記: ジェシー・プレモンス (25/9/20)
公開前から話題になったジェシー・プレモンスのカメオ出演シーン。吐き気を催すようなシーンだったが、その後でXで見かけたプレモンスの投稿にちょっと救われた。
Civil War (2024) | Behind the Scenes
— DVDXtras (@DvdXtras) July 10, 2024
Jesse Plemons immediately after filming the intense mass grave scene: "I felt dirty in my soul." pic.twitter.com/gb5Nl0uwee
追記: 雑念 (25/9/20)
公開時にタイム誌で"暗い未来をでっちあげ、我々に突き上げる映画が本当に必要か?しかもIMAXで"と否定的なレビューがあった。1年経ったいま、執筆者のStephanie Zacharekは現状をどう思っているのだろう…。

