式神のまなびや1-3
縁側で、おやつの団子を頬張る子供たちをアキラ先生が見守る。
そこから少し離れた場所で座って書を書いている少年がいる。
かなり集中しているようで、周りの景色や先生の声にも気がついていないようだ。
先生も、いつものことと解っているので無理やり声をかけたりはしない。
「白峰…おやつ食べないのかな。もらっちゃう?」
「ダメだよ、いまお勉強中なんだから」
「だって…興味なさそうじゃん」
「それでも、後から食べるかもしれないし。その時になかったら悲しいでしょ」
「お前は団子が食べたいだけだろう」
カナタが呆れたように言う。
そんなやりとりをしていると、襖が少し開く。
先生の式神である白狐のユキが入ってくる。
そして、アキラのそばで耳打ちする。
「近くの集落でレンの者を見たという情報が…」
「レン…あぁ、わかった」
レンの者については、よく解ってはいない。
大人たちがたまに話題にしているが、実際に会ったという話は聞かない。
「レンの者?」
ぽつりと呟いたのは、いつの間にか筆を止めていた白峰だった。
アキラは少し驚く。
近くにいたのか。
いや、聞こえてしまったのだろう。
「先生たちのお話です。みんなは気にしなくて大丈夫ですよ」
そう言って微笑む。
だが白峰は黙ったまま視線を落とした。
手元の半紙には、書きかけの文字がある。
『静』
まだ最後の一画が書かれていない。
「ねぇ、白峰」
こはるが団子を一本差し出した。
「食べないなら、これもらっちゃうけど」
「……食べる」
即答だった。
「ほらぁ!」
「だから言っただろ」
カナタが呆れる。
白峰は受け取った団子をしばらく見つめる。
それから一口だけ食べた。
「美味しい?」
こはるが聞く。
「普通」
「普通じゃわかんないじゃん」
「甘い」
「それも普通だよ」
「じゃあ、美味しい」
「最初からそう言えばいいのに」
こはるが笑う。
白峰は少しだけ首を傾げた。
何が面白いのかわからない。
そんな顔だった。
その様子を見ながらアキラは安堵する。
白峰あおは優秀だ。
同年代の誰よりも物覚えがよく、式神学の成績も良い。
だが時々、不安になることがある。
あまりにも感情を表に出さない。
悲しい時も。
嬉しい時も。
怒る時でさえ。
どこか一歩引いた場所から見ているような。
そんな印象を受けることがあった。
「レンの者ですか」
ユキが小さく呟く。
「ええ」
「白峰によく似ていますね」
「ユキ」
アキラは少し困った顔をした。
「そういう言い方はよくないよ」
「事実です」
「事実でもだよ」
ユキは黙る。
しかしその金色の瞳は白峰を見ていた。
白峰は団子を食べながら、ぼんやりと空を見上げている。
その表情は静かだった。
あまりにも静かで。
まるで何かを諦めているようにも見えた。
