式神のまなびや2-1
背後の壁を利用して反動で跳び、刀に力をのせる。
横に回転して、下段に持ちかえる。
相手の隙を的確にとらえる太刀筋。
「すいません、いきます」
飛騨の身長の高い少年が防戦に徹する。
その間にも、回転、また回転。
まことの身のこなしには、キレがある。
普段は温厚で、どちらかというとおっとりしてるように見えるが力に任せない技術をもっていた。
同じタイミングで、カナタも比叡の女性と稽古をしていた。
手足の長さとリーチに苦戦する。
さらに、相手はだんだん調子をあげるタイプらしく何度か危ういタイミングがある。
「そんな闘いかた、道場でしか通じないよ、ほらほら、足場!」
「ふらついてる!稽古足りないんじゃないの?」
辛辣な檄がとぶ。
恐らくしかも、年下に見える。
余計なことばかりカナタは考えてしまう。
「実戦なら死んでる」
容赦がない。
「くっ……」
「それに」
少女が木刀を肩に担ぐ。
「焦ってる」
カナタの眉が動く。
「別に」
「焦ってるよ」
即答。
「わかりやすいもん」
周囲から笑い声が上がる。
「飛騨の連中はそういうの見抜くからなー」
「顔に出てるぞ」
カナタは歯を食いしばる。
視界の端。
またまことが見える。
飛騨組の上級生と話している。
楽しそうに。
自然に。
そこにいる。
『一人では生きていけないからだ』
九条先生の言葉が蘇る。
わかっている。
仲間だ。
友達だ。
まことが努力していることも知っている。
だから、認めなければならない。
だが、胸の奥にある感情は。
そんな綺麗な言葉だけでは片付かなかった。
悔しい。
その感情を認めた瞬間。
箱の中で、何かが小さく脈打った気がした。
誰も気付かない。
カナタ自身でさえ。
ただ、森のどこかで、何かが笑った。
「おい、どこいくんだよ」ふらふらと、集団から離れようとしていた女の子に声をかける。
「えーと、あっちに、きれいなお花があるの」
「離れたら危ないだろ」
「ごめんなさい」
女の子はそういいつつも気が逸れている。
ちらりと見ると、我関せずという風に本を読み耽る白峰。
「くそー、また僕だけ子守りかよ」
多賀は頭を掻いた。
女の子の手を引く。
「花なんか後で見ればいいだろ」
「でも、きれいなの」
「知ってるよ」
「じゃあ一緒に見よ?」
「だめ」
「なんで?」
「だめだからだめ」
女の子は不満そうに頬を膨らませる。
その時。
「やーい!」
向こうで男の子たちの怒鳴り声が聞こえた。
「返せよ!」
「やだね!」
案の定である。
「おいおいおい……」
多賀は額を押さえた。
年少組の男の子二人が取っ組み合いになっている。
その横では、白峰が本を読んでいた。
何事もないように。
まるで風景の一部みたいに。
「白峰!」
呼ぶ。
返事がない。
「おい!」
ようやく顔を上げる。
「なんですか」
「なんですかじゃねぇよ!」
「喧嘩してるだろ!」
白峰は男の子たちを見る。
三秒ほど見た。
「していますね」
「見りゃわかるんだよ!」
「止めないのか」
「多賀くんが止めます」
即答だった。
「なんでだよ!」
「得意でしょう」
「そういう問題じゃない!」
白峰は少し考える。
本当に少しだけ。
「では、私が行きますか」
「いや、いい!」
「そうですか」
再び本を開く。
「お前なぁ……」
多賀は深いため息をついた。
だが、白峰は本から目を離さないまま言う。
「右の子が泣きます」
「は?」
「あと二十秒くらいで」
多賀が振り返る。
「ばか!」
「いたっ!」
案の定。
男の子の一人が尻もちをつく。
泣き顔になる。
「ほら」
白峰はページをめくる。
「だから先に左を押さえた方が効率的です」
「効率で子供見るな!」
多賀は叫びながら二人の間に割って入った。
その様子を見て。
白峰は少しだけ口元を緩めた。
誰も気付かないくらい。
ほんの少しだけ。
