貨物メインのフェリーに運ばれて四国へ行った話
貨物船にひっそりと忍び込んで、密航……という展開は創作では度々見かけるが、現実には当然ながら許されていない。……はずなのだが、なんと現実にも「貨物メインだけどついでに客も乗せる」という、合法的にそれっぽい体験ができてしまうフェリーが存在する。
それがオレンジフェリーによる新居浜-東神戸航路だ。

一般旅客はあくまでついで扱いであるため、休日運航なし・最寄り駅からの送迎なし・ネット予約なし・レストランなし……と、ないない尽くし。普通の旅行者にとっては不便の極みであるが、私のような捻くれ者トラベラーにとってはむしろご褒美である。
そんなフェリーに、わざわざ乗りに行ってきたというのが今回の話だ。
そもそもどんなフェリー?
オレンジフェリー自体はそこそこ有名な会社だ。大阪南港と愛媛県の東予港を結ぶ夜行便は、設備のわりに安価な高コスパ航路として知られているほか、愛媛西部の八幡浜と大分東部の臼杵を結ぶ短距離航路も運航している。
一方で新居浜-東神戸航路は上記2航路の陰でひっそりと運航されており、公式サイトでも若干探しづらい場所にいる。(関西航路を選択後、下にスクロールすると現れる)

ダイヤもなかなか癖が強い。新居浜行きは夜行便で、東神戸を深夜 1:20 に出発し、到着は 8:20。距離が短いゆえに夜行便としては時間があまりなく、睡眠時間を確保しづらいのが難点である。
ちなみに逆方向は新居浜を 16:20 に出て東神戸 23:40 着。終電ダッシュに成功すればギリギリ大阪や西明石まで行ける……というハードモード。

なお、運賃は特別安いわけでもない。ここまで条件が揃うと、「一般客は本当に乗っているのか?」という疑問すら湧いてくる。
まずは予約
前述の通り、ネット予約は受け付けていないため電話で予約。
私「すみません、新居浜行きのフェリーを予約したいのですが」
オペレーターさん「貨物メインの船ですが大丈夫ですか?」
私「大丈夫です」
オ「アクセス悪いですが大丈夫ですか?」
私「はい」
オ「レストランもありません」
私「はい(なんかめっちゃ心配されているな……)」
……といった感じで、明らかに普通の旅客フェリーとは違うぞという警告を受けながら予約に進んだ。なお、支払いは当日現金のみである。
そして当日
というわけで当日。ガッツリ残業をしてから、帰宅ラッシュも完全に終了した神戸線で住吉駅へ。

東神戸港は六甲アイランドにあるため、住吉から伸びている六甲ライナーに乗り換える。

六甲ライナーはゆりかもめなどと同じ無人運転の新交通システム。力強い加速を感じながら高架からの夜景を楽しむ。

やがて地面が途切れ、海を渡ると……

六甲アイランドに上陸。島は完全に工業地帯だと思っていたのだが、意外にも中央部には高層マンションが林立しており、六甲ライナーの利用客もそこそこいた。

ただ、ほとんどはアイランドセンター駅で降りていき、終点のマリンパーク駅まで乗っていた人は少なかった。

というわけで、これにて六甲ライナー完乗である。

この先は車庫への引き上げ線になっているようだ。

駅を出ると、ちょうど引き上げ線を渡る列車を目撃した。

そのまま先へ進んでいけばマリンパークに出れるのだが、今回は時間的にあまり余裕がなかったため真っ直ぐフェリー乗り場へと向かうことに。

……ところで余裕がないと言いつつ、実はこの時点でかなりの寄り道をしている。なぜなら、フェリー乗り場の最寄りは徒歩 25 分のアイランド北口駅であり、マリンパーク駅では徒歩 39 分もかかってしまうため、終点まで来る必要は一切ないからだ。

つまり、六甲ライナー乗りつぶしのためにわざわざ終点まで寄り道しているのである。「なら、アイランド北口駅まで折り返せば良いのでは?」と思うかもしれないが、私は来た道を戻りたくない原理主義者なので、徒歩14分くらいの加算であれば歩いてしまうのだ。

ちなみに、私はこのような行き止まり駅から折り返さずに脱出することを盲腸線ワープと呼んでおり、今までも盲腸線ワープを旅程に組み入れた旅をしてきている。実は今回のオレンジフェリーも「六甲ライナーからの脱出ルート」を兼ねていたりするのだ。
徒歩移動
深夜ゆえに広々とした道路を走る車はほとんどなく、傘を叩く雨粒の音が響くばかりであった。

で、そんな道を延々と歩くのも退屈なので遊歩道へと入ってみた。

街灯が点々と続く無人の道というのは、なかなか雰囲気がある。……が、未舗装区間もあり、雨の影響で靴が容赦なく汚れてしまった。風情と引き換えにコンディションを失うタイプの選択である。

この遊歩道を境に工業地帯と居住エリアが分かれているようで、横を見上げると高層マンションがそびえている。

ちなみにこのあたりでちょうど日付が変わった。普段ならベッドにいる時間に、雨の街を歩いている。それだけでも妙な高揚感があるのに、残業明けときているのだからテンションは無駄に高い。

遊歩道の北端に到達したので、ここからは普通の道路を歩く。振り返ってみるとこんな感じで、木に覆われた遊歩道の脇を車道が並行している。

北側の大通りは大型トラックの往来もそこそこあった。おそらく、新居浜からフェリーでやってきたコンテナがここから各地へ散っていくのだろう。道沿いのコンビニもトラック運転手御用達な感じだった。

さらに進み、巨大駐車場っぽい敷地の横を通り抜けていく。写真には撮らなかったが、貨物と思われる乗用車が大量に置かれており、この島の人口よりも車の数の方が多いのではないかと思ってしまうほどだ。

そしてフェリー乗り場に到着……かと思いきや、こちらはさんふらわあの東神戸-大分航路。すでに健康的な時間に出港済みのため、辺りは完全に静まり返っている。

目的のオレンジフェリーはさらに奥の方。阪九フェリーの案内に従って進めば良い。

で、阪九フェリーの入口をスルーするとようやく到着。

奥では出港に向けて貨物の積み込み作業が行われており、トラックの走行音や誘導の笛の音が響いていた。人よりも貨物が主役であることが一目で分かる光景だ。

その脇にあるちまっとしたフェリーターミナルへ入ると、これまた昭和の香りが漂う受付。

必要事項を紙に記載して受付終了。

ちなみに受付終了時の時刻は 0:30。一般的なフェリーのノリで出港1時間前くらいを目安に到着したが、この船は徒歩で直接乗船はできず送迎車で車両甲板に直輸送されるため、ここで待ちぼうけをくらうことに。

1時くらいに送迎車がやってくるとのことだったので、時間潰しに周囲をうろうろ。マリンパーク、普通に寄れたな……。

それにしても雨の中を 40 分も歩いたのだから休んでいればよいものを、落ち着きのない人間である。

そして 0:45 くらいに散歩から戻ってくると、送迎が予定より早かったようで探されてしまっていた……。う~む、これはやらかし。
乗船
というわけでトラックの積み込みに紛れて車両甲板へと突撃。いやはや、徒歩乗船が不可能というのはなかなか面白い。

そしてそのままエレベーターで上がると旅客エリアに到着。

エレベーターは乗降時しか使えないため、デッキに出るなどといったことはできずこのフロアで過ごすことになる。

ロビー横にはフェリーにありがちな座席スペース。

そしてレストラン。残念ながら現在は営業休止中だが、机や椅子は自由に使用できる。

その一角には自販機コーナー。まさに船旅といった感じの雰囲気。

ロビーから奥に進んでいくと客室。

二等寝台室はこんな感じ。今まで夜行フェリーではカプセルホテル的な寝台しか使ったことがなかったため、個室なのはちょっと新鮮だ。……といっても、鍵はかからないタイプのようだが。

船の揺れで椅子が移動しないよう固定されているのも、船旅感があるなあ。

ちなみにこの日の一般客は私1人で、他にはトラックの運転手さん1人だけという閑古鳥も大合唱な状態。そのためか、女性用のお手洗い・浴室は閉鎖されていた。なお、一般客とトラック運転手は寝室が別れているようだ。

そんなこんなで船内の散策を終え、大浴場で体を暖めてから就寝した。

瀬戸内海ゆえに波は穏やかだったが、エンジンの振動とドアの共振音が地味に気になり、あまり熟睡はできなかった。睡眠時間を潤沢に確保できる運航スケジュールではないため、睡眠の質まで悪いのはちょっと困りものだ。
翌朝
というわけで若干の睡眠不足を感じながらのこのこ起床。外はいまだ曇天だが、雨は上がったようだ。

自販機にてカップヌードルを購入し、持参してきた軽食と共に朝食とした。カップヌードル、何年ぶりに食べただろうか……船の中だと雰囲気も相まって妙においしいなあ。

そして景色は……まあ、あまり良くない。

ただ西の空にはわずかに晴れ間が見え、天気の回復には期待できそうだ。

身支度を整えていると、やがて陸地が近づいてくる。目の前に見えているのは伊予大島だ。

伊予大島を過ぎると新居浜港の工業地帯。景色が自然から人工物へと一気に切り替わるコントラストがなかなか面白い。

そのままゆっくりと接岸していく。時間通りの運航である。

下船
下船時も送迎車に乗ることになる。改めて車両甲板を見回すと、トレーラーの荷台部分だけのトラックが目に付く。乗船したトラック運転手が1人だけということは、車体だけ船で運んで港との陸路は別々の人で移動するという運用が一般的なのだろう。こうして日本の物流が支えられているのだなあと感心した。

で、さくっと降ろされて終了。余韻を残さず、ぱっと船旅が終わるこの感じが逆に趣深い。

「タクシーは予約されていますか?」と聞かれたが、「いえ、歩いて駅まで行きます」と答えた。神戸東港と同様にアクセスは悪く、最寄り駅の多喜浜駅までは徒歩 34 分である。
噛み合わないダイヤ
実はここから松山方面へ向かう場合は、ダイヤが絶妙に噛み合っていないので注意が必要だ。次の松山方面の列車は 8:42 に多喜浜を出るため、港に 8:20 着のスケジュールでは徒歩移動は不可能(全力ダッシュすればいけるかもだが……)。なので現実的にはさらに次の便となるのだが、なんと1時間以上も開いて 9:57 発という地獄。
「じゃあ多喜浜ではなく特急停車駅の新居浜駅へバスで向かえばよいのでは?」と思ってバスを調べると、徒歩 23 分のバス停を 8:46 に出るバスがあり(非常にタイトだがギリ間に合う)、これに乗ると 9:00 に新居浜着。そして新居浜を松山行き特急が 9:01 に出る……って、いやいや絶対乗り継げないだろこれ!!!
この絶妙に噛み合わないダイヤ、もはや芸術的ですらある。松山方面へ急ぐなら、素直にタクシーに課金すべきだ。なお、逆方向は 9:05 に高松行きの快速が多喜浜を出るため、わりとピッタリ接続できる。
再び徒歩移動
で、私は松山方面へ向かうものの特に急いでいなかったため、ぶらぶら寄り道しながら1時間半もかけて駅へと向かうことにしたというわけだ。

港周辺は工業地帯然としているが……

少し離れると牧場があったりと、急にのどかな風景が広がる。

……それにしても、馬がやたらこちらを見てくるのはなぜなのか。

道中、なにやらローカルな神社を発見。

小高く盛り上がった地形の上にぽつんと建っており、なかなか味のある立地である。

上から見た新居浜の景色。

で、ここよりもさらに景色の良い場所として垣生山という低山があるらしく、登ってみることにした。……のだが登山道の入口を間違えてしまい、延々と山頂へたどり着かず景色を展望できないまま戻って来ることになってしまった。

正しい入口から登りなおしても良かったのだが、体力も気力も失ってしまったため、そのまま駅へと向かうことに。これはなかなかの大失敗である。入口の場所は事前リサーチで調べてあったのだが、やはり睡眠不足だと記憶力と判断力が落ちてしまうようだ。

港の雰囲気を感じるエリアを通り抜けていくと、今度は住宅街が広がる。

なにやら大きなお寺。

……の脇にある、小さな用水路と細道。

裏路地が大好物の私は大喜びでこの道を歩いた。

……といった感じでぶらぶら街歩きをしながら多喜浜駅に到着。

ここからは四国鉄道旅が始まるが、フェリー旅としてはここまでになるため一旦区切りたい。
おわりに
今回利用した新居浜-東神戸航路は正直なところあまり利便性は高くないが、それゆえに乗客も少なく独特の雰囲気があり、「貨物のついでに運ばれている」という大変面白い経験ができた。送迎車で乗り降りするスタイルも含めて、日本のフェリーの中でもかなり異色の存在である。
もし興味を持った方がいれば、ぜひ旅程を調整して組み入れてみてはいかがだろうか。
……といったところで今回はここまで。
