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トランプ関税の96%はアメリカ人が払っていた

「外国に払わせている」はずの関税。2500万件の取引データが暴いた現実は、その逆だった。

誰が払っているのか

2000億ドル(約31兆円)。

2025年、アメリカの関税収入が前年から増えた額だ。トランプ政権はこれを「外国からの富の移転」と呼んだ。国内産業を守りながら、外国から金を巻き上げる。一石二鳥の政策——というのが公式見解だった。

だがドイツのキール世界経済研究所が、2024年1月から2025年11月までの約4兆ドル相当、2500万件以上の取引データを分析したところ、現実はまったく違っていた。関税コストの96%がアメリカ国内で負担されていたのだ。

外国輸出業者が吸収した関税はわずか4%。残りはすべてアメリカの輸入業者と消費者の財布から出ている。「外国に払わせる」という政策の看板は、数字の前に静かに崩れ落ちた。

研究を率いたジュリアン・ヒンツ氏は、これを「オウンゴール」と表現した。サッカーでいう自殺点。相手のゴールを狙ったはずのボールが、なぜか自分のネットに吸い込まれる。2500万件の船荷記録が、その軌道を克明に描き出している。

価格は下がらない。量が減るだけ

関税の狙いは明快だった。高い関税をかければ、外国の輸出業者は売り上げを維持するために値下げするはず。その差額がアメリカの利益になる——理論としては美しい。

現実は違った。

2025年8月、ブラジルへの関税が50%に、インドへの関税が25%から50%に突然引き上げられた。研究チームはこの「自然実験」を詳細に追跡した。関税が一気に上がったとき、輸出業者は何をしたか。

インドの輸出業者がとった行動は、値下げではなかった。アメリカへの輸出額と輸出量を最大24%減らし、単価は据え置いた。ヨーロッパやカナダへの輸出価格と比較しても、対米価格だけが下がるという現象は起きていない。

「マージンを削って量を維持するか、量を減らしてマージンを守るか。ほとんどの輸出業者は後者を選んだ」と研究は指摘する。

この選択は、考えてみれば合理的だ。一時的な政策変更のために利益率を犠牲にすれば、元に戻ったとき価格を再び上げるのは難しい。一度下げた価格は「正常」になってしまう。ならば量を減らして待つ方がいい。輸出業者にとって、アメリカ市場は「何としても維持すべき」唯一の市場ではなかった。

その結果、アメリカの消費者の前に並ぶ商品は減り、選択肢は狭まり、価格は上がった。関税は、守ろうとした国民を直撃した。

消費税という名前の関税

研究が突きつける結論は、不快なほど単純だ。

関税は「外国への制裁」ではなく、「国内への課税」として機能している。

輸入品に関税がかかれば、輸入業者がそれを払う。輸入業者はコストを小売価格に転嫁する。最終的に財布を開くのは消費者だ。この連鎖のどこにも「外国が負担する」余地はない。4%の例外を除いて。

関税収入が増えれば増えるほど、それはアメリカ国民から吸い上げた金額が増えたことを意味する。政権が誇る2000億ドルの増収は、言い方を変えれば2000億ドルの増税とほぼ同義だ。実際、研究者たちは「関税は消費税として機能している」と明言している。

それでも関税は続く

皮肉なことに、この研究が発表された直後、トランプ大統領は新たな関税を発表した。グリーンランド購入に反対する8カ国のNATO同盟国——デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランド——に対し、2月1日から10%、6月1日から25%の関税を課すという。

「外国に払わせる」という主張が96%否定された翌日に、新たな関税が発動される。この構図は何を意味するのか。

関税には貿易交渉の圧力という側面もある。「従わなければ関税を上げる」という脅しは、確かに交渉の道具だ。だが「誰が払っているか」という事実認識が間違っていれば、戦略の土台そのものが揺らぐ。自分が苦しんでいることに気づかないまま相手を脅しても、駆け引きにはならない。

EUは報復措置として1080億ドル規模の対抗関税を検討している。報復が報復を呼ぶ構図は、かつて世界恐慌を深刻化させた歴史を思い起こさせる。

一方、アメリカの最高裁判所は、関税の合法性について近日中に判決を下す見通しだ。11月の口頭弁論で裁判官らは政権の主張に懐疑的な姿勢を見せたとされる。もし違法と判断されれば、すでに徴収された関税の一部が返還される可能性もある。

見えない傷口から

スーパーマーケットのレジで、ある女性が財布を開く。

彼女は知らない。今日買ったオリーブオイルの値札に、どれだけの「勝利」が上乗せされているのかを。テレビは言う。「外国に払わせている」と。彼女はうなずく。だが払うのは、彼女の財布だ。

2500万件。研究者たちが追跡した取引の数だ。一つ一つに、誰かの仕入れがあり、誰かの値付けがあり、誰かのレジ打ちがある。その膨大な連鎖の果てに、一人の女性がオリーブオイルを手に取る。彼女は勝っているのか、負けているのか。数字は答えを知っている。96対4。残酷なほど、明快だ。

私はときどき思う。経済とは、人間が自分自身につく嘘を記録する装置なのではないかと。

帳簿は嘘をつかない。だが人は嘘をつく。自分に。家族に。国民に。「外国が払っている」「我々は勝っている」「代償はない」。そして帳簿は黙って、すべてを書き留めている。いつか誰かが読むことを知りながら。

オウンゴール。サッカーでは、それを入れた選手の名がスコアボードに刻まれる。何万人もの観客の前で。だが経済のオウンゴールには、名前が刻まれない。スコアボードは「関税収入2000億ドル」と表示され、観客席は歓声を上げる。傷口は見えない。血は、レシートの上にだけ滲んでいる。

あなたの財布の中に、誰かの「勝利」が眠っている。

参照元

キール世界経済研究所「America's Own Goal: Who Pays the Tariffs?」(2026年1月) https://www.kielinstitut.de/publications/americas-own-goal-who-pays-the-tariffs-19398/

他参照

Bloomberg(最高裁判決関連) https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-01-08/trump-tariffs-face-supreme-court-ruling-what-to-know

CNBC(グリーンランド関税関連) https://www.cnbc.com/2026/01/17/trump-greenland-tariffs-nato.html

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