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Steam「30%」に約1,370億円の集団訴訟──Valveの支配は公正か


PCゲーム市場の約75%を握る巨人に、ひとりの活動家が正面から挑んでいる。「公正に協力する必要がある。そして明らかに、そうしていない」──その言葉の先にあるのは、ゲーム業界の構造そのものへの疑問だ。

1,400万人を代弁する「ひとりの声」

英国のデジタル権利活動家ヴィッキー・ショットボルトが、Valveに対する6億5,600万ポンド(約1,370億円)規模の集団訴訟を率いている。2024年6月に提訴されたこの訴訟は、2026年1月26日、ロンドンの競争控訴審判所がValve側の却下申請を退け、正式に裁判へ進むことが認められた。

対象となるのは、2018年6月以降にSteamやその他のPCゲームプラットフォームでゲームやDLCを購入した約1,400万人の英国ユーザーだ。ショットボルトは子どものデジタル安全を推進する団体「Parent Zone」のCEOであり、この訴訟のために専用の法人と「Steam You Owe Us」という名の専用サイトまで立ち上げた。ゲーム業界の人間ではない人物が、ゲーム業界最大のプラットフォームに挑んでいる。その構図自体が、この問題の本質を物語っている。

争点の核心──「30%」と「価格同等義務」

訴訟の論点は大きくふたつある。

ひとつは、Steamが開発者から徴収する最大30%の手数料が「過剰」であるという主張だ。ショットボルトの法務チームは、この手数料が最終的にゲーム価格に転嫁され、消費者が不当に高い金額を支払わされていると訴えている。

「開発者に30%を課すべきではない。高すぎるし、合理的な金額ではない」とショットボルトは語った。

もうひとつは、Valveの「プラットフォーム同等義務」(PPO)と呼ばれる仕組みだ。Steamworksのドキュメントには、開発者に対して「Steamキー購入者よりも悪い条件をSteamの顧客に提供しないこと」が求められている。言い換えれば、他のストアでSteamより安く売ることが事実上制限されている。

この二重構造が競争を歪めている、というのが原告側の主張だ。たとえ他のストアが手数料を下げても、ゲーム価格に反映できないのであれば、消費者にとっての選択肢は見せかけに過ぎない。

「10の選択肢があるわけではない」

GamesIndustry.Bizの新たなインタビューで、ショットボルトはValveの市場支配力について踏み込んだ発言をしている。

「PCゲームを開発したければ、Steamに出すしかない。開発者には10もの選択肢があるわけではない」──この言葉は誇張だろうか。

数字を見る限り、そうとも言い切れない。Steamはグローバルで約74〜75%のPCゲームデジタル配信市場シェアを持ち、2025年11月までの収益は162億ドルに達している。2026年1月には同時接続ユーザー数が4,200万人を超え、過去最高を更新した。対するEpic Games Storeのシェアは3〜10%程度にとどまる。

Steamは12万タイトル以上をホストし、1億4,700万人の月間アクティブユーザーを抱える巨大プラットフォームに成長した。

Epic Gamesが12%の手数料を掲げ、2025年6月からは年間100万ドル以下の売上に対して手数料を完全無料にしたにもかかわらず、開発者の大多数はSteamを選び続けている。ショットボルトの指摘する「選択肢のなさ」は、市場の現実としてたしかに存在する。

Valveの沈黙、そして反論

Valve自身はこの訴訟について公の場で多くを語っていない。裁判所への提出書類では、原告側が「有効な手数料率を算出する適切な方法論を示していない」と反論し、Steamキーの扱いが手数料率の計算を複雑にしていると主張した。

ここには触れるべき事実がある。Steamキーを通じた販売では、Valveは手数料を徴収しない。開発者は自社サイトや他のキーショップでSteamキーを配布でき、その売上からValveは一銭も取らない。この仕組みを考慮すれば「実質的な手数料率」は30%よりかなり低い、というのがValve側の立場だ。

また、30%という手数料率はValve独自のものではない。AppleのApp Store、PlayStation Store、Nintendo eShopなど、主要なデジタルストアは同じ水準の手数料を徴収している。ソニーに対しても同様の訴訟が英国で進行中だ。Valveだけが槍玉に挙がるのは不公平だ、という声はゲーマーコミュニティからも少なくない。

消費者は本当に「被害者」か

この訴訟が勝訴した場合、1人あたりの補償額は約22〜44ポンド(約4,600〜9,200円)と推定されている。正直なところ、多くのゲーマーにとって「Steamのセールで取り戻せる金額」だろう。

むしろ興味深いのは、一部の英国ゲーマーが自発的にこの訴訟から「オプトアウト」──つまり参加を辞退していることだ。「Valveのおかげでより多くの選択肢を得ている」という声すら上がっている。Steamのセール、Workshop、リモートプレイ、Protonによるゲーム互換性──Valveが提供する「価値」を考えれば、30%は妥当だという主張にも一定の根拠はある。

本当の問いは「30%」の先にある

ショットボルト自身も、Steamが優れたプラットフォームであることは認めている。「ゲーマーの視点からすれば素晴らしいプラットフォームだ」と。それでも訴訟に踏み切ったのは、市場の健全性という別の問題意識からだ。

仮にValveが敗訴した場合、開発者がゲームを安くするかどうかは「自分にはコントロールできない」とショットボルトは率直に認める。手数料が下がっても、開発者が利益を消費者に還元するとは限らない。だが「価格同等義務がなくなれば、市場原理が機能するはずだ」と彼女は信じている。

ここに、この訴訟の最も本質的な矛盾がある。消費者のために戦っているはずの訴訟が、消費者への直接的な恩恵を保証できない。それでもなお、この訴訟に意味があるとすれば、それはプラットフォーム経済の「当たり前」に疑問を投げかけた点にある。


業界全体に広がる波紋

この訴訟はValveだけの問題ではない。米国では2021年にWolfire Studiosが同様の反トラスト訴訟を起こし、2024年11月にはクラスアクションとして認定された。ソニーに対する訴訟も英国で進行中だ。デジタルストアフロントの手数料構造そのものが、世界的に法的検証の対象になりつつある。

Epic GamesのCEOティム・スウィーニーは長年、Steamの30%を批判し続けてきた。Epic Games Storeの12%という手数料設定、Appleとの法廷闘争、そして「30%は時代遅れだ」という一貫した主張は、ショットボルトの訴訟と明確に呼応している。

だが、市場の反応は複雑だ。Epic Games Storeは積極的な独占契約や無料配布にもかかわらず、Steamの牙城を崩せていない。消費者は手数料率ではなく、フレンドリスト、実績、Workshopといった「エコシステム」でプラットフォームを選ぶ。手数料を下げれば競争が生まれるという前提自体が、すでに市場によって検証され、少なくとも部分的には否定されている。

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30%が「業界標準」だった時代は、終わりの始まりにあるのかもしれない。あるいは、裁判所の判断がどうあれ、Steamの支配力は揺るがないのかもしれない。

ひとつだけ確かなことがある。「なぜ30%なのか」という問いに、もはや「みんなそうだから」では答えられない時代が来ている。


参照元

他参照


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