優秀な人を集めても、チームが機能しない理由 パート2
前回は、チームを「人の集合」ではなく、役割行動の生態系として見た。
誰がリーダーか。
誰が支援するか。
誰が検証するか。
誰が調整するか。
誰が影の役割を担っているか。
この見方をすると、チームの不調を個人の性格や能力だけで片づけなくて済む。
ただ、もう一つ大事な問いが残る。
役割がそろっていても、なぜチームは機能しないのか。
優秀な人がいる。
役割もある。
専門性も高い。
責任感もある。
会議もしている。
進捗管理もしている。
それなのに、なぜか噛み合わない。
情報が伝わっていない。
助け合いが起きない。
問題が早く見つからない。
同じミスが繰り返される。
会議では合意したのに、実行段階でずれる。
誰かが忙しすぎるのに、周囲が気づかない。
こういうチームは、珍しくない。
ここで起きているのは、能力不足ではない。
むしろ、優秀な人が多いチームほど起きることがある。
なぜなら、優秀な人はそれぞれ自分の領域を持ち、自分の判断で動けるからである。
一人ひとりは速い。
でも、チームとしては遅くなる。
一人ひとりは賢い。
でも、チームとしては学習しない。
一人ひとりは責任感がある。
でも、チームとしては助け合わない。
私はこれを、調整負債と呼びたい。
調整負債とは、個人の能力や役割はあるのに、互いの状態、意図、負荷、学びを合わせる仕組みが不足し、あとから大きなズレとして返ってくる状態である。
技術的な負債が、後で開発速度を落とすように。
調整負債は、後でチームの実行力を落とす。
今回扱う研究
今回のパート2では、チームを「役割」だけでなく、「プロセス」として読む。
1. チームワークのBig Fiveを整理した研究
内容: チームワーク研究を実務で使いやすい形に整理し、チームワークの中核要素として、チームリーダーシップ、相互モニタリング、バックアップ行動、適応性、チーム志向を提示した研究である。今回の記事では、「優秀な人がいるだけではなく、互いの状態を見て、助け、適応するプロセスが必要である」という根拠として読む。
著者: Eduardo Salas、Dana E. Sims、C. Shawn Burke
論文: Is there a “Big Five” in Teamwork?
掲載誌: Small Group Research、2005年
2. チームプロセスを時間軸で整理した研究
内容: チームプロセスを、実行前の準備、実行中の行動、対人関係の維持という観点から整理した研究である。今回の記事では、チームは常に同じ活動をしているのではなく、準備、実行、振り返り、関係調整を時間の中で切り替えているという根拠として読む。
著者: Michelle A. Marks、John E. Mathieu、Stephen J. Zaccaro
論文: A Temporally Based Framework and Taxonomy of Team Processes
掲載誌: Academy of Management Review、2001年
3. チームワークプロセスのメタ分析
内容: 複数のチームワークプロセスとチーム有効性の関係をメタ分析した研究である。今回の記事では、チームワークプロセスは、成果、凝集性、チーム効力感、満足度などと関係するという根拠として読む。
著者: Jeffery A. LePine、Ronald F. Piccolo、Christine L. Jackson、John E. Mathieu、Jessica R. Saul
論文: A Meta-Analysis of Teamwork Processes: Tests of a Multidimensional Model and Relationships with Team Effectiveness Criteria
掲載誌: Personnel Psychology、2008年
4. 心理的安全性と学習行動の研究
内容: チーム心理的安全性が学習行動と関係し、学習行動がチーム成果に結びつくことを示した研究である。今回の記事では、チームが学習するには、失敗、疑問、未完成な考えを出せる関係性が必要であるという根拠として読む。
著者: Amy C. Edmondson
論文: Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams
掲載誌: Administrative Science Quarterly、1999年
5. チーム有効性研究をレビューした研究
内容: 1997年から2007年までのチーム有効性研究をレビューし、チームを入力、媒介、成果の動的な関係として整理した研究である。今回の記事では、チーム成果は個人能力の単純な足し算ではなく、プロセスや状態を通じて生まれるという根拠として読む。
著者: John Mathieu、M. Travis Maynard、Tammy Rapp、Lucy Gilson
論文: Team Effectiveness 1997-2007: A Review of Recent Advancements and a Glimpse Into the Future
掲載誌: Journal of Management、2008年
先に、この論文群の要点
要点は四つである。
一つ目: チームは、メンバーの能力だけでは動かない
チームには、互いの状態を見る、助ける、調整する、適応する、学習するというプロセスが必要である。
個人能力が高くても、このプロセスが弱いと、チームとしては機能しにくい。
二つ目: チームワークには、見えない仕事が多い
相互モニタリング。
バックアップ行動。
閉ループコミュニケーション。
共有メンタルモデル。
相互信頼。
これらは、成果物としては見えにくい。
しかし、チームの実行力を支えている。
三つ目: 心理的安全性は、仲良しのためではなく、学習のために必要である
心理的安全性は、空気を柔らかくするためだけの概念ではない。
疑問を出す。
ミスを伝える。
助けを求める。
違和感を言う。
未完成な考えを試す。
こうした学習行動を可能にする条件である。
四つ目: チームの不調は、調整の負債として蓄積する
情報共有が少し雑になる。
確認が省略される。
助けを求めるタイミングが遅れる。
役割の境界が曖昧なまま進む。
振り返りが行われない。
一つひとつは小さい。
しかし、積み上がると、ある日突然、チームが動かなくなる。
優秀な人が多いチームほど、調整を軽く見る
優秀な人が集まると、チームは強くなる。
これは半分正しい。
専門性が高い。
理解が早い。
自走できる。
判断できる。
責任感がある。
成果への意識が高い。
こうした人が集まれば、当然チームの基礎能力は上がる。
しかし、同時に罠も生まれる。
優秀な人は、説明を省略できる。
自分で考えて動ける。
自分の領域を守れる。
周囲に迷惑をかけないように抱え込める。
だから、チーム内でこういうことが起きる。
言わなくてもわかるだろう。
各自で進めればよいだろう。
細かく確認しなくても大丈夫だろう。
困ったら言うだろう。
優秀なのだから、自分で何とかするだろう。
この「だろう」が、調整負債になる。
優秀さは、調整を不要にするのではない。
むしろ、優秀な人が多いほど、調整の粒度を上げる必要がある。
なぜなら、それぞれが高度に判断するからである。
判断が高度になるほど、前提のズレも高度になる。
小さな認識違いが、あとで大きな方向違いになる。
調整負債とは何か
調整負債は、チームの中で見えにくい。
なぜなら、最初は成果が出ているように見えるからである。
会議は進む。
各自が動く。
資料は出る。
タスクは消化される。
誰も大きな不満を言わない。
しかし、少しずつズレが溜まる。
目的の理解がずれる。
優先順位がずれる。
顧客像がずれる。
品質基準がずれる。
責任範囲がずれる。
忙しさの見え方がずれる。
リスク感度がずれる。
このズレは、すぐには問題にならない。
だから放置される。
そして、ある日、こういう形で出る。
なぜ今それを言うのか。
それは聞いていない。
そっちでやっていると思っていた。
ここまで進んでいると思っていた。
そんな前提だったのか。
もっと早く言ってほしかった。
この瞬間に、チームは気づく。
問題は、直前に起きたのではない。
ずっと前から溜まっていた。
これが調整負債である。
Big Fiveで見る、機能するチームの条件
Salasらは、チームワークの中核要素として五つを示している。
ここでは、それを実務に引き寄せて読む。
一つ目: チームリーダーシップ
チームリーダーシップは、指示することだけではない。
チームの状態を見る。
目標をそろえる。
必要な資源を整える。
メンバー間のズレに気づく。
優先順位を調整する。
優秀な人が多いチームほど、リーダーは細かく管理しない方がよい。
しかし、放置してよいわけではない。
見るべきなのは、作業ではなく前提である。
目的はそろっているか。
優先順位はそろっているか。
リスクの見方はそろっているか。
誰かに負荷が偏っていないか。
二つ目: 相互モニタリング
相互モニタリングとは、互いの状態を見ることである。
監視ではない。
支援のために見る。
誰が詰まっているか。
誰が忙しすぎるか。
誰が情報を持っていないか。
誰の判断が孤立しているか。
どのタスクが遅れそうか。
これがないチームでは、助けるタイミングが遅れる。
本人が言うまで誰も気づかない。
そして、本人は限界まで言わない。
三つ目: バックアップ行動
バックアップ行動とは、誰かが困っている時に支える行動である。
ただ手伝うことではない。
必要な時に、必要な形で、チームとして補うことである。
資料作成を手伝う。
顧客対応を代わる。
レビューに入る。
判断材料を渡す。
一時的に優先順位を変える。
優秀な人が多いチームでは、このバックアップ行動が起きにくいことがある。
なぜなら、みんな自分で何とかしようとするからだ。
助けを求めることが、能力不足のように見える。
ここを変えないと、責任感のある人ほど潰れる。
四つ目: 適応性
適応性とは、状況の変化に応じて、やり方を変える力である。
計画どおりに進める力ではない。
計画がズレた時に、学び直せる力である。
顧客の反応が違った。
市場が変わった。
上層部の方針が変わった。
前提としていたデータが違った。
メンバーの負荷が想定より高かった。
この時、チームは修正できるか。
優秀な人が多いチームほど、最初の計画に自信を持ちやすい。
だから、適応するより、正当化してしまうことがある。
五つ目: チーム志向
チーム志向とは、自分の成果だけでなく、チーム全体の成果を見ようとする姿勢である。
自分の担当が終わったから終わりではない。
自分の正しさが通ったから終わりでもない。
チームとして成果が出たか。
顧客に価値が届いたか。
次も一緒に働ける状態が残ったか。
ここを見る。
優秀な人が集まっても、チーム志向が弱いと、個人プレーの寄せ集めになる。
心理的安全性は、調整負債を早く出すためにある
心理的安全性は、よく誤解される。
仲良くすること。
優しくすること。
何でも許すこと。
否定しないこと。
そう捉えられがちである。
しかし、Edmondsonの研究で重要なのは、心理的安全性が学習行動と結びついている点である。
疑問を出す。
助けを求める。
失敗を共有する。
意見を言う。
実験する。
これらができるから、チームは学習する。
つまり、心理的安全性は、調整負債を早く表に出すための条件である。
心理的安全性が低いチームでは、ズレが隠れる。
忙しいと言えない。
わからないと言えない。
違和感を言えない。
助けてと言えない。
失敗を早く出せない。
その結果、調整負債は溜まる。
逆に、心理的安全性があるチームでは、ズレが早く出る。
「ここ、前提が違っていませんか」
「この進め方だと、後工程が詰まります」
「今、自分の負荷が高いです」
「その判断の理由をもう少し聞きたいです」
「今回の失敗から、次はここを変えたいです」
こうした発言が出るチームは、問題がないチームではない。
問題を早く見つけられるチームである。
チームが機能しない時に見るべき三つの負債
優秀な人を集めてもチームが機能しない時、私は三つの負債を見るとよいと思う。
一つ目: 前提負債
前提負債とは、目的、優先順位、判断基準がそろっていないまま進むことである。
何を成功とするのか。
何を優先するのか。
どこまでの品質を求めるのか。
誰のための成果なのか。
いつ判断を変えるのか。
ここが曖昧なまま、優秀な人が各自で動くと、速くズレる。
能力が高いからこそ、それぞれの解釈で走ってしまう。
二つ目: 観察負債
観察負債とは、互いの状態が見えていないことである。
誰が詰まっているか。
誰に情報が足りないか。
誰が過剰に抱えているか。
誰の判断が孤立しているか。
どのタスクが危ないか。
これが見えていないと、助け合いは起きない。
チームの問題は、助ける気持ちがないことではなく、助けるタイミングが見えないことから起きる。
三つ目: 学習負債
学習負債とは、起きたことを次に活かしていないことである。
会議で決めた。
実行した。
失敗した。
忙しかった。
次へ行った。
これでは、チームは学習しない。
何がズレたのか。
どの前提が間違っていたのか。
誰に負荷が偏ったのか。
次回は何を変えるのか。
この振り返りがないと、同じ問題が別の形で戻ってくる。
実務では、何をすればよいか
1. 会議で「前提合わせ」を先に置く
会議では、いきなり進捗を聞かない。
最初に前提をそろえる。
今回の目的は何か。
今回、最も優先することは何か。
捨ててもよいものは何か。
判断基準は何か。
誰に影響が出るか。
これを5分で確認する。
優秀な人ほど、前提が違っても議論できてしまう。
だから、議論が高度になる前に、前提を合わせる。
2. 週に一度、負荷を見える化する
相互モニタリングを、気合いでやらない。
仕組みにする。
各メンバーが、今週の状態を短く出す。
余裕がある。
通常。
少し詰まっている。
かなり危ない。
これだけでもよい。
大事なのは、忙しさを個人の我慢にしないことである。
負荷が見えれば、バックアップ行動が起きる。
見えなければ、責任感の強い人から潰れる。
3. 助けを求める言葉を標準化する
助けてください、と言うのは意外と難しい。
だから、チームの中で言いやすい言葉を決める。
ここだけレビューしてほしい。
判断材料が足りない。
優先順位を相談したい。
今週は少し持ちきれない。
このままだと後工程に影響が出る。
こういう言葉を、チームの共通語にする。
助けを求める力を、個人の性格に任せない。
4. 失敗ではなく、ズレを振り返る
振り返りで「誰が悪かったか」を探すと、次から誰も話さなくなる。
見るべきなのは、ズレである。
目的のズレ。
情報のズレ。
判断基準のズレ。
役割のズレ。
負荷のズレ。
期待のズレ。
ズレを見れば、人格評価になりにくい。
チームの調整課題として扱える。
5. チーム役割とチームプロセスを分けて見る
前回のパート1では、チーム役割を見た。
今回のパート2では、チームプロセスを見ている。
この二つは分けた方がよい。
役割は、誰がどんな行動を担っているか。
プロセスは、その行動がどうつながっているか。
役割がそろっていても、プロセスが弱ければ機能しない。
プロセスがあっても、役割が偏れば誰かに負荷が集中する。
だから、チームを見る時は両方を見る。
違和感として締める
優秀な人を集めても、チームが機能しない。
これは、不思議なことではない。
むしろ、自然なことである。
優秀な人は、自分で考えられる。
自分で動ける。
自分で判断できる。
だからこそ、チームの前提合わせ、相互観察、助け合い、振り返りが軽く見られやすい。
でも、チームとは、優秀な人が横に並んでいる状態ではない。
互いの状態を見て、必要な時に補い、ズレを早く出し、次の行動に変えていく状態である。
チームが壊れる時、いつも大きな事件があるわけではない。
小さな確認不足。
小さな遠慮。
小さな抱え込み。
小さな前提のズレ。
小さな振り返りの省略。
それらが積み上がって、ある日、チームの速度を奪う。
だから、優秀な人を集めた後に必要なのは、もっと優秀な人を探すことではない。
調整負債を溜めないチームにすることである。
人を足す前に、見る。
役割を決める前に、前提をそろえる。
成果を詰める前に、ズレを出す。
個人の能力を見る前に、プロセスを見る。
チームは、人の質だけで決まらない。
人と人の間に、どれだけ早くズレを出し、どれだけ自然に助け合い、どれだけ次に学びを渡せるかで決まる。
その見えない仕事こそが、チームをチームにしている。
根拠・確認メモ
Eduardo Salas, Dana E. Sims, C. Shawn Burke, “Is there a ‘Big Five’ in Teamwork?” Small Group Research, 36(5), 2005. DOI: 10.1177/1046496405277134。https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1046496405277134
Michelle A. Marks, John E. Mathieu, Stephen J. Zaccaro, “A Temporally Based Framework and Taxonomy of Team Processes,” Academy of Management Review, 26(3), 2001, pp.356-376. DOI: 10.5465/amr.2001.4845785。https://journals.aom.org/doi/10.5465/amr.2001.4845785
Jeffery A. LePine, Ronald F. Piccolo, Christine L. Jackson, John E. Mathieu, Jessica R. Saul, “A Meta-Analysis of Teamwork Processes: Tests of a Multidimensional Model and Relationships with Team Effectiveness Criteria,” Personnel Psychology, 61(2), 2008, pp.273-307. DOI: 10.1111/j.1744-6570.2008.00114.x。https://asu.elsevierpure.com/en/publications/a-meta-analysis-of-teamwork-processes-tests-of-a-multidimensional/
Amy C. Edmondson, “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams,” Administrative Science Quarterly, 44(2), 1999, pp.350-383. DOI: 10.2307/2666999。https://dash.harvard.edu/entities/publication/13a7b031-0fdd-45ec-a7e0-2b80e2bc679f
John Mathieu, M. Travis Maynard, Tammy Rapp, Lucy Gilson, “Team Effectiveness 1997-2007: A Review of Recent Advancements and a Glimpse Into the Future,” Journal of Management, 34(3), 2008, pp.410-476. DOI: 10.1177/0149206308316061。https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0149206308316061
本稿は、前回の「チーム役割の生態系」を土台に、チームプロセス、心理的安全性、チーム有効性研究を接続し、「調整負債」という実務概念として再構成したものである。
#チーム
#チームビルディング
#組織開発
#マネジメント
#リーダーシップ
#心理的安全性
#チームワーク
#組織学習
#人材開発
#人事
#HR
#人事の仕事
#これからのHR
#1on1
#会議
#プロジェクトマネジメント
#チームマネジメント
#役割
#調整
#論文紹介
