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【戦後80年】宮﨑駿が酷評した映画「永遠の0」を観た【映画評】

「今、零戦の映画企画があるらしいですけど、それは嘘八百を書いた架空戦記を基にして、零戦の物語をつくろうとしてるんです。神話の捏造をまだ続けようとしている。『零戦で誇りを持とう』とかね。それが僕は頭にきてたんです。子供の頃からずーっと!(中略)相変わらずバカがいっぱい出てきて、零戦がどうのこうのって幻影を撒き散らしたりね。戦艦大和もそうです。負けた戦争なのに」

 2013年9月の「CUT」のインタビューでこう宮﨑駿が発言しているのはおそらく「永遠の0」のことである。この段階では当然ながら宮﨑駿は映画を観てないはずだし、百田尚樹の原作も読んでいるのか疑わしいが、同様に零戦をモチーフにした作品を残した兵器オタクにして戦争嫌いの宮﨑駿は、かたや右傾の作家である百田尚樹のこの作品が絶賛されることに憤ったのかもしれない。自分の描く作品が右翼まがいの作家の作品と一緒にされたくない、という本音を吐露したようにぼくにも見える。

 実のところ、ぼくは原作を読んでいないのでここで百田尚樹に対する批評はできない。だから百田尚樹の作品を原作とした山崎貴の作品である映画「永遠の0」について、宮﨑駿の「風立ちぬ」を持ちだして語ることは許されるのかな、という具合の間合いで映画の「永遠の0」について感想を述べたい。
 総評すると、これは紛れもなく零戦を否定した反戦映画だと思う。そして零戦のすばらしい性能や激しい戦闘シーンなど、宮﨑駿が「風立ちぬ」で描いた程度には零戦は美化されていたと思う。
 ただこの作品はあくまでフィクションであり、『物語』であることは劇中で夏八木勲が扮する大石賢一郎がくどいぐらいに言っていたとおりで、戦争と零戦に翻弄されたあの時代の日本人の物語群のひとつと考えれば、宮﨑駿が堀越二郎の物語を堀辰雄の物語に重ねることによってできた架空の物語と、ぼくには同質のものを感じるのである。そしてそれが「風立ちぬ」でぼくが泣くことができなかった本当の理由なのかもしれない。
 映画「永遠の0」は、零戦の敏腕パイロットである宮部久蔵が臆病者と蔑まれても生きて戻ることに執着した理由についてが主題となっている。その理由は本土に残した妻と娘のためだったのだが、それを知らないまま生きてきた人々がその本当の理由を探すことで、実は宮部久蔵によって生かされた人々がある答えを結実するというオチに繋がていく。物語の構造はまさにいまどきのエンターテイメントである。だからこそ陳腐に写るかもしれないが、わかりやすいし伝わりやすい。これならみんなが号泣するのも無理はない。さすが探偵ナイトスクープの放送作家として培ったエンタメは伊達じゃないと感心させられる、百田の原作は読んでないけど・・・。
 ただぼくが泣けなかったのは、そういうのが中盤に見えてしまったのもあるが、終盤の演出や編集がぼくの趣味に合わなかったのが原因かもしれない。オチを語りだしてからの演出は小説を朗読するかのような不自然なセリフに変わってしまっているし、回想シーンのカット割りも間が抜けた感じでおかしかった。
 このまま終わっちゃったら興ざめだよと思ったが、山崎貴はただでは転ばなかった。最後の最後で岡田准一が扮する宮部久蔵の最後の勇姿をあんな風に描いてくれて感謝であった。ぼくはきっとあのシーンが見たかったのだろうと思ったし、山崎貴もそれを描きたかったんだろうと勝手に解釈している。あのシーンですべてが救われた気がした。そしてエンドロールの、サザンオールスターズが謳う「蛍」が流れてきてようやく気が晴れた。いつしか勝手に口ずさんでいた。ぼくはこの作品を総じて好きな作品となった。

 主題歌の「蛍」を唄った桑田佳祐はインタビューで「『家族のために必ず生きて帰る。それこそが愛ではないか。』そう信じ、『待っている人がいる』ことそのものが生きる力となり、生きる原動力となっている。現代を生きる私たちにも通ずる、そんな主人公・宮部久蔵の姿に非常に大きな感動をいただきました」と語っているが、日本人の一般的な捉え方はこの桑田佳祐のように、右とか左とかではなく、愛や家族の物語としての捉え方じゃないのかと思うし、そうであってほしいと思うのだ。右翼も左翼も方法論や思想は違えども日本人や日本を、そして人間を愛する気持ちは同じであってほしいのだ。
 ところで、エンドロールの最後に「In memory of 」として夏八木勲と一緒に知らない名前が出てきたので調べてみた。その名前は稲田堅次とあり、映画の撮影に使われた大利根飛行場で撮影前に草刈り作業をボランティアで行っていたところ、不運にもセスナ機の着陸に巻き込まれ亡くなられたそうだ。この映画もまた多くの人々の手によって作り上げられた作品という意味では忘れてはいけないエピソードなのかもしれない。

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