【読書感想文】中華SF:テッド・チャンからのケン・リュウ
あなたの人生の物語

映画「メッセージ」の原作が短編だったという理由と、映画で描かれたことが小説ではどのように表現されているのか、という好奇心で読み始めた次第だ。
この作品は短編集で、全8篇の物語で構成されている。当然ながら映画原作でもある表題作から読んでみたが、映画のような緊迫した争いごとは特に描かれていない。それよりも言語のデザインを逐次的から同時的に変えることで時間を超越するという発想にこそ重きを置いて、主人公のプライベートなエピソードはその補完として扱われているのだろうと初見では読み取ったのだが、いまひとつ自信のないまま最初の1ページ(「バビロンの塔」)から再度読み始めた。
「バビロンの塔」は円筒印章をモチーフとして世界の成り立ちを説明し、「理解」では超能力者同士の戦いから神の誕生を語り、
「ゼロで割る」では数学のこれまでの概念を否定する公式を発見してしまい精神を崩壊する女性を描き(かたや感情移入でその女性を救おうとする物理学者の夫の矛盾が対になっているのだが・・・)つまりは自己矛盾、
「七十二文字」はAIのメタファーかフランケンシュタインのスチームパンク版か(それはそれで伊藤計劃と円城塔の「屍者の帝国」を想起する)。ところが実のところ人間の創造こそがテーマで、河合隼雄先生よろしく「宗教と科学の接点」的なテーマが内包されていたとは。
「人類科学の進化」はまあいいとして(初出の科学誌「Nature」を皮肉ったアイロニカルなコラムって感じ)、
「地獄は神の不在なり」は天使降臨によって妻を殺された男が神への信仰心を問い続け戦いに挑む冒険活劇、もしくは神に翻弄される三人の群像劇の形を成した壮大なアイロニー。
「顔の美醜について」の感想。美醜失認装置カリーは聖書なのか、つまりは隣人を愛せよということか。
そうして、改めて表題作の「あなたの人生の物語」を読み直してみた。この作品は他の作品に比べ宗教的なテーマがほとんど出てきていない気がした。しかしながらそんなはずはないと思い、考えをめぐらして気づいたのだが、ヘプタポッドにおいては自分の一生はすでに認識されており、その人生を従順に全うすることこそが目的となっている気がする。その過程で「if」(=自由意志)を挟み込む余地はまったくない。つまり、ヘプタポッドの生は神のみぞ知る目的のために死に向かっているのだろう。このヘプタポッドは、神に従順な、信仰心豊かで敬虔なクリスチャンを想起しないだろうか。そう考えれば、この作品もまた宗教的な一面を持っているのではないかと思うのだ。
神の動物園

テッド・チャンに続いてアジア系アメリカンのSF作家ケン・リュウの「神の動物園」を読んだ。こちらも短編集で全15篇で構成されている。ヒューゴー賞、ネビュラ賞など三冠に輝いたタイトル作もそうだが、このケン・リュウという人は中国という国家に対する思い入れが強すぎてか、ファンタジーがアイロニカルに描かれてしまっている気がする。テッド・チャンと比較するとかなり重たい内容で、ラストの「文字占い師」に至っては拷問シーンが辛くて読めなかった。しかしながら、最近のアジア系アメリカンのSF作家の台頭は同じアジア人としては嬉々として楽しみな次第だ。
つぎはぜひ「三体」を読んでみたい。
