【R101】なぜ私たちは“彼”を採用してしまったのか
会社が急成長していた。
従業員は200人を超え、子会社も増え、管理部門の負荷は明らかに限界に近づいていた。
経理は回っている。だが、**「このままでは上場企業の内部管理として持たない」**という危機感があった。
必要だったのは、実務ができる人ではない。
組織の“整備”をやったことがある人だった。
そこで浮上したのが、あるベテラン候補者だった。
銀行出身。
複数社で財務経理責任者経験。
決算早期化、管理体制整備、会計精緻化。
履歴書に並ぶワードは、まさに今の会社が欲しているものそのものだった。
面接での第一印象も悪くなかった。
声が大きく、ハキハキしている。
自信がある。
そしてこう言った。
「100点を目指すと会社は止まります。まず合格点を作るのが仕事です」
急成長企業の現場を知る者なら、誰でもうなずく言葉だった。
さらに彼は続けた。
「これまでぐちゃぐちゃだった会社を何社も立て直してきました」
この言葉は刺さった。
なぜなら、当時の会社はまさに「整っていない会社」だったからだ。
採用は決まった。
だが、今振り返れば、違和感は最初からあった。
彼の職歴には短期在籍が多かった。
その理由を尋ねると、こう答えた。
「経営者同士の争いに巻き込まれた」
「粉飾を求められたから辞めた」
「自分が正しいことを言ったら居づらくなった」
一見すると、“正義感が強い人”のように聞こえる説明だった。
しかし、後になってわかる。
これは「どの会社でも誰かと対立してきた」という告白でもあったのだ。
もう一つ、見抜けなかったことがある。
彼は、常に「自分が組織の救世主である」という語り方をした。
どのエピソードも、
「自分が立て直した」
「自分が正した」
「自分が改善した」
だった。
当時はそれを「実績」として受け取った。
だがそれは、**「他人を敵にしなければ自分を語れない人間」**の特徴でもあった。
会社は彼を迎え入れた。
内部管理体制を整えるために。
組織を前に進めるために。
混乱を整理するために。
だが実際に始まったのは、整備ではなかった。
組織の心理的安全性が、少しずつ崩れていくプロセスだった。
それに気づいたのは、入社して間もない頃のことだった。
(続く)
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