「BUTTER」をオススメしたい理由とは|時空ラボ
バター、好きですか?
バターの持つ豊かな風味は、さまざまな料理において人を魅了します。
一方で脂質やカロリーが高いことから、ダイエットの敵といったイメージもあったりしますね。
こってりした幸福感と、ちくりと刺さる後ろめたさ。
「BUTTER」(柚木麻子)で描かれるバターは連続不審死事件と絡み合い、人を取り込んでいきます。
私も、ややグロテスクともいえる描写に引き込まれてしまいました。
◎個人的な評価
★★★★★
実際にあった首都圏連続不審死事件を題材にした小説です。実在する犯人とそれにまつわる背景を下敷きにしていますが、真実と創作の境界は曖昧です。
◎「BUTTER」の紹介
梶井真奈子は、首都圏連続不審死事件の被告人です。
婚活サイトを介して次々と男性から金銭を奪い、3人を殺した罪に問われています。
そんな彼女は料理自慢だったことがうかがえるものの、決して若くも美しくもなく、体型は太めです。
このことで世の女性は激しく動揺し、男性は嫌悪感を露わにします。
なぜこんな人が、何人もの男性を魅了できたのか。
週刊誌の記者である町田里佳は、その正体を探るため、東京拘置所に拘留されている梶井真奈子に接触を図りますが、本当のバターの味を知らないことから彼女の機嫌を損ねてしまいました。
そこでまず言いつけられたのが、バター醤油ごはんを作ること。
それをきっかけに、町田里佳の生活が梶井真奈子に取り込まれていくのです。
◎「BUTTER」の感想①:こってりした描写がグロテスク
読んでいて、こってりした小説だと思いました。
食べ物に対する執拗な描写……これにより読者は味を強制的に追体験させられます。
いま「強制的に」と書きましたが、実は登場する食べ物についてどれほど表現が駆使されていても、個人的には食べたいと思わされませんでした。
おいしそうだけど、何かグロテスク。
そうした描写は食べ物だけでなく、登場人物の服装、しぐさ、心理にも及びます。
料理の隠し味のように、言葉が緻密に味付けされているイメージでしょうか。
本書は特に難解な内容ではないのですが、そうした執拗な書き込みのためか、文庫本で592ページあることを差し引いても、読み終えるまで意外と時間がかかります。
しかも半分ほど読んだ時点でもまだストーリーの序盤に思われ、どこに収束していくのか、なかなか見通せません。
◎「BUTTER」の感想②:バターの正体とは?
前述したように、梶井真奈子はバターにこだわりがあります。
(エシレというブランドの有塩タイプがいいらしいです)
そうしたことが「自分は本物を知っている」という彼女の自負を支えていますが、バターにはそれ以上の意味が込められていました。
バターは梶井真奈子そのものでしょう。
ファット(脂肪、太っている)、料理で人を魅了する、冷やすと固くなる(気持ちが冷めると頑なになる)などの共通点。
つまりバターに魅了されることは、梶井真奈子に取り込まれることと同義なのです。
私のようなあまり料理に関心がない人間は、バターという食材に対しそれほど執着しません。
食べ過ぎ(深入り)は良くなさそうといった浅いイメージで立ち止まっています。
しかしその魅力に気づかされたら……取り込まれてしまうのでしょう。
梶井真奈子に対しても同じことがいえますね。
下記は被害者男性たちが生前近しい人に語った言葉ですが、彼女への思いは冷めたものです。
●(梶井真奈子は)ずっと孤独だったから、老後の世話をしてくれるのなら、どんなブスでも良かった。
●ご飯を作ってくれる家庭的な女であれば、もう誰でもよかった。
●デブかもしれないけれど、すごいお嬢様なんだ。すれてなくて世間知らずなんだよ。
酷い言い草ですが、そんな彼らが一方で梶井真奈子に多額のお金を貢いでいたのです。
彼女のことを疎んじ見下していたのに取り込まれ、手放せなくなっていました。
記者の町田里佳もまた、バターに魅了されてしまいます。
そして、日々の食事や美意識(太ることに対する考え方)が、徐々に梶井真奈子による影響を受けることになるのです。
町田里佳の体重がどんどん増えていきます。
◎「BUTTER」をオススメしたい理由
ところで「BUTTER」は本当に「社会派長編」なのでしょうか。
文庫本の裏表紙の解説にそう記されていましたが、不思議なことに本小説では肝心の、事件の真相や犯人探しにあまり関心を向けていません。
梶井真奈子は殺人を否定しているのに。
本書では、話が事件の解明からいつの間にか離れていき、梶井真奈子という存在そのものにフォーカスしていきます。
これは実際の事件を下敷きにしつつも、もはや独立した作品という領域に踏み込んでいるように思えました。
ほかにも登場人物の多くが、親や異性との関係性に悩みを抱えている点などが気になります。
何か意味があるように思うのですが、この読書感想文も思いのほか長くなってしまいました。
今回はこのあたりで止めておくものの、本書はついあれこれ語ってしまいたくなる小説みたいですね。
私もBUTTERに取り込まれた一人といえるのでしょう。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
以下のマガジンでは、いろいろな書籍の感想文をまとめているので、よろしければ覗いてみてください。
