「PRIZE」をオススメしたい理由とは|時空ラボ
手が届かないもの、もう少しで手が届きそうなもの。
いずれにせよ同じことです。
文学賞が受賞できたかどうかの結果は全て自らが背負うのです。
落選した際に、周囲から「この値打ちがわからないなんて」「選考委員の目は節穴」といった慰めの言葉があったとして何になるのか。
けっきょくのところ「PRIZE」(村山由佳)で問われていたのは、PRIZE=賞を取れるかどうかではなく、賞にどう向き合うかだったのだと思います。
◎個人的な評価
★★★★☆
直木三十五賞(直木賞)がほしくてたまらない女流作家が主人公の小説です。直木賞を取れる作品は、そうでない作品と何が違うのでしょうか。
◎「PRIZE」の紹介
文学賞にまつわる小説を読むのは、筒井康隆さんの「大いなる助走」以来かもしれません。
こちらは冒頭からの重厚な同人誌論、そして後半にかけてのスキャンダラスな話が迫力で、とても面白く読みました。
あまり比較するものでもないのですが、一方の「PRIZE」はどうでしょう。
女流作家である天羽カインは、直木賞を欲してやみません。
既に何度か候補になったことがありつつも、残念ながらその手をすり抜けてしまいます。
いったい何が足りないのか……。
いつもの編集者たちは応援してくれているようでいて、当たり障りのないところに終始し、一線を越えてきません。
作家の本気に応えてくれないように映ります。
天羽カインはますますいらだち、八つ当たりし、これではいずれ孤立化するのではないかと思わされました。
(もしかして作家あるあるかしら?)
文学賞を取る、取らないの話では、やはり生の人間性があらわになるものですね。
◎直木賞を獲得できる小説とは
本書は、直木賞の歴史が紐解かれたり、選考の様子が明らかにされたり、書店や版元など業界の動きが描かれたりと、賞にまつわる裏事情が垣間見えるのが面白いところです。
複数の選考者が候補作を少しずつ絞り込んでいくわけですが、その過程においては直木賞にふさわしい作品を純粋かつ公平に選ぼうとしている姿勢が強くうかがえます。
特に面白かったのは、ある時代小説が受賞に至ったエピソードでした。
その作品(=時代小説)の中に、登場人物が外に干してあった洗濯物を取り入れて埃をはたく場面がある。いつもより埃がいっぱいついている。なんでかっていうと、じつはちょうどその頃に浅間山の大噴火があった。埃はつまり風に乗って運ばれてきた火山灰だったわけだ。
つまり書き手は、時代小説の中において浅間山の噴火があった歴史的事実を説明するのではなく、いつもより多い埃として表現したというわけです。
なるほど、直木賞は「大衆文学」を対象とする賞といわれていますが、こういう表現一つが受賞できるかどうかを分けるものなんですね。
作者の村山由佳さんも直木賞の受賞者だけあって、この話はとても説得力があります。
◎「PRIZE」をオススメしたい理由
直木賞を手中にできるのは、間違いなく選ばれた人のみです。
しかし選出の過程においては「運」として片付けるしかない、不確かなものが確かに介在します。
でもそれは受賞においてです。
受賞できなかったことには理由があるのです。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉が当てはまりそうですが、天羽カインは選考委員に受賞できなかった理由を問い詰めたところ、散々に打ちのめされてしまいました。
彼女にとって、作品は我が子のようなものだといいます。
そのため、単行本にするときなど、あとから作品に手を入れることを断固として拒んできたのです。
そんな天羽カインが、編集者からの修正を受け入れるまでに至ります。
それは直木賞を取るために、です。
では結末をどう背負うのか。
本書はその覚悟が強く迫ってきた、読み応えのある小説でした。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
