「暗黒の瞬間」をおススメしたい理由とは|時空ラボ
正しいことをしようとして、間違えることがあります。
衝動的にではなく、熟慮した末に。
そして有能な刑事弁護士だったとしても。
「暗黒の瞬間」(エリーザ・ホーフェン)で描かれた過ちは、どれも容易には拭えないものばかりでした。
しかし、だからこそ、どこかで間違いを正す必要があったのです。
◎個人的な評価
★★★★★
エーファ・ヘアベアゲンはベルリンの刑事弁護士で、9つの忘れられない事件に関わっています。それぞれは彼女が良かれと思った判断によって、思いがけない結末を招いてしまったもの。本書はその過去を現在から遡るように紐解いていくミステリー作品です。
◎「暗黒の瞬間」の紹介
主人公のエーファは、30年もの刑事弁護士のキャリアにおいて、ある9つの事件を担当します。
それはいずれも、行き過ぎた/未熟な判断により、誤った結果(暗黒の瞬間)をもたらしたものです。
殺人を行った女性を無罪に導いた
厳罰を望んでた当人の意志に反したことが、行方不明の事態を招いた
被害者が無実の男性をも刑務所に送るのを妨げなかった
殺人犯を無罪にし、別の人を監獄に送り込んだ
事件を甘く見たことで依頼人が有罪になった
冷静に振り返ると、エーファは有能な刑事弁護士どころか、とんでもないドジっ子に映るかもしれません。
ただしこれらの出来事は、依頼人が正当な裁きが下されることに対し、誠実に向き合った結果なのです。
あくまで結果。
事件を解明に導くプロセスは、理にかなっているように見えます。
そんな本小説の語り口は極めて落ち着いており、彼女の内面・独白を淡々と記すのみです。
そこに引き込まれてしまうのが、本書の面白いところです。
◎内省の背後にある核心とは?
エーファ自身、ときには「自分のことしか考えていなかった」といった自省を抱えながら、「いつかすっかり飲み込まれてしまわないよう、気をつけなくてはならない」と戒めています。
そんな思慮深い人間が、それでも過ちを犯してしまう。
そして事件が思わぬ決着を迎えるたび、彼女が以前もっと闇深い犯罪に関わったことをほのめかすため、エーファという人物に深みが増していくのです。
物語も現在から過去へと遡っていく形をとっており、読者はエーファとともに少しずつ事の起こり(核心)に近づいていくことになります。
その過程で辿り着く「シュテファン・ハインリヒ」の事件は、エーファの悔恨の原点ともいえるもので、そこに最も重い過ちが秘められているのです。
もはや私たちは、彼女がもたらした思わぬ結果を受け止めるのみ。
あとは何があったのか、何が起ころうとするのかを知りたい気持ちに突き動かされてしまいます。
◎「暗黒の瞬間」をオススメしたい理由
本書のプロローグで、エーファはこう語ります。
今日、九月のある土曜日の朝、私はひとつの償いをした。重大な過ちを正した。いまはこれまでの歳月で積み重なった多くの暗黒の瞬間を過去のものにするときだ。
実際のところ、そんなエーファが犯した多くの過ちを、ひとつの償いで過去に置いて行けるほど軽いものではないでしょう。
それでもある種の決着を付け、弁護士の資格を返上した彼女の思いは、プロローグを読み返したときにじわりと迫ってきました。
これで長い旅の終着が訪れたようにも感じます。
「暗黒の瞬間」はミステリー小説の体裁を取りながら、人の生きざまの一部を追体験できる……そんな一冊ではないでしょうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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