マイアミまでWBCを観に行きました(中編)
第4章:マイアミの洗礼と、中日ユニフォームが起こした奇跡
・準決勝 キューバ対アメリカ
夕方からはいよいよマイアミでの準決勝第1試合、キューバ対アメリカ戦の日です。 ローンデポ・パークまではUberを使ってタクシーで移動しました。タクシーの運転手は陽気なキューバ人が多く、球場に近づくにつれてこちらのテンションもどんどん上がっていきました。

球場周辺は、すでにお祭り騒ぎでした。非公式の国旗やTシャツを売る出店がずらりと並び、周囲から聞こえてくるのはスペイン語ばかり。アメリカ人が多いかと思いきや、マイアミという土地柄もあってか見渡す限りキューバ人がかなり多い。

完全アウェーの孤独を感じていた矢先、私は自分の目を疑いました。視線の先にいたのは、なんと私と同じ中日ドラゴンズのユニフォームを纏ったキューバ人たちだったのです。言葉は通じずとも、お互いの胸元を指差した瞬間に沸き起こったあの大興奮。竜の叫びを耳にするにはあまりにも遠い地球の裏側で、野球の神様が用意した粋な演出にジーンと痺れました。

球場入りするには、日本同様に手荷物検査がありますが、ローンデポ・パークセキュリティは非常に厳格に定められています。

*ローンデポ・パークの持ち込み規定
1. 水の持ち込みについて
未開封のペットボトルの水であれば、1人1本まで持ち込み可能です。
詳細: 20オンス(約591ml)以下の、工場で密封されたプラスチック製のボトル(無味の水に限る)であれば許可されています。( Miami Marlins Official Access Guide および Gameday Guide 内の「Food and Beverage Policy」セクション。)
2. 手荷物(バッグ)について
「クリアバッグ(透明なバッグ)」が原則です。
詳細: サイズは16インチ×16インチ×8インチ(約40cm×40cm×20cm)以内。透明でない場合は、6インチ×8インチ(約15cm×20cm)以内の小さなクラッチバッグのみが許可されます。( loanDepot park Bag Policy (MLB.com))
3. カンフーバットの没収について
「棒状のもの(Sticks/Poles)」および「騒音器(Noisemakers)」として禁止されています。禁止アイテムリストに「Brooms, poles, staffs or sticks」と「Noisemakers (air horns, bullhorns, whistles, etc.)」が明記されており、プラスチック製の応援バットはこれに該当します。( loanDepot park Prohibited Items List)
広島ファンの従姉妹はこの応援バットを持って行きましたが、入口で没収。スクワット応援動画を見せ、用途を説明するも、攻撃可能性があるものと判断され持ち込みは叶わずでした。ただ、中でちらほら見かけたので持ち込めるかはセキュリティー担当次第なところはあるかもしれないですね。
そのほかでは
・フラッグのサイズ制限はなし
・モバイルバッテリー持込可
・大きめの傘持込NG
といったところでしょうか。

手荷物検査を抜けると巨大な特設グッズショップやモニュメントがある広場に出ます。そして、その広場の先にあるゲートでQRチケットをスキャンして初めて球場の座席エリア(コンコース)に入れます。
ここで、よく疑問に上がる3つのリアルな実態を整理しておきます。
1. 開場前でも広場には入れる?
入れます。球場内へのゲートが開くよりもずっと早い時間、だいたい試合開始の3〜4時間前から外の広場と特設グッズショップはオープンしています。本気で目当てのグッズがあるファンは、この早い時間を狙ってやってきます。
2. 観戦チケットがなくても、広場(グッズショップ)には入れる?
結論から言うと、試合日は当日のチケットがないと入れません。チケットをスキャンする機械自体は広場の先にありますが、手前にある手荷物検査の列に並ぶ際、警備員に当日のチケットを提示する必要があります。「チケットは外れたけどグッズだけ買いに行こう」と手ぶらで向かっても、手荷物検査を抜けられず門前払いになるので注意してください。
3. 試合終了後もショップは開いている?
試合終了後もしばらく営業はしていますが、後回しにするのは絶対に推奨しません。人気選手や勝ったチームのグッズは、試合が終わる頃にはほぼ確実に完売してしまうからです。

そして何より最大の注意点が、再入場が一切不可だということです。チケットをスキャンして中に入ってから、「やっぱり外の広いショップで買おう」と思っても戻ることはできません。球場内にもショップはありますが、外の広場に比べると規模が小さく品揃えも限られます。

ローンデポ・パークは、マイアミの強い日差しやスコールを避けるために巨大な開閉式屋根と冷房を備えた、天然芝の香りと外の景色が楽しめる全天候型の開放的なドーム球場です。日本ですとエスコンフィールドに近いようなデザインでしょうか。外野の奥がガラス張りになっておりドームにして開放感があります。

今回のマイアミ遠征では、準決勝2試合と決勝の計3試合をすべて1塁側の同じ席で観戦しました。座席は「SEC 7 / ROW D」。表記上は4列目ですが、前方にVIP専用のフィールドレベル席があるため、実質的には最前列から12列目あたりのポジションです。ローンデポ・パークは、チケットの種類に関わらず場内を360度ぐるりと1周できる開放的な造りになっています。しかし、いざ座席エリアに入ろうとすると話は別です。前方へ行けば行くほどセクションごとに厳格なセキュリティが目を光らせており、チケットを持たない者が入り込むことはできません。

この日は早めに球場入りしたので、場内散策も存分に楽しみました。

アメリカの球場では、地元のクラフトビール文化やスポンサー企業をアピールするために、空き缶をピクセルアートのように組み合わせてチームロゴや壁画を作る缶アートが名物になっているようで、マイアミで地元ブルワリーの特別デザイン缶やスポンサーの缶を大量に並べた壁が、ファンにとって定番の写真映えスポットとして親しまれており、マイアミの陽気なラテン気質と「野球とビール」という最高の組み合わせを象徴するモニュメントです。

これは球場内にある「ボブルヘッド・ミュージアム」と呼ばれる超人気展示です。最大の魅力は、ただ500体以上のフィギュアが並んでいるだけではないという点です。実は、この巨大なガラスケースの棚には微振動装置(バイブレーション・プレート)が組み込まれています。そのため、ケースの中の全フィギュアの首が、常にカタカタと小刻みに揺れ続けているのです。マーリンズの選手だけでなく、MLB全30球団のレジェンドやマスコットが揃っており、見始めるときりがありません。

WBC期間中限定で特設展示されていたこのトロフィーは、レプリカではなく、決勝戦の後に優勝チームへ実際に授与される本物のティファニー製チャンピオン・トロフィーです。世界一が決まる直前の、最も熱気を帯びた状態のトロフィーと写真を撮れたことは、レギュラーシーズンでは味わえない体験と言えます。
写真撮影のために並んでいると、目の前に古い日本ハムファイターズのユニフォームを着ているアメリカ人の青年がいたこと。思わず二度見して話しかけてみると、なんとあのオバンドーの御子息とのこと。球場を歩いているととにかく様々なユニフォームを見かける。モニュメントやトロフィーもいいが、とにかくこれがおもしろい。これもまたWBCならではなのかもしれない。

この日は、日本人の出場こそないもののキューバ代表には多くのNPBプレイヤーが招集されており、親近が湧きました。アメリカ代表ではマイコラス(元読売ジャイアンツ)の登板もありましたね。

・2023年WBC キューバ代表 NPB経験者
【投手】
・リバン・モイネロ (Liván Moinelo) - 福岡ソフトバンクホークス
・ライデル・マルティネス (Raidel Martínez) - 中日ドラゴンズ
・ジャリエル・ロドリゲス (Yariel Rodríguez) - 中日ドラゴンズ
・フランク・アルバレス (Frank Álvarez) - 中日ドラゴンズ(育成)
・オネルキ・ガルシア (Onelki García) - 元 中日ドラゴンズ、阪神タイガース【捕手・内野手】
・アリエル・マルティネス (Ariel Martínez) - 北海道日本ハムファイターズ(元 中日ドラゴンズ)
・ジュリスベル・グラシアル (Yurisbel Gracial) - 元 福岡ソフトバンクホークス
【外野手】
・アルフレド・デスパイネ (Alfredo Despaigne) - 福岡ソフトバンクホークス(元 千葉ロッテマリーンズ)
・ロエル・サントス (Roel Santos) - 元 千葉ロッテマリーンズ
・ヤディル・ドレイク (Yadir Drake) - 元 北海道日本ハムファイターズ

現地の人たちは底抜けにフレンドリーで、中日ドラゴンズを知っている人もちらほら。私の隣に座っていたキューバ人もアリエルの友人だったか親戚だったかで、中日ユニフォームを見て嬉しそうな様子でした。

試合前のアップから引き上げてくるライデルとアリエルに向けて声を張りました。すると、我々が着ているドラゴンズのユニフォームに気づき、二人からサムズアップのファンサが。 ジャリエルだけはリアクションがなく、スターターということで集中モードかと思っていましたが、帰国後にあの亡命のニュースを見て、妙に腑に落ちたのはここだけの話です。

いざ、プレイボール。本場のホームグラウンドで響き渡るアメリカのナショナルアンセムには、全身の鳥肌が立ちました。

試合自体は、スーパースター軍団のアメリカにキューバが立ち向かう展開。ターナーやゴールドシュミットの豪快なホームランが飛び出し、得点が乱れ飛ぶ長丁場のゲームになりました。ターナーの打席で場内に鳴り響いたMVPコールからは彼への期待値の高さが伺えます。終盤、リバン・モイネロ投手(ソフトバンク)やライデル・マルティネス投手(中日)もマウンドに上がりました。点差は開いていましたが、彼らがメジャー最強打線に対して真っ向勝負を挑む姿は、日本のファンにとっても見応えのある、この試合数少ないハイライトの一つでした。(亡命やめて)

この試合では、日本ではまず見かけない光景を目にしました。計3回にも及ぶグラウンドへの乱入者です。試合時間が長引いた一因でもありましたが、彼らは決して単なる悪ふざけではありませんでした。2021年の反政府デモで拘束された政治犯の解放を求める横断幕を掲げるなど、そこには切実な政治的アピールがありました。これに対し、「政治は外でやれ、今は野球を見せろ!」と激しいブーイングを浴びせる観客がいる一方で、会場を埋め尽くしたキューバ系の人々の反応は対照的でした。現政権を逃れてマイアミに渡った亡命者やその家族にとって、乱入者は故郷の自由のために命を懸ける英雄そのもの。彼らを讃えるように響き渡る「Libertad(自由を!)」の叫び。単なるスポーツの枠を超え、両国の複雑な歴史的背景を肌で感じた瞬間となりました。

試合後の外のステージは生バンドが演奏するフェス会場と化しており、お酒を飲みながら世界中の野球ファンと交流ができる素晴らしい空間でした。英語が拙い私でも、野球の話題になると意思疎通ができるので不思議です。アメリカは公共の場での飲酒は禁止されているので、広場を出るところで一滴残らず回収されます。蓋の開いたアルコール容器を持っているだけで違法になりうるので、ここは日本ではないということを改めて認識しておく必要がありました。帰りは球場周辺でUberを拾いました。試合終了直後は道が混雑するものの、タクシー乗り場のような場所は見当たらなかったので、タクシーを利用するなら安全面や利便性からもアプリ手配がおすすめです。

第5章:ハーレーで駆け抜けるマイアミと、交通のリアル
準決勝第2試合(日本vsメキシコ戦)当日。運命の一戦を前にした昼間、私はバイクを借りてミニツーリングに出かけました。本場アメリカの大地をハーレーで駆けるのは、長年の憧れだったんです。

アメリカでの運転はハードルが高そうに聞こえますが、
右側通行を守ること
赤信号でも安全確認ができれば右折OK
スクールバス停車時は対向車も必ず停車
といった基本ルールさえ押さえれば、道も広く意外と走りやすいものです。
当初はセブンマイル・ブリッジを渡ってキーウエストまで行くことも考えましたが、時間と体力を考慮して断念。実は行きの機内で隣だった、名古屋から来たという方と球場で偶然再会したのですが、その方はキーウエストまで行ってきたそうで、試合前だというのにすでに終盤のように疲れ果てていました。

今回お世話になったのは、Miami Motorcycle Rentalsというショップ。ハーレーからインディアンまで揃う、バイク好きにはたまらないラインナップです。私はあらかじめ予約していた、パワーと扱いやすさのバランスが絶妙なハーレーダビッドソン スポーツスター 883をお借りして、マイアミの風を存分に浴びてきました。
ちなみに私は大型二輪免許を持っていますが、国際運転免許証(二輪区分)を取得していれば、日本の普通二輪免許(中免)しか持っていなくても、海外では排気量制限がないため大型バイクにも乗ることができるとか。
フロリダ州の州法では一定の条件を満たせばヘルメットの着用義務を逃れることができますが、このお店では貸出時の着用を義務付けており、実際に慣れない道をかなりのスピードで運転するので安全性の観点からも着用はほぼ必須だと考えていいでしょう。意外な州法で行くと、眼の保護具着用が義務付けられており、サングラスやゴーグルをしていないと取締りの対象になるそう。これらのグッズはお店でも借りられますが、私は慣れてる物をと思い日本からヘルメットとグローブを持参していきました。さらに、今回持参してよかったのが、タンクに強力なマグネットで直接貼り付けられるスマホホルダー「FREAKMOUNT BILLET」です。 これのおかげでナビの案内を見ながら、見知らぬマイアミの街も迷わず快適に走ることができました。

また、最後にバイクを返却する際、ガソリンを入れて返す必要があるのは日本でも同じですが、ここで海外特有の洗礼を受けることになりました。立ち寄ったのはショップから10分ほど離れたリトル・ハバナ。リトル・ハバナは観光地として有名ですが、エリアによって雰囲気がガラリと変わります。
スタンドに入ると、どこからともなく「入れ方を教えてやるよ」と親しげに近づいてくる人の姿がありました。そのまま手伝ってもらうと、最後に「神の加護を」とチップを要求されるのがこの界隈の「オチ」。決して悪意があるわけではないのでしょうが、余計なトラブルを避けるなら、適度な距離感を保って自分の手で済ませるのがスマートです。
スタンドはクレジットカードで決済できるところが多いため、あえて現金を持たないというのも有効な防衛策です。もとより事前にレンタル屋で一番近くのガソリンスタンドを聞いておくと安心です。

ショップからはタクシーで一度ホテルに戻り、いよいよ準決勝。「少し早めに入って、ショップでグッズを買って」と企んでいましたが、大渋滞。マイアミは車社会ゆえに、時間帯や場所によっては道が全く動かなくなる大渋滞が発生します。今回の旅の移動は基本的にすべてUberを利用しましたが、時間に余裕を持った行動が必須です。
とはいえ、陽気なキューバ人運ちゃんとの車内も悪くありません。前日のキューバ戦の余韻が冷めやらず、千葉ロッテ時代のデスパイネの応援歌を教え込んで二人で熱唱したのはいい思い出。あの応援歌の原曲は、キューバゆかりの「月影のキューバ(Mágica Luna)」で、まさか日本人からこのメロディーが流れてくるとは思っていなかったようで、とても喜んでくれました。スペイン語が喋れずとも楽しい時間を過ごすことができ、音楽の偉大さを感じたとともに、この曲をデスパイネの応援歌に採用したジン・トシオ氏に敬意を表したい。
(後編へ続く)
