4/2 ニュースなスペイン語 Presunción de inocencia:無罪推定の原則
ウィキによると「無罪推定の原則」とは「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される原則」のことで、日本の裁判でも、そして、スペインの裁判でも重要視される。
ある被告の性的暴行(agresión sexual)の判決をめぐり、無罪推定の原則を柱とした司法とこの判断を「情けない(vergüenza)」と批判する行政との間にいざこざが発生している。
2023年1月29日の小欄でも取り上げたが、2022年12月末、サッカーチームFCバルセロナの選手(当時)だったダニ・アルベス(Dani Alves(写真左))がバルセロナ市内のディスコのトイレで女性に性的暴行を加えたとして、逮捕・起訴された事件があった。
アルベスは第一審で禁錮(prisión)4年6ヵ月の判決が出て、その後、収監されていたが、先月28日、カタルーニャ州高等裁判所(Tribunal Superior de Justicia de Cataluña)はこの一審を破棄し(ha revocado)、一転、アルベスに対して無罪(absuelve)の判決を出した。
高等裁判所の判決の詳細には、今回は、踏み込まないが、被害女性について「暴行の証拠がない(no hay pruebas de la agresión)」し、「原告の証言は信用できない(el testimonio de la demandante no es fiable)」とした。
そして、第一審については「証言の空白、不明確さ、一貫性の無さ、矛盾(vacíos, imprecisiones, inconsistencias y contradicciones)」が見られるとまで断じた。
この判決に対して、第一副首相(vicepresidenta primera)、つまり、 ペドロ・サンチェス(Pedro Sánchez)政権のナンバー2であるマリア・ヘスス・モンテロ(María Jesús Montero(写真右))は、遊説先で
スペイン社会労働党が女性の権利、賃金格差、年金制度の見直し、その他、我々女性が日々の生活の中で差別されてきた項目、もしくは、果たすべき役割が果たせなかった項目で、あらゆることをやってきたのに、この判決とは情けないにも程がある(Qué vergüenza después de todo lo que ha hecho el PSOE en el reconocimiento de los derechos de las mujeres, de la brecha salarial, en las pensiones, en todo aquello que refleja que a lo largo de nuestra vida hemos sido discriminadas o no hemos jugado el papel que teníamos que jugar)
と述べ、怒りをあらわにした。そして、
だから、被害女性に、私たちはあなたと共にいるからと伝えたい(Por eso desde aquí queremos decirle a esta mujer que estamos contigo)
とエールを送った。こうしたモンテロに対して、
① アナ・レドンド(Ana Redondo)
② イオネ・ベララ(Ione Belarra)
③ クカ・ガマラ(Cuca Gamarra)
といった小欄でもお馴染みの女性議員らはどのように反応したか。
①はモンテロの朋友であり、男女平等省(Igualdad)大臣なので、「またしても被害女性の証言が問題視された。そして、またしても男性のことばが女性のことばの上に立った(De nuevo se cuestiona a la víctima, de nuevo la palabra de un hombre prevalece sobre la mujer)」とSNSに投稿し、今回の高等裁判所の判決を批判した。
②は極左政党ポデモス(Podemos)の党首で、フェミニズム政治の第一人者。だから、
私たち女性は何かあれば裁判で訴えろと言われるが、いざ、裁判を起こせば、出るのは男性社会特有の判決で、これは組織的な暴力とと言える(Se nos dice que vayamos a la justicia y cuando vamos a la justicia lo que nos encontramos es una justicia patriarcal, es violencia institucional)ーー。
被害女性に不利な判決には容赦ない。
一方、③は最大野党である国民党(PP)の幹事長で、
無罪推定の原則が無ければ国家は滅ぶ。情けないのは、この民主主義の最も根幹をなす原則に言及もせず、社会労働党お決まりの民衆迎合型の介入をして、裁判官を批判するモンテロ氏の方だ(Sin presunción de inocencia se acaba con el Estado de derecho.Lo que es una vergüenza son las intervenciones populistas y los ataques a los jueces de la señora Montero, obviando los principios democráticos más básicos)
と述べ、司法寄り(というか、反モンテロ・反サンチェス政権)の路線。
モンテロのこうした反発に対して、司法を構成する検察(fiscales)と裁判官(jueces)の関連団体(asociaciones)は、司法の独立は法治国家の基本的な機動力である(la independencia del poder judicial es un pilar fundamental del Estado de Derecho)と声明を出し、判決を「尊重(repeto)」するよう要請した。
このいざこざ、まだ、続きそう。
写真はアルベス(左)とモンテロ。
余計な情報だが、第一審を破棄し、アルベスを無罪とした判決を出した裁判官の構成は3人の女性裁判官(tres juezas) 、1人の男性裁判官(un juez)だったという。
血や涙といった「水(サンズイ)」を取り「去」ったのが「法」なので(小生の勝手な解釈)、同性のよしみとか被害者への同情という法律外のことを一切除外し、法と証拠の整合性にのみ基づいた判決だろうから、冷静かつ冷酷なのは当然。
あとは、被害者感情にどう配慮するかだけど、これは、純粋な法律論からは外れるような気もする。
