米国12州の提訴を受けParamountによるWBD買収に差し止め命令、8月3日の審理が次の焦点
ParamountによるWBD(Warner Bros. Discovery)の買収計画は、企業価値約1100億ドル、株式価値約810億ドルに上ります。米司法省は6月12日に独占禁止法上の調査を終了しましたが、EUと英国では審査が続いています。
こうした中、カリフォルニア州を含む12州は7月13日、買収が映画配給とケーブルテレビ番組供給市場の競争を損なうとして、カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提訴しました。各州は、買収によって映画や番組の本数が減り、価格の上昇や品質の低下につながると主張しています。
さらにWGA(Writers Guild of America)も翌14日、統合後の会社が脚本家にとって最大の発注者となり、賃金や雇用機会を抑える力を持つとして、別の訴訟を起こしました。
12州は、本案訴訟の審理中に買収が完了することを防ぐため、TRO(Temporary Restraining Order、一時的差し止め命令)と予備的差し止め命令を申し立てました。これを受け、Araceli Martínez-Olguín判事は7月20日、ParamountとWBDに対して14日間、買収を完了しないよう命じました。裁判所は8月3日に、買収を本案訴訟の判断まで停止する予備的差し止め命令について審理する予定です。
これまでの経緯と今後の主な日程
以下はいずれも2026年の日付です。
6月2日 EUが企業結合の正式届出を受理
European CommissionがParamountによるWBD買収の届出を受理し、審査を開始しました。
6月9日 英国で第1段階審査が開始
CMA(Competition and Markets Authority、競争・市場庁)が、英国市場の競争を実質的に低下させる可能性がないかを調べる第1段階審査を開始しました。
6月12日 DOJが買収に関する調査を終了
DOJ(Department of Justice、米司法省)は、買収が競争や米国の消費者を害する可能性は低いとして調査を終了しました。ただし、これは裁判所による承認ではなく、DOJが差し止め訴訟を起こさないと判断したことを意味します。
6月30日 英国政府が公益介入の意向を表明
英国政府は、メディア所有とニュースで示される見解の多様性への影響を理由に、公共利益介入通知を出す方向で検討しているとParamountに通知しました。現段階では正式な介入通知ではありません。
7月13日 カリフォルニア州など12州が提訴
Rob Bontaカリフォルニア州司法長官を含む12州の司法長官は、買収がClayton法に違反するとして、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に提訴しました。同時に、TROと予備的差し止め命令を申し立てました。
7月14日 WGAが買収阻止を求めて提訴
米国の脚本家組合Writers Guild of America WestとWriters Guild of America East(以下、総称してWGA)は、買収によって脚本家を雇う側の競争が損なわれるとして、同じ連邦地裁に提訴しました。
7月17日 連邦地裁が12州のTRO申立てを審理
Araceli Martínez-Olguín連邦地裁判事が双方の主張を聴取しました。
7月20日 連邦地裁が14日間の一時的差し止め命令を発令
Araceli Martínez-Olguín判事は12州の申し立てを認め、ParamountとWBDに14日間、買収を完了しないよう命じました。予備的差し止め命令に関する審理は8月3日に予定されています。
7月22日(予定) EUの暫定審査期限
8月3日 予備的差し止め命令に関する審理
8月7日(予定) 英国CMAの第1段階審査期限
CMAは、審査を終えるか、是正措置を受け入れるか、詳細な第2段階審査へ付託するかを判断する予定です。期限は一定の条件下で延長される可能性があります。
9月1日 英国議会が夏季休会から再開
9月30日(目標) Paramountの買収完了目標
Paramountは9月末までの完了を正式な目標としています。9月30日を過ぎると、WBD株主に対する追加対価が日割りで発生し、90日当たり総額約6億5000万ドル相当になる可能性があります。
12州は消費者と流通市場への影響を主張
カリフォルニア州を含む12州の司法長官は、この買収が競争を実質的に減少させる恐れのある企業結合を禁じるClayton法第7条に違反すると主張しています。
州側によると、両社が統合すれば、統合会社は米国の劇場映画配給とケーブルテレビ向けの番組でそれぞれ約3分の1、大作映画でも3割超を占めることになります。映画館や有料テレビ事業者に対する交渉力が強まり、映画チケットやケーブルテレビの料金上昇、作品数と選択肢の減少、作品の質の低下を招く恐れがあるとしています。映画・テレビ業界で働く人の報酬や雇用機会が減少する可能性も指摘しています。
WGAは脚本家の雇用市場に焦点
WGAは、統合後の企業が米国でオリジナル映画・テレビ番組を企画・発注する最大手となり、脚本家にとって最大の雇用主になると主張しています。その結果、脚本家を雇う側の競争が失われるというのがWGAの中心的な論点です。WGAが問題としているのは、次の3つの脚本執筆サービス市場です。
制作費1億ドル以上の大作映画
テレビ・配信シリーズ
脚本家や制作者との包括契約
仕事の発注先が減れば、脚本家の報酬や契約条件に引き下げ圧力がかかり、若手脚本家の参入も難しくなるとしています。制作される映画や番組の数と多様性が失われるほか、残る大手スタジオが暗黙に足並みをそろえ、脚本家への提示額を抑える危険も指摘しています。
Paramountは「競争促進的」と反論
Paramountは、買収は競争を妨げるものではなく、むしろ「競争促進的」だと反論しています。
有料テレビの契約者が減少し、Netflix、Disney、Amazon Prime Videoなどとの競争が激化するなか、両社の統合によって、大手配信・テクノロジー企業に対抗できる事業規模を確保できると主張しています。買収後は年間30本以上の映画を劇場公開し、ParamountとWarner Bros.の映画スタジオを別々に維持する方針です。年間30本という計画を書面で確約する用意もあるとしています。
米国裁判の焦点は8月3日の審理
12州は、本案訴訟の審理中に買収が完了することを防ぐため、一時的差し止め命令と予備的差し止め命令を申し立てました。Araceli Martínez-Olguín判事は7月17日に双方の主張を聴取し、7月20日、ParamountとWBDに14日間、買収を完了しないよう命じました。
今回の一時的差し止め命令は、買収が違法であると最終判断したものではありません。両社を別会社のまま維持し、裁判所がより長期の予備的差し止め命令を検討する時間を確保するための暫定措置です。
裁判所は8月3日に予備的差し止め命令について審理する予定です。これが認められれば、買収は本案訴訟の決着まで停止される可能性があります。認められず、ほかの裁判所命令もなければ、Paramountは米国訴訟上、買収を進められる可能性があります。ただし、審理日程や判断時期は変更される可能性があります。
買収後の分離は「混ぜた卵を戻す」難しさ
買収が先に完了しても、州側やWGAの訴訟が法的に無意味になるわけではありません。裁判所は完了後に事業分離や資産売却を命じることもできます。しかし、部門統合や機密情報の共有、重複部門の整理、従業員の解雇、映画・テレビ企画の中止が始まれば、両社を元の状態に戻すことは極めて困難です。州側はこれを「一度混ぜた卵を元に戻す」ことの難しさに例え、後から分離を命じても競争を完全には回復できないと主張しています。そのため州側は、今回の一時的差し止め命令で8月3日まで現状を維持し、続いて予備的差し止め命令を得ることで、独立した2社の状態を本案判断まで維持しようとしています。
WGAの訴訟は、消費者、映画館、ケーブル事業者への影響を中心とする州側の主張に、脚本家を雇う側の競争が失われるという労働市場の論点を加えています。ただし、WGA独自の緊急TRO申立ては現時点で確認されていません。買収は今回の一時的差し止め命令によって当面停止されました。今後さらに長期間停止されるかどうかは、12州が求める予備的差し止め命令の判断にかかっています。
Paramountは迅速な判断を求める
Paramountは、予備的差し止め命令について早期に審理し、遅くとも9月上旬までに判断が得られる日程を求めていました。裁判所は7月20日に14日間の一時的差し止め命令を出し、予備的差し止め命令に関する審理を8月3日に設定しました。ただし、この日程は変更される可能性があり、判断が同じ日に示されるとは限りません。
Paramountは今回の命令について、裁判所が反トラスト上の争点を検討する間、現状を維持するものだと説明しています。そのうえで、12州が設定した市場の範囲や競争への影響に関する主張には根拠がないとして、引き続き買収の適法性を争う方針です。
9月30日までに買収を完了できなければ、ParamountにはWBD株主への追加対価が発生します。Paramountには取引を急ぐ経済的な動機がありますが、州側は、この負担はParamountが自ら合意した契約条件であり、競争上の問題を十分に審査する前に買収を認める理由にはならないと反論しています。
DOJの調査終了後も州は独自に提訴
DOJは6月12日、買収が競争や米国の消費者を害する可能性は低いとして調査を終了しました。
ただし、これは行政機関による正式な「承認」とは異なります。米国では、DOJが企業結合を一方的に禁止するのではなく、阻止する場合は裁判所から差し止め命令を得る必要があります。DOJの判断は連邦地裁を拘束せず、州司法長官による独自の反トラスト訴訟も妨げません。
Paramountは、中国、カナダ、オーストラリアなどで競争法上のクリアランスを得たと発表しています。一方、EUと英国では審査が続いており、買収の実現にはなお法的・規制上の障害が残っています。
EUの判断は残る規制上の焦点
7月22日が重要なのは、European Commissionの決定が出るまで、EUの企業結合規則上、両社は原則として取引を実行できないためです。European Commissionは、無条件で買収を承認するほか、事業売却などの是正措置を条件に承認したり、十分な是正措置が示されなければ買収を禁止したりできます。是正措置の提示は「不承認」を意味するものではなく、競争上の問題を解消したうえで条件付き承認を得るための手続きです。
ParamountはEU側に是正措置を提示しており、その内容を評価するため、暫定的な審査期限が7月22日に設定されました。ただし、米国では7月20日に14日間の一時的差し止め命令が出されているため、EUのクリアランスが得られても、7月22日に買収を完了することはできません。EUの承認によって規制上の障害の一つは取り除かれますが、買収成立時期を直接左右する次の焦点は、8月3日の予備的差し止め命令に関する審理です。
英国審査は買収完了後にも影響する可能性
英国では、CMAが第1段階審査を進めています。8月7日までに、競争上の問題はないとして審査を終えるか、両社が提示する是正措置を受け入れるか、詳細な第2段階審査へ付託するかを判断する予定です。
これとは別に、Lisa Nandy文化相は、メディア所有とニュースで示される見解の多様性への影響を理由に、公共利益介入通知を出す方向で検討しているとParamountに通知しました。現段階では正式な介入通知ではなく、7月6日までに寄せられた意見を踏まえて判断を検討している段階です。
Deadlineによると、Nandy文化相は正式に介入するかどうかを明らかにしないまま、下院が夏季休会に入りました。この手続きに関する政府の発表は、まず議会に報告されるとみられているため、判断が議会再開日の9月1日以降になる可能性があります。
正式な公共利益介入通知が出されれば、OfcomとCMAによる追加調査が行われ、英国の手続きは9月30日を超える可能性があります。ただし、英国の企業結合審査には、審査中の取引完了を自動的に禁止する制度はありません。法的には英国の手続き完了前に買収を成立させることも可能ですが、CMAから事業統合の停止や分離維持を命じられたり、完了後に資産売却を求められたりするリスクがあります。
今後の見通し
今回の一時的差し止め命令によって、7月中に買収が成立する可能性はなくなりました。次の大きな焦点は、8月3日に予定されている予備的差し止め命令の審理です。予備的差し止め命令が認められれば、買収は本案訴訟の決着まで停止され、計画自体の維持が難しくなる可能性があります。
一方、米国で差し止めを回避しても、EU、英国CMA、英国政府による審査や判断が残ります。特に英国政府の判断が9月まで持ち越され、Paramountが英国の手続き完了を待つ場合、買収成立は9月以降になる可能性があります。9月30日を超えると追加支払いが発生するため、今後は規制・訴訟リスクだけでなく、時間と費用も買収計画を左右します。
◆ 業界再編(M&A)
BanijayとMediawan、Lionsgate Studios買収に関心
BanijayとMediawanが、時価総額約38億ドルのLionsgate Studiosの買収に関心を示しています。Reutersによると、Lionsgateは外部からの買収打診を検討するため投資銀行を起用しましたが、取引が成立するかは不透明です。Canal+の大株主であるBolloré SEとその関係者は、買い手候補ではないとみられています。
Starzから分離したLionsgate Studiosは、映画・テレビ番組の制作と配給、タレントマネジメント、2万本を超える作品ライブラリを擁する上場企業です。All3Mediaを統合中のBanijayと、North Road Companyを買収して米国事業を拡大したMediawanのいずれかがLionsgate Studiosを買収すれば、米国のスタジオ・作品ライブラリ事業の規模が大幅に拡大します。また、欧州主導による制作会社の統合から、Hollywoodのスタジオ所有へ踏み込む大きな一歩となります。
◆ 規制・政策
FCC、テレビ局所有を「全米世帯の39%まで」とする上限の見直しを採決へ
FCC(連邦通信委員会)は8月6日、1社が所有するテレビ局の放送が届く範囲を全米テレビ世帯の39%以下に制限する現行の上限を、個別案件の公益審査に置き換える命令案を採決します。FCCは、公益に資する取引を承認する一方、基準を満たさない取引は拒否できるとしています。
Brendan Carr委員長は、地方局グループの大規模化によって、全国ネットワークから供給される番組を放送しない、または地域に合う別の番組へ差し替える力が強まり、地方ニュースへの投資も促進できると主張しています。NAB(National Association of Broadcasters、全米放送事業者協会)、Nexstar、Sinclairも、現行規制は現在のメディア市場に合わないとして見直しを支持しています。特にNexstarは、この規制がNetflixやYouTubeなどの普及以前の競争環境を前提としていると指摘しています。
一方、FCCで唯一の民主党員であるAnna Gomez委員は反対を表明しました。全米テレビ世帯の39%という上限は連邦法で定められており、引き上げまたは撤廃できるのは議会だけだと主張しています。また、規制緩和によって公共の電波の支配が一部企業に集中し、地方のニュース編集部や地域報道が損なわれると警告しています。
Starlinkが変えるユニバーサルサービス――地方通信の切り札か、光回線整備の後退か
英国の通信規制当局Ofcomは、Starlinkが通信速度、遅延、データ容量、料金などの基準を満たすとして、10Mbps以上の接続を確保するユニバーサルサービス提供義務(USO)の代替手段になり得ると確認しました。これにより、Starlinkを利用できる地域では、BTによるUSO接続の対象外と判断されるケースが増える可能性があります。固定回線または固定無線で十分な通信環境を得られない約3万9000の住宅・事業所のうち、実際にStarlinkを利用できる場所では、衛星通信が代替手段として提示されることになります。
この判断は、ユニバーサルサービス制度を変更するものというより、従来の技術中立原則を低軌道衛星にも適用したものです。技術中立型の制度を採用するEU加盟国や、ブロードバンド・ユニバーサルサービス制度を運用する日本などでも、低軌道衛星を過疎地の最終的な通信手段として認めるかを検討する際に、参考例となる可能性があります。
一方、Starlinkが形式上利用可能であることだけを理由に通信事業者の整備義務を免除すれば、地方の光回線整備が停滞する懸念もあります。アンテナ設置の可否、料金変動、混雑時の通信品質、災害時の継続性、外国企業への依存などを考慮し、それぞれの住宅や事業所で継続的かつ手頃な料金で利用できることを確認したうえで、代替手段と認定する制度設計が必要です。
FCC、免許不要な周波数帯による衛星D2D通信を検討
FCC(米連邦通信委員会)のBrendan Carr委員長は、合計225MHz超の帯域幅に相当する免許不要周波数帯を対象に、FCC認可の衛星と地上の免許不要機器を直接接続する制度の検討を提案しました。衛星と地上機器間の上り・下り通信に加え、免許不要機器を宇宙船内や宇宙船間で使用することも検討対象です。これまで企業各社がD2D向け専用周波数の確保に約400億ドルを投じてきた中、周波数免許を取得する費用や負担を抑え、圏外地域向け通信や新たな機器・サービスを促進する狙いがあります。
圏外地域の通信は、すでに免許帯を使うD2D(端末直接接続)で実現されており、利用者が個別に周波数免許を取得する必要もありません。このため、地上向け通信に免許不要帯を採用する技術的必然性は乏しく、主な意義は、衛星事業者による高額な専用周波数確保の負担を軽減し、新規参入やサービス開発を促しやすくすることにあると考えられます。
現実的な用途としては、地上での利用が少ない地域におけるセンサーなどの低速通信や実験的サービス、宇宙船内や宇宙船間の通信などが考えられます。免許帯D2Dを置き換えるのではなく、通信品質の保証を前提としない補完用途が中心になる可能性があります。提案はまだ規則制定に向けた検討段階であり、干渉防止策や対応機器、利用条件は決まっていません。
◆ 業界動向
オーストラリアのFoxtel、NRL放映権を軸に国内基盤と海外展開を強化
オーストラリア最大手の有料テレビ・多チャンネル事業者Foxtelは、スポーツへの年間支出が約12億豪ドル(約1360億円)となり、コンテンツ予算全体の約90%を占める見通しです。主因は、2028年に発効する新たなNRL(National Rugby League)放映権契約をはじめ、人気スポーツの放映権料が高騰していることです。
Foxtelは衛星やインターネット経由の多チャンネルサービスのほか、スポーツ配信サービスのKayo Sportsやエンターテインメント配信サービスのBINGEを展開し、2024年9月末時点の有料契約数は重複を含めて約462万件でした。従来型有料テレビではオーストラリアの圧倒的最大手であり、配信を含めても国内最大級の動画サービスグループです。
NRLはオーストラリアを中心に行われるラグビーリーグのプロリーグで、AFL(Australian Football League)と並ぶ同国の代表的なスポーツリーグです。AFLは、オーストラリア独自のオーストラリアンフットボールのプロリーグです。Foxtel系サービスに加入するスポーツファンの39%がラグビーリーグに関心を持ち、加入者の16%は同社のスポーツ番組のうちNRLしか見ないことから、NRLは加入者の獲得と維持に欠かせないコンテンツとなっています。
Foxtelは映画やドラマではNetflixやDisney+などのグローバルな配信サービスとの競争に直面しています。そこで、オーストラリアの視聴者との結びつきが強く、代替の利かないNRLやAFLのライブ中継を確保し、「国内スポーツを見るならFoxtelまたはKayo Sports」という地位を維持しようとしています。
今回の入札は、Foxtelが2025年にグローバルなスポーツ配信事業者DAZNの傘下に入ってから、初めて行ったオーストラリア国内の主要スポーツ放映権入札です。FoxtelとKayo Sportsが国内でファンとの関係を深める一方、DAZNの国際的な配信・マーケティング基盤を利用し、権利上可能な国や地域でNRLの視聴者を増やす狙いもあります。
ただし、スポーツへの投資集中によって映画やドラマへの投資余力が減るほか、視聴料金の上昇や特定競技への依存もリスクになり得ます。戦略の成否は、DAZNが国外で試合を配信するだけでなく、NRLを知らない視聴者との接点を作り、継続的なファンに育てられるかにかかっています。
◆ メディア
米国での配信サービス選びでは価格重視が鮮明に、ライブスポーツの重要度も上昇
物価上昇や相次ぐ値上げを背景に、消費者はTV・配信サービスの価値を判断する際、価格を強く意識しています。Hub Entertainment Researchの調査では、「低価格」の重要度が2025年の12%から2026年には21%へ上昇し、最も重視される要素となりました。ライブスポーツも7%から13%へ上昇しました。一方、広告なしは8%で変わらず、全シーズン・全話がそろっていることは9%から8%、全話を一括視聴できることは8%から7%へ低下しました。
2026年の月間実支出は82ドルで、2025年の83ドルからほぼ変わっていません。しかし、支払ってもよい上限は86ドルから93ドルへ上昇しました。実際の支出を抑える一方、物価上昇や値上げによって、今後はより多く支払わざるを得ないと消費者が認識していることがうかがえます。
サービスの価値を「非常に高い」と評価した割合では、無料配信サービスのTubiが48%で首位となり、YouTube PremiumとPluto TVが44%、The Roku Channelが43%で続きました。このほか、Prime Videoが36%、HBO MaxとApple TVが35%、Disney+が33%、Netflixが32%でした。広告付きの無料版YouTubeは24%で最下位となり、Hubは、広告なしの動画と音楽を利用できるYouTube Premiumの幅広い価値が高評価につながったとみています。
ライブスポーツの重要性が増す一方、視聴先の分散が消費者の負担になっています。27%が見たいスポーツをすべて視聴するために3つ以上の有料契約を必要とし、30%は契約しているスポーツ関連サービスが多すぎると回答しました。また、45%はスポーツバンドルがあれば現在の通信事業者を継続しやすくなると答え、43%は、より優れたバンドルを提供する事業者へ乗り換える意向を示しました。
PwCは、米国のOTT市場が2025年の1133億ドルから2030年には1575億ドルへ拡大すると予測しています。ただし、加入者数の伸びは緩やかになるため、今後は料金の引き上げ、広告、ライブスポーツ、独自コンテンツ、バンドルが主な成長要因になるとみられます。
Netflix、2026年第2四半期は増収増益 広告・ライブ配信・AI活用を強化
Netflixの2026年第2四半期の売上高は前年同期比13.4%増の125億6000万ドル、営業利益は11%増の41億9300万ドルとなりました。営業利益率は33.4%、純利益は34億100万ドル、希薄化後1株利益は0.80ドルでした。売上高は会社予想に沿い、営業利益と営業利益率、希薄化後1株利益は会社予想をわずかに上回りました。
第3四半期は売上高128億6000万ドル、前年同期比11.7%増を見込んでいます。2026年通期の売上高予想は510億~514億ドルに絞り込み、営業利益率31.5%の見通しを維持しました。会員数の増加、料金改定、広告事業が成長を支え、広告収入は年間約30億ドルと前年からほぼ倍増する見込みです。
2026年上半期の総視聴時間は970億時間を超え、前年同期比2%増加しました。一方、Netflixは視聴時間と売上高・営業利益が単純に比例するわけではないと説明しています。ライブ番組はコンテンツ予算の5%強を占める一方、視聴時間は約1%にとどまります。それでも、過去5年間の新規会員登録数上位10日のうち6日はライブイベントの開催日で、会員獲得や広告販売への効果が大きいとしています。
Netflixは、ライブ配信、ビデオポッドキャスト、クリエイター作品、クラウドゲームなどを段階的に拡充する方針です。フランスで始めたTF1との提携については、初期成果を評価しながら検証を続け、利用者、提携先、Netflixの三者に利益をもたらす同様の案件があれば検討します。AIについては、作品検索や広告業務に加え、約300作品の制作工程でも生成AIを利用しています。これにより制作期間の短縮や品質向上が可能になり、コスト削減分は追加のコンテンツに再投資する可能性が高いと説明しています。
また、視聴データをまとめた「What We Watched」は、2027年から第1四半期に年1回発表する方式へ変更します。ただし、90カ国以上の週間Top 10や作品別視聴データの公開は継続します。Netflixは、視聴時間の量だけでなく、作品の品質と多様性も合わせて評価し、最終的な売上高と営業利益を重視する姿勢を示しています。
BBCとChannel 4、iPlayerを軸とした配信提携を検討
BBCとChannel 4は、Channel 4の番組をBBC iPlayerで提供する提携を検討しています。両者はいずれも英国の公共放送事業者ですが、BBCが主に受信料を財源とし、BBC番組を原則広告なしで提供する一方、公的所有のChannel 4は主に広告収入で自主運営しています。今回の構想では、こうした事業モデルの違いを維持し、Channel 4がiPlayer上でも広告収入型の運営を継続することが想定されています。
BBCのDirector-Generalを務めるMatt Brittin氏は、SkyによるITVのMedia & Entertainment事業の買収案が進むなか、Channel 4の事業規模は相対的に非常に小さいと指摘しました。そのうえで、世界的な配信プラットフォームに対抗するには、英国の公共放送事業者が連携して規模を確保する必要があるとの考えを示しました。
この構想には、Channel 4がiPlayerを新たな配信経路として活用し、広告収入型の事業モデルを維持しながら視聴者との接点を広げるという支援策の側面があります。一方、BBCもChannel 4のコンテンツを加えることでiPlayerの魅力を高め、利用機会を増やせる可能性があるため、一方的な救済ではなく、両者による相互防衛策とみることができます。
「欧州版Netflix」ではない――MFEが築く巨大な欧州放送・配信ネットワークの実像
MFE(MFE-MediaForEurope)は、イタリアを基盤として欧州各国でテレビ・配信事業を展開する商業放送グループです。同社は2027年1月から、自社が事業を展開する欧州市場で、共通配信基盤を展開する予定です。新しい基盤には、イタリアのMediaset Infinityを基にした画面設計と、ドイツのJoynで使用されている技術が採用されます。
Mediaset Infinityは、MFE傘下のMediasetがイタリアで展開する動画配信サービスです。一方、Joynは、ドイツの大手民放グループであるProSiebenSat.1が運営する動画配信サービスです。ProSiebenSat.1は現在、MFEが株式の75.61%を保有する傘下企業となっています。
MFE傘下の放送局や配信サービスを共通の技術基盤で結び、利用者データや広告販売の統合を進める構想です。この配信基盤がカバーする事業地域の人口は約2億人に上ります。ただし、これはサービスの想定利用者数ではありません。
番組編成は、引き続き各国の視聴者に合わせて行われます。少なくとも現時点では、欧州の放送局が共同で同じ番組を提供する仕組みではありません。外部の放送局やスタジオの作品については、今後、個別のライセンス契約などによって補完される可能性がありますが、具体的な参加企業や契約内容はまだ発表されていません。
MFEは対象市場で約25%のリニアテレビ視聴シェアと、約45%のテレビ広告シェアを持っています。イタリアでは首位であり、スペインやドイツ語圏でも大手に位置します。デジタル分野でも、月間約7260万の利用端末・ブラウザと約1450万のログイン利用者を抱えており、欧州商業放送の有力な一極となる規模を備えています。なお、7260万は利用者数ではなく、動画を視聴した端末・ブラウザを基にした指標です。
ただし、国際映画や大作ドラマなどの外部コンテンツが十分に加わらなければ、NetflixやYouTubeに対抗する汎欧州型サービスになるのは難しいでしょう。実態としては「欧州版Netflix」というより、各国の有力民放サービスを共通基盤で束ね、配信と広告販売の競争力を高める巨大な欧州放送・配信ネットワークだといえます。
Netflix、従来のテレビ放送のように常時番組を流すライブチャンネルを導入か?
Netflixは、利用者の関与低下への懸念を背景に、ジャンルごとに映画や番組を常時配信する「ライブチャンネル」の導入を検討しています。また、Peacockなど他社の動画配信サービスをNetflixアプリ内に統合し、AmazonやAppleのような総合プラットフォームへ発展させる案も浮上しています。
背景には、過去1年間でNetflixの株価が40%以上下落し、米国におけるテレビ視聴シェアも4月に7.8%まで低下したことがあります。同社はすでにスポーツ中継を提供し、短編コンテンツの配信も予定しています。さらに、フランスの放送局TF1との提携を足掛かりに、欧州や中南米でも同様の提携を広げる可能性があります。
一方、広告分野の専門家からは、広告枠の拡大によって希少性が薄れた場合、市場で最高水準とされるNetflixの広告料金に見合う効果が得られるのかが問われるとの指摘も出ています。
Disney+、無料コンテンツの提供検討と多言語対応の拡充で視聴者層の拡大へ
Disneyは、Disney+により多くの視聴者を呼び込むため、無料コンテンツの提供を検討する一方、多言語対応を拡充しています。YouTubeなどの広告付き無料配信プラットフォームとの競争を念頭に、一部のDisney+コンテンツを無料で提供する案を検討しています。提供時期や対象市場、コンテンツの範囲は未定ですが、実現すれば、サブスクリプションと広告付き無料視聴を組み合わせるハイブリッド型への移行を示す動きです。
一方、世界各地の視聴者が利用しやすい環境を整える施策として、新たに17言語を追加し、音声対応を計58言語に拡大しました。ユーザーインターフェースは30言語以上、字幕とクローズドキャプションは最大42言語に対応しています。さらに、アラビア語やヘブライ語などに適した、右から左へ表示するインターフェースも導入しています。
Disneyは、無料コンテンツの提供を検討することで利用開始のハードルを下げるとともに、多言語対応によって言語面の利用障壁を減らし、Disney+への接点を増やすことで、世界規模で視聴者層を広げようとしています。
Rakuten TV、欧州8市場でSonyのFASTチャンネル20局を開始
Rakuten TVはSony Pictures Entertainmentとの提携により、欧州8市場で20のFAST(無料広告付きストリーミング)チャンネルを開始しました。『Shark Tank』『The Blacklist』『Bewitched』などの番組ブランド別チャンネルに加え、コメディーやスリラーなどのジャンル別チャンネルも提供します。ほとんどのチャンネルは各市場向けにローカライズされていますが、北欧では英語版を配信します。今回の拡充により、Rakuten TVのFASTチャンネルは500局を超え、欧州43地域の1億5000万世帯以上に提供されます。
◆ インフラ
CableLabs、XGS-PONの相互運用性向上とCPONの実用化に向けた仕様策定を推進
ケーブル事業者のアクセス網では、HFCとDOCSISに加えてPONの導入が広がっています。CableLabsは、DOCSISで実現してきたマルチベンダー環境をPONにも広げるため、異なるメーカーのOLTとONUを相互接続できる環境の確立に取り組んでいます。
当面の重点はXGS-PONです。ITU-T G.988で規定されるOMCIには任意項目や解釈の余地が多いため、CableLabsのCPMP作業部会は、必須項目と任意項目を明確にするCable OpenOMCI仕様を策定しました。2026年6月の相互運用試験には、Adtran、Calix、Ciena(RocNetが代理)、Nokia、Hitron、Sagemcom、Tinno、TP-Linkが参加し、ONU登録時間の短縮、コードダウンロードの高速化、性能監視、トラフィック分類などに関する機能を検証しました。
CableLabsはさらに、アクセス網にコヒーレント技術を適用し、100Gbpsの通信容量を提供するCPONも検討しています。ネットワーク集約、モバイルのバックホール、ミッドホール、フロントホール、256分岐の大規模FTTHなどを利用例として想定しています。製品開発に先立ってホストとモジュール間のインターフェース仕様を整備するとともに、CPONを通信業界全体で利用できる技術としてITUに提案しています。
なお、CableLabsが10G-EPONを対象外にしたわけではありません。10G-EPONを含むEPONには、すでにDPoEというマルチベンダー相互運用とDOCSIS方式による設定・管理の枠組みがあります。このため、今回新たに力を入れているのは、相互運用性がまだ十分ではないXGS-PON側です。CableLabsは、既存のDPoEの取り組みに続き、CPMP作業部会でXGS-PONを重点対象とし、将来の25GS-PONなどにも応用できる共通の設定・管理方式を整備しています。
アフリカを起点に世界へ広がる衛星D2D
GSA(Global mobile Suppliers Association)によると、スマートフォンが衛星と直接通信するD2D(端末直接通信)はまだ初期段階にありますが、アフリカでサービス開始の動きが相次ぎ、世界的な商用展開へ進みつつあります。アフリカでは通信事業者と衛星事業者による32件の提携が公表され、既存のモバイル網が届かない地域への通信提供が計画されています。
背景には、農村部や遠隔地が広く、人口密度の低い地域では、基地局や電力、回線を整備・維持するコストが高いという事情があります。このためD2Dは地上のモバイル網を置き換えるのではなく、圏外でのメッセージや低速データ通信などを補完する手段として、活用余地が大きいと考えられます。ただし、端末や通信料金の負担、電力不足といった利用面の問題までは、衛星だけでは解決できません。
世界では123件のD2D提携が公表されていますが、サービス開始済みは23件にとどまり、多くは試験・計画段階です。Starlinkが提携数で先行する一方、通信事業者は複数の衛星会社と組む傾向を強めています。今後の本格普及には、3GPP標準への対応や周波数の共通化を進め、端末や衛星網の違いを越えて利用できる環境を整えることが課題となります。
AT&TとEricsson、5Gネットワークによるドローン検知を実証
AT&TとEricssonは、テキサス州アーリントンのAT&T Stadium周辺で、5Gネットワークを利用してドローンをリアルタイムに検知・測位・追跡する実証を行いました。複数拠点のMassive MIMO無線装置と高度な信号処理、AIを活用したセンシングアルゴリズムを組み合わせ、携帯通信用の電波をドローンのセンシングにも活用しました。専用のセンシング技術を別途導入せず、携帯通信ネットワークを分散型センシング基盤として利用できる可能性を示しています。
FIFAワールドカップの期間中、米国当局は各会場で1500機のドローンを検知し、700機以上を押収しており、両社は今回の技術が既存のドローン検知システムを補完できるとみています。この実証は、6Gの主要機能の一つとされる通信・センシング統合(ISAC)を、5Gで先行的に試す取り組みでもあります。将来はスポーツ会場だけでなく、公共空間や重要インフラ周辺における低高度の脅威の検知・追跡への活用も想定しており、2028年のロサンゼルス五輪で関連技術を実演する可能性も示唆しています。
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。

