スクワットでの股関節前面の詰まりを改善する腸腰筋のリリースと滑走改善 ― Movement Equation #34 ―
前回は、腸腰筋の滑走性が低下すると、股関節前面で詰まり感が生じやすくなる理由について解説しました。
今回は、その腸腰筋の緊張を改善し、本来の滑走性を取り戻すための具体的なアプローチ方法をご紹介します。
小転子付近へのアプローチ
まず行いたいのが、小転子付近に付着する腸腰筋腱へのアプローチです。

腱にはゴルジ腱器官が豊富に存在しており、適切な圧刺激を加えることで筋緊張の低下が期待できます。
大腰筋の近位付着部である腰椎前面へ直接アプローチすることは困難ですが、遠位付着部である小転子付近には比較的安全に介入することができます。
解剖学書では前方から描かれることが多いですが、実際の臨床では後内側からアプローチした方が腱を触知しやすいと感じています。

対象者を背臥位にし、小転子付近で腸腰筋腱を触知します。
腱を確認できたら、その上で軽く腱を横断するように指を動かします。
硬さが感じられる部分を中心に10〜20秒程度行うことで、腸腰筋全体の緊張が大きく低下することを臨床でもよく経験します。
このアプローチを行ったら、一度股関節を曲げて、股関節前面の詰まり感や可動域の変化を確認してみてください。
腸骨筋へのアプローチ
次に腸骨筋をリリースします。
腸骨筋は腸骨窩から起始しているため、対象者を背臥位にし、股関節を軽く屈曲位にします。
股関節を屈曲すると腹壁の緊張が緩み、腸骨窩へ指を入れやすくなります。
腸骨筋の緊張が非常に強い場合は対象者の下肢を自分の大腿部に乗せるようにすると、より緊張を落とすことができます。

その状態で、腸骨窩に沿ってゆっくりと手指で圧を加えていきます。
この方法も非常に有効ですが、圧痛が強く出やすい部位でもあるため、必ず軽い圧から慎重に行ってください。
アプローチ後は、再度股関節を動かし、股関節前面の感覚や可動域の変化を確認しましょう。
鼠径部から腸腰筋へアプローチ
続いて、鼠径部から腸腰筋へアプローチします。
股関節伸展位では腹部や鼠径部の緊張が強くなりやすいため、両膝を立てた股関節屈曲位で行うことをおすすめします。
鼠径部のシワの内側1/3付近に指を当てると、大腿動脈の拍動を感じることができます。
そこから少し外側へ指を移動すると、腸腰筋を触知できます。

細かく触診すると、筋肉が2つに分かれているように感じられると思います。
一般的には、
内側:大腰筋
外側:腸骨筋
として触知できます。
もし腸腰筋が分かりにくい場合は、おおよその位置に指を当てたまま、対象者に踵を数cm浮かせるように軽く股関節を屈曲してもらってください。
腸腰筋が収縮し、位置を確認しやすくなります。
短軸滑走
腸腰筋を触知できたら、短軸滑走を行います。
やり方はこれまでの記事でもご紹介した方法と同じです。
片手の示指・中指を腸腰筋の内側縁に当て、反対の手の示指・中指を外側縁に当てます。

そこから左右交互に圧を加えながら、腸腰筋を内側⇔外側へ滑らせるように動かしていきます。
筋緊張が強い場合は痛みも出やすいため、必ず軽い圧から始めてください。
アプローチ後は、股関節を屈曲して詰まり感が変化しているかを確認してみましょう。
股関節を動かしながら滑走性を改善する
短軸滑走だけでも効果はありますが、さらにおすすめなのが、腸腰筋を触れたまま股関節をゆっくり動かす方法です。
腸腰筋は股関節前面を滑走しながら働く筋肉です。
そのため、筋肉を固定した状態よりも、股関節をゆっくり屈曲・伸展してもらうことで滑走性がさらに改善しやすくなります。
また、軽い内旋・外旋を加えることでも滑走が改善するケースがあります。
さらに、呼吸を組み合わせることでより効果を高めることができます。
以前、横隔膜について解説した記事でもお伝えしたように、横隔膜と大腰筋は筋膜を介して連結しており、機能的にも密接に関係しています。
そのため、息をゆっくり吐くタイミングに合わせて圧を加えることで腹部の力みが抜けやすくなり、大腰筋もリラックスしやすくなります。
腸腰筋は股関節を安定させながら働く筋肉ですが、その機能を十分に発揮するためには、横隔膜も含めた体幹全体が協調して働くことが重要です。
呼吸に合わせながら丁寧にアプローチすることで、より自然な筋緊張の改善が期待できます。
大腰筋近位へのアプローチ
鼠径部で大腰筋を触知できたら、その走行を近位へ辿ることで、より広い範囲へアプローチすることも可能です。
ただし、大腰筋は徐々に深部へ走行していくため、ある程度までしか直接触れることはできません。
また、腹膜や腸管などの軟部組織を介して間接的にアプローチする形になるため、無理に深く押し込む必要はありません。

周囲には重要な組織も存在するため、必ず慎重に行ってください。
まとめ
腸腰筋は深部に存在する筋肉であり、強く押せば緩むというものではありません。
重要なのは、
正確に触診すること
軽い圧で丁寧にアプローチすること
筋肉が本来持っている滑走性を回復させること
です。
前回お伝えしたように、腸腰筋は股関節前面を滑らかに滑走しながら働くことで、股関節を安定させながら屈曲を行います。
そのため、筋肉を緩めるだけでなく、股関節を動かしながら滑走性を改善していくことが、スクワットで生じる股関節前面の詰まり感や股関節屈曲制限の改善につながります。
ただし、これらのアプローチはあくまで**「腸腰筋が正常に働ける状態を作る」**ための準備に過ぎません。
根本的に股関節機能を改善するためには、その後に腸腰筋が正しく収縮・滑走できるように再教育していくことが重要になります。
次回は、そのための具体的なエクササイズについて解説したいと思います。
