スクワットでの股関節前面の詰まりを改善する腸腰筋リリース後の自動運動 ― Movement Equation #35 ―
前回は、腸腰筋の過緊張や癒着に対するアプローチについてご紹介しました。
しかし、リリースだけでは十分ではありません。
リリースした筋肉を「使える筋肉」へと再教育することで、初めて股関節機能の改善につながります。
今回は、そのために重要な腸腰筋リリース後の自動運動について解説します。
リリースだけでは滑走性は十分に改善しません。
リリースしたあとに自動運動を行うことで、筋が周囲組織との間で十分に滑走し、その結果、滑走性はさらに高まり、その状態も維持されやすくなります。
「リリースして終わり」ではなく、「リリースして動かす」。
この流れが非常に重要です。
では、腸腰筋はどのように動かせばよいのでしょうか。
最初に思い浮かぶのは、股関節の屈曲・外旋運動ではないでしょうか。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、ここで少し意識していただきたいのが大腿骨頸部前捻角です。

股関節を内外旋中間位で屈曲するよりも、軽度外転・外旋位で屈曲した方がインピンジメントを起こしにくく、より腸腰筋を活動させやすくなります。
対象者を患側を上にした側臥位とし、
股関節伸展・内転・内旋位

から
股関節屈曲・外転・外旋位

までゆっくり動かすことを繰り返します。
初めは正しい軌道が分からないことが多いため、まずはセラピストが誘導し、動きを理解してもらってから自動運動へ移行します。
十分に動きを習得し、筋力も問題ないと判断したら、軽く抵抗を加えてみましょう。
腸腰筋の収縮が高まり、さらに滑走性の改善が期待できます。
ただし、強い抵抗は不要です。
腸腰筋は大きな出力を発揮する筋ではないため、抵抗が強すぎると大腿直筋による代償が起こりやすくなります。
ここでは、
「体幹に対して下肢を動かす」
という腸腰筋の使い方を行いました。
次は反対に、
「下肢に対して体幹を動かす」
という使い方を行います。
椅子やベッドの端に腰掛け、股関節・膝関節を約90°屈曲します。
頭部前方偏位を修正し、エロンゲーションを行って脊柱を伸展方向へ誘導します。
深層コアの活動が高まった状態でIAPを高め、そのまま骨盤・脊柱のアライメントを保持したまま、ゆっくり骨盤を後傾させていきます。
ここで最も重要なのは、骨盤・脊柱のアライメントを維持したまま動くことです。

深層コアが適切に機能している状態とは、姿勢を崩さずに運動を行える状態です。
実際には、上体が後方へ倒れるにつれて腰椎前弯が強くなったり、逆に腰椎が丸くなったりする代償が非常に多く見られます。
そのため、セラピストは細かく観察するとともに、対象者には常にエロンゲーションを意識してもらいましょう。
この動きでは、腸腰筋は**eccentric contraction(遠心性収縮)**を行います。
腸腰筋は腰椎から小転子へと深部を走行しているため、対象者にとってイメージしにくい筋肉です。

そのため、解剖図を用いて走行を理解してもらい、筋肉をイメージしながら行うことで、動作の精度が高まることも少なくありません。
上体を倒す範囲は、代償が生じない範囲です。
20°程度で止まる人もいれば、45°程度まで可能な人もいます。
重要なのは、可動域の大きさではなく、正しく行える範囲で実施することです。
上体を後方へ倒したら、今度はゆっくりと元の姿勢へ戻ります。
この局面では腸腰筋は**concentric contraction(求心性収縮)**を行います。
腸腰筋は、遠心性収縮と求心性収縮の両方を繰り返すことで、より実際の動作に近い形で機能するようになります。
腸腰筋は非常に深いレベルを走行している筋肉であるため、正しく動作を行っているように見えても上手く機能していないことが多々あります。
まずは正しい姿勢を維持しながら、低負荷で「使う感覚」を獲得することが重要です。
このようにリリース後の自動運動まで正確に行うことで、腸腰筋の滑走性だけでなく筋機能も改善し、スクワットで生じる股関節前面の詰まりの改善や、よりスムーズな股関節屈曲動作につながります。
リリースはゴールではありません。
リリースした筋肉を、正しく機能する筋肉へ再教育すること。
そこまで行って初めて、本当の意味で股関節機能の改善につながると私は考えています。
治療だけで終わるのではなく、「機能を変える」「動きを変える」まで行うこと。
それが、Movement Equationで最も大切にしている考え方です。
次回は、股関節屈曲時の前面の詰まりを引き起こす、見落とされやすい筋肉について解説します。
