日本を発つ前、私は必ずコンビニでおむすびを5つ買う
私は日本を発つ飛行機に乗る前、必ずやることがある。
チェックインを済ませ、手荷物検査に入る前に、空港内のコンビニに寄ることだ。
どのコンビニかはどうでもいい。贅沢は言わない。とにかく一番近いところ。
入店したら、迷わずおむすび売り場へ直行する。
そして必ず、5つ買う。
梅干し、鮭、昆布、ツナマヨ、明太子。
ど定番中のど定番。もちろんお茶も。最近はここに、のど飴をひとつ追加することも多い。
このおむすびは、私にとってのお守りだ。
もう日本を離れなければならない。
機内食に和食は出るけれど、感動するほど美味しいものは、もう私を待っていない。
ドイツに着けば、そこにあるのは「それなりの食事」だけ。
家に帰っても冷蔵庫は空っぽで、結局は買い物に行かなければならない。
言ってしまえば、ドイツに着いた瞬間から、
「食べたくても美味しいものがない」という、半ば強制的なダイエットが始まる。
だからまずは、精神安定のために、おむすびを5つ。
緑茶を開けながら、ひとつずつ、確実に平らげる。
自覚はあまりないのだけれど、私は日本から帰ると、必ず軽い鬱になる。
どんな旅であっても、日本では本当に多くの人が、さりげなく、でも確実に、私に優しくしてくれる。
日本という国そのものが、全体的にとても優しい。
日本人の友人たちと冗談でよく言うのは、
外国人が日本人と付き合うと、高確率で日本を好きになってしまう、という話。
それを私たちは「日本頭巾をかぶせられた」と揶揄して、笑い話にしてきた。
でも実際、自分もそうだ。
日本に行くたび、日本人である私自身が、日本の良さを再発見してしまう。
結果、自分もまた、しっかり日本頭巾をかぶってしまう。
だから私は、日本から帰国すると、最低3日間は“緩衝休暇”を取る。
ひとつは、時差ボケを直すため。
ひとつは、ドイツの食事に体を慣らすため。
そしてもうひとつは、ジャパンロスという軽いうつから、自分を取り戻すため。
3日経って、ようやく「まあ、これが現実だよね」と受け入れられるようになり、
職場に行ける精神状態に戻る。
今回、羽田発ということで、私がとても楽しみにしていたのが温泉だった。
実は2年前、日本での最後の宿泊を、温泉のある空港ホテルにしたことがある。
当時の目的は正直に言えば別にあったのだけれど、その目論見は見事に外れた。
ただ、その代わりに手に入れたのが、羽田の温泉体験だった。
無料チケットで入れる時間制限付きではあったけれど、
お湯は素晴らしく、漢方の香りがするミストサウナがとても気持ちよかった。
その記憶が忘れられず、今回は「温泉だけを純粋に楽しむ」と決めて、
チェックイン前に向かうことにした。
腹ごしらえをしてから、ホテル方面へ。
途中、抹茶専門店で2万円超えの宇治抹茶を見て、
「これ、誰が買うんだろう」と内心つぶやきつつ通過。
温泉は、いわゆる日帰り温泉・健康ランドのような作り。
ロッカーに荷物を預け、手拭いひとつで浴場へ向かう。
羽田地下1500メートルから汲み上げた茶褐色の温泉。
含ヨウ素ナトリウム塩化物強温泉で、薬のような匂いがする。
多摩川の向こうに広がる工業地帯を眺めながら湯に浸かるのは、
これはこれで、なかなか悪くない。
ミストサウナは今回はローズマリー。
香りが充満した空間で、塩を使ったマッサージもできる。
ドライサウナでは、正時ごとにお茶でロウリュ。
派手さはないけれど、丁寧で、好感の持てるサービスだった。
炭酸風呂が特に気に入り、気づけば何度も出たり入ったりしていた。
4800円。決して安くはない。
でも、日本を最後に味わってからフライトに臨みたい人には、十分すぎる価値があると思う。
おむすび5個と、羽田の温泉。
これが、私が日本を離れる前に心を整える方法だ。
追記
同じように、日本から帰ったあとに
理由もなく気持ちが落ち込んだり、
現実に戻るのがしんどくなる人、いますか。
もし自分なりの「帰国前の儀式」や
心を切り替える方法があったら、ぜひ教えてほしいです。

