選んだつもりで、選ばされていたーカルト支配・私が私でなくなるまでー(20)
束の間の春
統一教会に於いては、絶対に許されない三つの罪がある。
一つは“公金横領”。
これは教会のお金を盗むとか、そんな直接的な事でなくとも、献金すべきお金を自分のために使ってしまう事も含まれる。
二つ目は“アベル・カイン”。
アベルからの指示は絶対で、必ず従わなければならない。どんなに理不尽な命令でも、許し難い思いになっても、カインはアベルをメシヤの代身として従順に屈服しなければならない。
そして“アダム・エバ”。
これが一番罪深く、そして乗り越えるのが難しい。
メシヤの選ぶ相手以外に恋愛感情を抱いてはいけない。肉体関係を持ってはいけない。
2人で教会を離れてしまえば、死んだら必ず地獄に落ちるし、生きている間も決して幸せな生活は送れない。
もし誰かに恋愛感情を持ったらすぐにアベルに報告する。
同じ部所のメンバーの場合はどちらかが人事となり、引き離される。
私は胸の中に、桜の花弁ほどの小さな灯を抱いていた。
ーー真田友則
真田が教会の運営する移動販売で寮を訪れるようになってから、私たちは急速に接近した。
「真田さん、時間があればお茶でも飲んで行きませんか?」
「有難うございます。じゃあちょっとだけ」
週に二回、魚介類や食品を販売に来ていた真田とは何故か気が合い、様々な話に花が咲いた。
同い年の彼は教会の中で殆どの年月を行商に費やし、霊感商法などに手を染めていなかったせいか、純粋で裏表がなかった。
私は彼と話す度に、これまで負って来た心の傷が癒やされていく気がした。
そして私は、これが恋だと気付いていた。同時に真田の私への想いも感じていた。
彼が複雑な家庭環境で育ち、辛い、寂しい思いをして来た事を知るにつけ、彼にはこれから幸せになってもらいたい、出来る事なら私が守ってあげたいと思うようになった。
でも本来幸せに出来る相手は私ではない。
これ以上想いを募らせる事は彼を地獄に落とす行為だと、私は常に葛藤し、歯噛みするような苦悩を味わい続けた。
折しもそんな時、三万組の合同結婚式開催の発表があった。
前回の6500組の祝福までには何年も間隔があったのに、今回はたった四年での開催となる。
この開催までの期間も結局は文鮮明の気まぐれによるものだが、内部にいた時には、必ず何らかの意味があると信じていた。
私たちの責任を果たせていないから、自分たちに非があるから祝福がないのだと思い込み、中には出産出来る年齢をはるかに超えてしまった女性もいる。
今回の祝福では、私も候補者になる条件が揃っていた。
真田も同じだった。
私たちは自分の想いを口には出来ない。一言でも発すれば堕落への急坂を転げ落ちてしまうからだ。
自分だけではない。相手に対しても取り返しのつかない罪を犯してしまう。
しかし、祝福へのタイムリミットは刻一刻と迫っている。
三月の麗らかな春の日、真田と私は寮から少し離れた公園にいた。
私たちは菜の花畑の中にあるベンチに座った。
一面の黄色が風に揺れ、眩しいくらいに輝いている。
「暖かいね」
「陽を浴びて、花たちが嬉しそう」
「自然はいいよね。安室さんは植物が好きって言ってたもんね」
春爛漫なのに…
私の心は今にも息の根を止められそうなほど苦しい。
ぽつりぽつりと、たわいのない言葉を交わす。
そして、
「私、祝福は受けない」
沈黙ののち、放ってしまったその言葉は全てを悟り、物語った。
そして四月の初め…
私たちは遂に、それを実行に移した。
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