見出し画像

【東方幻想物語】除夜の戦火 第拾伍話

第拾伍話;一つに束ねられた決意


 


 
最後の試練の場――守矢神社の裏側に繋がる禊ぎの地。
踏みしめた瞬間、空気が変わる。冷たくて、鋭くて、胸の奥がざわりと震えるような、そんな場所。
 
「……ここが、私が強くなる最後の仕上げ……。」
言葉にすると、喉の奥が少しだけ震えた。
けれど、その震えはもう恐れじゃない。


これまで積み重ねてきた全てが、ようやく形になる――そんな予感があった。
「覚悟はできてるんだろ、早苗」
神奈子様が腕を組み、真っ直ぐに私を見る。その目は、これまで以上に厳しい。
 
「最後は容赦しないよ? 本気で来るだろうしね、あの巫女は」
諏訪子様も笑っているけれど、その笑みの奥にあるのは、遠慮のない真剣さだ。
私は深く息を吸い込み、息を整えた。
胸が痛いほど高鳴る。それでも、足は揺らがなかった。
 
「……最後の稽古、お願いします!」
言った瞬間、空気が弾けた。
「行くぞ――早苗っ!」
 
神奈子様の御柱の力が大気を揺らす。
一本一本が巨大な奔流となって私の方へ突き刺さるように迫ってくる。
同時に諏訪子様の「洩矢の水」が地面から湧き、私の足元を絡め取るようにうねった。
容赦なんて、本当に一切ない。
 
「っ……!」
心身呼び覚ませ。
胸の奥にずっと溜めていた、張りつめたような意志を解き放つように。
思い出せ、あの暑い夏に感じた痛みを――

博麗の巫女に向き合うための、最後の一撃になる風じゃなきゃ。
神々の攻撃がぶつかるたび、腕がしびれ、視界が滲む。
息が焼けるほど苦しくなっても、私は退かなかった。
 
「まだだよ、早苗。そんなものじゃ倒せない」
「ほら、もっと見せてみなよ、本当の決意を!」
 
その声が胸に刺さる。
痛いほどに、まっすぐに。
私は風をさらに重ねる。


逃げるための風じゃなく、打ち破るための風を。
――負けられない。
あの日、霊夢さんの前で宣言したあの言葉。
「除夜の鐘までに、必ず勝つ」と誓ったあの日から、ずっと。
 
「うおおおおおっ……!」
自分でも驚くほど声が出た。
身体の奥底から燃えるように湧いてくる力が、風に混ざり、空に走る。
 
御柱の奔流を切り裂き、洩矢の水をはじき飛ばす。
神奈子様の振り下ろす風圧で、砂がふわりと舞い上がる。その一粒一粒が光を受けて、きらきら宙に浮かんでいるように見えた。
諏訪子様の放った跳躍の衝撃で、地面の草がしなり、ざわり、と波のように揺れ広がっていく。
 
そのすべてが私に向かって迫っているはずなのに――
どういうわけか、私は恐くなかった。
胸の奥がじん、と熱くなる。
肺に入る空気が重くて、でもどこか清々しい。
 
「……負けられない」
声には出ていないのに、自分の言葉がはっきり聞こえた気がした。
汗が頬をつたう感覚も、脈打つ心臓の音も、
神々の放つ圧力すら、はっきりと掴める。
 
私は一歩、踏み込んだ。
その一歩が妙に大きく、世界に響くように感じた。
風が衣を引く。


髪がふわりと浮く。
視界の端で二柱の神々の目がわずかに揺れた――驚きとも、期待ともつかない色で。
 
そんな時二柱の視線が、ほんの一瞬だけ揺れた。
そのまなざしが、私の決意を確かめ、支え、そして試そうとしているのが、痛いほどに伝わった。
 
神奈子様の表情が、きりりと引き締まる。
諏訪子様の目が、獲物を見定めるように細められる。
――ここだ。
 
「……本当に、強くなったじゃないか」
神奈子様の小さな呟きが聞こえた。
「これなら……もう十分なはず。胸を張っていいよ、早苗」


諏訪子様が、珍しく柔らかい声で笑った。
その言葉を聞いた瞬間、張りつめていた何かがふっと緩んだ。
肩が熱くて、息が震えて、涙がにじみそうだった。
「……ありがとうございます。でも、ここからです。私は……まだ終わってません」
 
声が掠れても、想いだけははっきりしていた。
最後の修行、ここで終わり。
けれど――博麗霊夢と対峙する、その本番は、これからだ。
 




 
翌日――。
 
私は道場の真ん中に正座し、静かに目を閉じていた。
外はまだ朝の気配が残っているはずなのに、ここだけは時間が止まったみたいに静かだ。

畳に触れている膝の感触も、自分の呼吸の音も、ひとつひとつがゆっくり胸に染みてくる。
昨日の稽古が、まるで何時間も前のことじゃなくて、いま頭の中で鮮明に再生されてくる。


神奈子様の真剣な眼差し。
諏訪子様の細かい癖まで見抜く鋭い動き。
その全部を受けて、私は必死で食らいついた。
 
……でも、そこまでの道のりは、昨日だけじゃない。
あの、夏の、蝉が耳をつんざくみたいに鳴いていた日。
霊夢さんに向かって口にした私は、今思えば少し無謀だったのかもしれない。


「除夜の鐘が鳴るまでに、必ず勝ちます」


あの瞬間の自分が浮かぶ。少し震えてたけど、でも迷いはなかった。
そこからは、一気に駆け抜けるみたいな日々だった。


神奈子様と諏訪子様の稽古。
失敗して悔しくて、でも諦めたくなくて。
実戦訓練で、自分の未熟さに腹が立った日もある。


できなかった技ができるようになった時、胸の奥が熱くなった日もある。
それら全部が、ひとつの線みたいにつながっていく。
私は、果たしてどこまで強くなれたんだろう。


胸の奥で問いかける。
でも、すぐに自分で答えが返ってきた。
 
——強くなったかどうかじゃない。
——強く「なる」って決めて、ここまで来たんだ。
 
静かに息を吸い、吐く。
それだけで、昨日までと少し違う自分がいるような気がした。
 
「いよいよ、ですね。……待っててください、霊夢さん!」
目を閉じたまま小さくつぶやく。
どんな結果でも、逃げる気はもうない。
今までの全部を持って、最後の決闘に挑むだけ。
 
畳に落ちる光が、薄く暖かい。
それはまるで、「行け」と背中を押してくれているみたいだった。
 
 



ご高覧いただきありがとうございました!
良ければスキとフォローをお願いします!
次回 第拾陸話(前編)は、2025年 12月13日(土曜日)投稿予定です!
次回もお楽しみに♬

いいなと思ったら応援しよう!