ミイラ取りはミイラになれ【アマノ文筆クラブ】
若い男が、ムジヒディンの背中を追っていた。
巨石の隙間に設けられた、両手も広げられぬ狭い通路。
十歩の先は、もう松明の光が届かない。完全なる闇である。
そこは、静かで安らかな死者の領域。
ムジヒディンは、そこを自分の家のように慣れた様子で歩いてゆく。
職を失った若い男は、酒場で怪しい仕事を紹介された。
ミイラを取るのだという。それで、紹介されたムジヒディンに従って、ここ、王家の谷までやってきた。
「ミイラというのは、売れるんですか。」
若い男は、ムジヒディンの背中に声をかけた。一定のペースを崩さなかったムジヒディンが、足を止めたのはそのときだ。そして、ゆっくり振り返って言った。
「──売れるとも。東方では薬として珍重されているそうだ。
教えてやろう。ミイラの取りかたをな。
そこの、棺の中を見てみるがいい。」
ムジヒディンが立ち止まった先は、ちょうど玄室になっているのだった。
若い男は、言われるがまま、置かれている棺を覗き込んだ。
たしかに。干からびた死体が中に入っている。
しかしこれは。服装から言ってもずいぶん現代的な──。
……自分と、よく似た背格好の。
後頭部に、鈍い衝撃があったのはそのときだ。
「──こうすると、ミイラを安定して得られるのさ。」
ムジヒディンの呟きは、玄室の闇に溶けていくのだった。
完
参加させていただいたのはこちら。
