AI検索の時代に、プレスリリースだけ出していても届かない理由
1通のメッセージが変えた、私のAIへの向き合い方
昨年、サウジアラビアの巨大国際サミットFII(Future Investment Initiative)の日本初開催の広報を、私たちの会社JAYIDがエクスクルーシブで受注した。
(会社HPでも報告させていただいた。)
「砂漠のダボス」とか、「兆円レベルの投資が決まる国際会議」などとも評されるこの大掛かりなイベントの受注の経緯が、これまでの広報の常識とはまったく違ったことを最初に紹介したい。
突然、FIIのPRチームから直接連絡が来た。
「あなたの会社を含めて3社の中から発注先を決めたい。
提案プレゼンをお願いします。」
超特急でプレゼン資料を作り、予算配分や人のオペレーションまですべて組んで提案。
その時、気になっていたことを思い切ってFIIのPR担当者に聞いた。
「どうやって私の会社を見つけたんですか?」
すると答えはこうだった。
「AIに『バイリンガルで、グローバル広報に実績のある日本のPRエージェンシーを教えて』と聞いたら、3社の中にJAYIDが出てきたんだよ」
正直、かなり驚いた。
私たちは広告を出していない。大手エージェンシーのような知名度もない。それでも、AIが私たちを「推薦」した。広告でもメディア掲載でもなく、紹介でもなく、AIで社名が挙がった。
この経験が、私の中でこれまでのPRに対する考え方を大きく揺さぶった。
「プレスリリース」はまだ価値があるのか
広報の仕事をしていると、プレスリリースを出した後の反応で一喜一憂することは日常だ。(もちろん私もそう)
もちろん、PR Timesなどの配信サービスには価値がある。提携先メディアに転載されるし、記者の目に留まるきっかけにもなる可能性がある。
ただ正直に言えば、リリースを出してPR Times提携メディアに転載されただけでは、営業面では「かすりもしなかった」ということが圧倒的に多い。
一方で、こんなことも起きる。
リリースを見つけた誰かが一言ツイートしてくれたことをきっかけに、大きなうねりのような社会変化が起こる。
時間差で別の文脈で引用され、メディアが連鎖的に報道し、瞬く間にトップブランドの仲間入りをする。
つまり、プレスリリース自体の効果が消えたわけではない。ただ、リリース単体で完結する時代は確実に終焉を迎えている。
リリースが「起点」になり、そこから誰かの言葉で語り直され、別の文脈に乗って初めて届く、という構造に変わってきている。
AI検索が変えたのは「発見のされ方」
ここからが、私が今一番考えていることだ。
ChatGPT、Gemini、Perplexity、Grok、Claude、GoogleのAI Overview。こうしたAI検索ツールを使って情報を探す人が急速に増えている。そしてAI検索は、従来の検索とはまったく違うロジックで情報を選んでいる。
従来のGoogle検索は、基本的にリンクの一覧を返す。ユーザーが自分でクリックして、自分で判断する。
AI検索は違う。質問に対して「答え」を返す。そしてその答えの中で、情報源として引用する記事やサイトを選ぶ。ここに選ばれるかどうかが、これからの「発見されるか、発見されないか」を分ける。
では、AIはどんなコンテンツを引用するのか。
いくつかの調査データを見ると、興味深い傾向がある。
プレスリリースがAI検索に引用される確率は0.04%程度というデータがある。ほぼゼロだ。
一方で、専門家の見解やオリジナルの分析を含む記事は引用率が格段に高い。
これはなぜかというと、AIは「この質問に対して最も信頼できる答えを持っている情報源はどこか」を判断しようとしているからだ。プレスリリースは「企業が言いたいこと」であって「質問への答え」ではない。だから選ばれにくい。
「誰に引用されるか」の競争が始まっている
ここで忘れてはならない重要なことは、この変化が「そろそろやって来る未来」ではなく、「もう起きている」ということだ。
私たちがFIIから連絡をもらった時、AIが参照したのは私たちのプレスリリースではなかった。おそらく、私たちのHPにおける実績やメディア掲載、Linkedinでの発信、Substackでの発信、そしてそのほか多くのウェブ上に散らばる情報の総体を見て判断したのだと思う(正確なロジックはAI側にしかわからないが)。
これは裏を返せば、プレスリリースだけを粛々と出し続けている企業は、AI検索の世界では「存在しない」に等しい状態になりかねないということだ。
メディアの記者に向けたリリースは今後も必要だ。それは変わらない。ただ、AI検索を通じてブランドを「発見」してもらうためには、リリースとはまったく別のコンテンツが必要になっている。
自社の専門領域について、独自の見解を持ち、それを継続的に発信しているかどうか。そこに「この領域はこの会社(この人)に聞けばいい」という信頼のシグナルが蓄積されているかどうか。
AIが見ているのは、そこだ。
ただし、まだ正解は誰もわかっていない
ここまで書いておいてこう言うのもなんだが、「じゃあ具体的に何をすればAIに引用されるのか」に対する確実な答えは、正直まだ誰も持っていないと思う。
AI検索のアルゴリズムは日々変わっている。今日効果があることが来月も効果があるとは限らない。この分野で「完全な正解」を語っている人がいたら、少し疑ってかかった方がいい(私も含めて)。
ただ、方向性として確信を持っていることはある。
プレスリリースだけでは不十分になった。企業もPRパーソンも、自分たちの専門性や洞察を自分の言葉で発信する場を持つ必要がある。それがnoteなのか、LinkedInなのか、ポッドキャストなのか、Substackなのか、自社ブログなのかは、ターゲットと市場によって異なる。
そして、これは日本で事業をしている海外企業にとって、二重のハードルになる。英語での発信と日本語での発信、両方が求められる。しかも直訳では機能しない。それぞれの言語圏のAIが、それぞれの文脈で「信頼できる情報源」として選ぶコンテンツは、構造から違う。
広報は「記事を出す仕事」から「信頼を蓄積する仕事」へ
冒頭のFIIの話に戻る。
あの案件で私たちが学んだのは、PRの成果が「メディアに載ったかどうか」だけでは測れなくなっているということだ。
メディアに載ることの価値は変わらない。日経やNHKに取り上げられることは、日本市場における信頼構築の王道であり続ける。
ただ、それと同時に、AIの世界でどう認識されているかという新しいレイヤーが加わった。そしてこの二つは、排他的ではなく、相互に強化し合う関係にある。良質なメディア掲載は、AIが参照する情報源にもなる。独自のコンテンツ発信は、記者が取材先を探す時の手がかりにもなる。
広報の仕事は、「記事を出す」から「あらゆる接点で信頼を蓄積する」に拡張されつつある。
私自身、これにどう対応すべきか、まだ試行錯誤の最中にいる。ただ、少なくとも「プレスリリースを出しておけば大丈夫」という時代が終わりつつあることだけは、現場にいる人間として確信を持って言える。
この変化について、これからもこのシリーズで掘り下げていきたい。
