何故人々はマスクを外さないのか①外すためには何が必要なのか
日本心理学会が発行している「心理学研究」という雑誌がある。「心理学研究」は太っ腹なことに、非学会員に対してもネットで全文公開している(医学系学会も見習ってほしいところだ・・・)。2021年12月25日より公開されている92巻第5号は、コロナ対策禍が及ぼす心理的影響について特集されており、興味をそそられた。
この中で、宮崎 由樹らによる「社交不安・特性不安・感染脆弱意識が衛生マスク着用頻度に及ぼす影響」という論文が表題について考えるヒントを与えてくれた。以下に、勝手に要約させていただき、私の感想を付けた。なお、要約は「引用」として提示した。
「前提と目的」の要約
・日本社会における日常的なマスク着用習慣はCOVID-19以前から存在していた。風邪予防、花粉症対策のみならず、保湿・ファッション・化粧をしていない顔を隠す・表情を隠し対話中の安心感を得る・社交不安による赤面や発汗を隠す、など。
・口周りの情報は表情判断に有効な手がかりになることが既に報告されている。また、マスク非着用顔に比べて、着用顔の人物同定は困難であること、発話音声が劣化することも既報告にある。つまり、マスクの着用は対面コミュニケーション時の言語的・非言語的情報の双方を損なう。
・しかし、もともと日常的なマスク着用は日本を含めた東アジアに特有の習慣であった。ゆえにマスク着用行動の心理的基盤について検証した先行研究は極めて少ない。
その上で、
本研究の目的は、社交不安(他者に見られる不安、対人交流不安)、特性不安、および感染脆弱意識(易感染性、感染嫌悪)が日本人の日常でのマスク着用頻度に及ぼす影響について検討することである。
特性不安とは、「個人の性格などに由来する、不安になりやすい傾向がある性質」のこと。また、ここでいう易感染性とは「感染しやすさへの自己認知」であり、医学的な易感染性とは異なる。感染嫌悪は「衛生的ではない物体への接触など、病原体が付着する状況に対する嫌悪感」のことである。
「方法」の要約
参加者はクラウドソーシングの登録者6742名(女性3032名、男性3703名)。
他者に見られる不安と対人交流不安については2019年2月末、8月末、2020年9月初旬、12月初旬に、特性不安と感染脆弱意識については2018年8月末、11月末、2020年2月末、8月末、12月初旬に調査を実施。各調査で参加者の重複はなかった。
COVID19以前と以後、および夏季と冬季で比較できるようにデザインされている。
「結果と考察」の要約
全文無料公開されている論文なので、数値は省かせていただき、結論だけ要約した。
総合的には、COVID19以前は季節に応じたマスク着用率の変化が見られたが、以後は季節に関係なく着用率は高かった。
これは当然の結果だろう。
① マスク着用と社交不安
・他者に見られる不安については、COVID19以前は、季節によらず、同不安が強い人ほど着用頻度も高かった。しかし、以後では相関関係は認められなかった。
・対人交流不安はCOVID19や季節によらず、相関はなかった。
この結果について、以下のように考察されている。
・COVID19以前の傾向に関しては、マスク着用による匿名性の高まりによる見られる不安の軽減が、着用動機になっていたのかもしれない。マスク着用が安全確保行動となってしまっている可能性もある。
・一方、その傾向がCOVID19以後に消失した。全体のマスク着用率が大きく増加したこと、およびマスク着用動機が他者への同調に変化したことにより、見られる不安とマスク着用頻度の関連が希釈されてしまったのかもしれない。ゆえに着用率や着用動機が以前と同様に戻った際には、再び見られる不安と着用頻度に相関がみられるようになるだろう。
この結果と考察から私が危惧することは、後日改めてまとめる予定だが、以下に概要だけ示しておく。
社会活動の遂行は問題なく可能なレベルの、軽度の社交不安を抱えていた人々がマスクが半強制されたことで日常的に装着し続けた結果、マスク着用が「社交における不安を軽減する」効果があることに気づいてしまったのではないか?既にマスク半強制は2年という長期間にわたっている。その間に、彼らにとってマスク着用が安全確保行動に変化してしまっているかもしれない。もしそうなら、簡単に外すことはできないだろう。
若年者には軽度の社交不安を抱えている人が多いだろうし、中年以上の世代にも一定数存在しているだろう。
結局、特に若年者において、相当数がマスクを着用し続ける状況が継続してしまうのではないか?
それを防ぐためには、健康面の問題や「マスクの着用は対面コミュニケーション時の言語的・非言語的情報の双方を損なう」という点などの、マスク装着によるデメリットが今以上に強調され、彼らに「外した方がいいのかもしれない」と考えてもらうしかないだろう。
②マスク着用と特性不安
COVID19以前では関連は認められなかった。以後では2回(2020年2月末と12月末)で特性不安と着用頻度が相関していたが、他項目とは異なり、「特性不安が高い者ほど着用頻度も低い」、という結果だった。
この点に関しては
特性不安の高い者ほど着用頻度が低いことに関しては、不安の強い者ほど外出頻度が低かったのかもしれない。
と考察されている。確かに、一人で引きこもっていたらマスクを着ける必要もない。
③感染脆弱意識とマスク着用
易感染性については、COVID19以前及び流行開始直後(2020年2月)には着用頻度との相関が見られたが、以後では見られなくなった。
これに関しては
易感染性とマスク着用の関連がCOVID19以後に認められなくなったのは、COVID19に対するリスク認知が風邪やインフルエンザに対するものと大きく異なるものに変化したため、通常の尺度では易感染性を測定できなくなったことが影響していると思われる。
つまり、インフォデミックによりCOVID19が今までの風邪と比べ物にならないレベルに恐ろしいもの、という恐怖感が一般化してしまっていたため、通常の尺度の想定を超えてしまった。という事だ。易感染性は想定外に強化されてしまったのだ。これを是正するためには、COVID19に対する認識を正すことはもちろんだが、ヒトが持つ免疫系の働きを知ることも重要かもしれない。なかなか難しそうだが。
感染嫌悪については、2020年夏以外は、着用頻度と相関していた。
これに関しては
感染嫌悪とマスク着用頻度の相関が強いのは、感染嫌悪と感染予防行動(人混みでのマスク着用など)に対する態度との相関が強いという最近の別の報告とも一致する。また、強迫的な汚染恐怖と感染嫌悪との間に高い相関がある、との既報告もある。
まあ、当たり前といえば当たり前の結果ではある。
前述したように、感染嫌悪とは「衛生的ではない物体への接触など、病原体が付着する状況に対する嫌悪感」のことだった。つまり、マスク着用が感染嫌悪を軽減させるということは、自分が吸い込む空気が病原体で汚染されていると考えているからだろう。これは、空気感染が主感染経路であるという説が有力であることに起因していると考える。抗菌除菌を過剰に重視する等の、日本人が以前から持っている「清潔志向の(強迫的な)強さ」も影響しているのだろうが、これは国民性だからどうしようもない。となると、主感染経路について再考するしかない。
はっきり言うと、空気感染説を覆すことができれば、それはマスク着用頻度低下に大きな意味を持つだろう。逆に言えば、空気感染説を否定しない限りマスク着用頻度は低下しない、と言っていいと思う。所詮仮説にすぎないのだから、いくら専門家が空気感染説を主張しようが、個々人がそれを否定できればいいのだ。
最も、空気感染を過剰に恐れるということは、個人的には非常にバランスの悪い態度だと思っている。なぜなら、空気感染の代表格である「結核」の感染者は今でも(特に都市部に)多いのに、多くの国民はほとんど関心を持たずに過ごしていたし、それで何の問題もなかったのだから。でも、一般的には、この感覚は共有され得ないものなのだろう。
④恥とマスク着用
我々が恥(shame)を意識するとき、主に顔面の身体能力の高まりを感じる、との既報告がある。また、恥(embarrassment)を喚起すると、顔を隠すことへの動機付けが高まり、サングラスに対する好ましさや購入意欲が高まる、との既報告も存在する。以上より、今回検討されなかった他の要因として、恥(shame/embarrassment)を感じやすいパーソナリティかどうか、が考えられる。
「恥」がマスク着用の動機付けに大きく関与しているとすれば、日本人がマスク着用に抵抗がない理由になり得るだろう。最も、これはパーソナリティや国民性の問題だから、どうしようもないだろう。
まとめ:人々がマスクを外す気になるためには
①継続的なマスク装着によるデメリットが小さくないことを知る。
②COVID19に対する認識を正し、自身の持つ免疫系の働きを知る。
③空気感染説を否定的に疑う。
この3点が必要、ということになった。当たり前やん、ダラダラ考えなくてもこれぐらいわかるやろ、という声が聞こえてきそうだ。
先述のとおり、①については後日、もう少し詰めて考えてみる予定だ。
