第2回「「肩こりかな」と思っていたら、肺が萎んでいた——気胸の基礎知識」
夜、家でリラックスしていたときのことです。ふと咳をした瞬間、胸の奥でヒュッと風が通るような不思議な感覚がありました。右胸に軽い違和感と痛み、背中に肩こりのような重さ。
「これは何科に行けばいいんだろう?」と思いながら症状を検索し始めると、肋間神経痛・心筋梗塞・大動脈解離・肺塞栓症……と物騒な病名が並びました。循環器?内科?呼吸器?と迷いながら読み進めるうちに「もしかして気胸?」という予感がしてきました。でもその夜は症状が軽かったのでやり過ごしました。
翌朝、支度を終えて家を出てマンションの階段を降りかけたとき、胸に強いズキズキした痛みが走りました。これは病院に行くべきだ——そう判断して仕事を休み、呼吸器内科も対応できるかかりつけの内科クリニックへ。レントゲンを撮ると、肺が萎んでいました。
「肩こりかな、と思っていたら気胸でした」——これが私の最初の気胸との出会いです。
気胸とは何か
自然気胸は、肺にできた肺嚢胞(ブラとも呼ばれる、空気のたまった袋状のもの)が破れて肺の表面に穴が開き、漏れた空気が肺の外側の空間(胸膜腔)にたまることで起こります。空気がたまると胸の内圧が上がり、息を吸っても肺がうまく広がらなくなります。(※1)
肺嚢胞(ブラ・ブレブ)とは、肺表面の一部が泡や風船のように膨れた状態のことで、肺の頂部(肺尖部)にできやすいとされています。(※2)
気胸の症状——「息ができない」だけじゃない
気胸というと「急に息ができなくなる」イメージがあるかもしれませんが、実際はもう少し複雑です。症状の強さは肺がしぼんでいる程度や人によって様々です。(※3)
私の経験では、軽度のときは軽い胸痛と背中の重だるさだけで息苦しさを感じることもなく、普通に動けました。中等度〜高度になると様相が変わります。安静にしているときは普通に呼吸できているように感じるのに、少し歩くだけで胸がズキズキと痛み、老人のようにゆっくりとしか動けなくなる。かがむと肺のあたりでぽこぽこと空気が漏れるような感覚があり、しゃべろうとすると「エヘンエヘン」とむせ込んで会話もままならない——そんな状態でした。
胸が痛いとき「何科に行けばいいんだろう」と迷う方も多いと思います。気胸は呼吸器の病気なので呼吸器内科を受診するのが基本です。一般的にかかりつけ医でレントゲンを撮ってもらい、呼吸器専門医を紹介してもらう流れがスムーズなようですが、私も実際にその流れでした。(※2)
気胸の種類——2タイプある
明らかな原因なく発症する「原発性自然気胸」と、呼吸器疾患を背景に発症する「続発性自然気胸」があります。その他、LAM・BHD症候群などの希少疾患に伴って発生する場合もあります。 (※4)
原発性自然気胸
基礎疾患のない人に突然起こるタイプで、20歳前後のやせ型で長身の男性に好発します。(※4)
多くは単発で起こりますが、再発することもあります。「気胸は若い痩せ型の男性に多い」と言われるのはこのタイプです。
続発性自然気胸
COPDや間質性肺炎などの呼吸器疾患を背景として発症し、繰り返すことが多く、治療も難しい場合があります。(※4)
BHD症候群による気胸はこちらに分類されます。「体質だから」と片付けられがちな繰り返す気胸に、こうした背景が隠れていることがあります。
ストレスとの関係
ブラがなぜそのタイミングで破れるのかは、現代の医療でもはっきりとはわかっていません。ただ、ストレスとの関係を指摘する声はあります。気胸になる前の経緯を振り返ると、睡眠不足だった、食事が不規則だった、肉体的・精神的に疲弊していたという話がよく出てくるそうです。(※5)
私自身も、最初に気胸を発症する直前に、泣いてのたうち回るほどの激痛で夜中に救急外来を受診するほどのストレスがかかる出来事がありました。そのことが引き金になったのではないかと、今も思っています。
気胸の重症度——軽度・中等度・高度
気胸の重症度はレントゲン写真での肺のしぼみ具合で判断されます。日本では肺の頂部(肺尖部)と鎖骨の位置関係で3段階に分類されます。(※3, ※6)

(グレー部分は肺から胸腔に漏れ出た空気のイメージ)
【軽度】
肺尖部が鎖骨より上にある状態。
少ししぼんでいる程度で、経過観察で回復することも。
【中等度】
肺尖部が鎖骨よりも低い状態。軽度と高度の中間程度。
ドレナージを検討。
【高度】
肺が半分以下にしぼんでいる状態。
ドレナージが必須。
治療法——段階によって選択肢が変わる
① 経過観察(軽度の場合)
安静にして自然回復を待ちます。担当医からは「肺に空いた穴がかさぶたのように自然に塞がるのを待つイメージ」と説明されました。これが一番わかりやすかったです。肺から胸腔内に漏れた空気は時間と共にゆっくりと吸収されていくそうです。
② 脱気(軽度〜中等度)
穴が自然に塞がるまでの間、たまった空気を外に逃がして肺を膨らませる処置です。私の最初の気胸はしぼみ具合が比較的軽かったため、胸腔ドレーンではなく、脇の下の肋骨の間から注射針を刺して空気を抜く簡易的な脱気処置を受けました。これも選択肢のひとつです。
(※脱気処置の方法は気胸の程度や医師の判断により異なります)
③ 胸腔ドレナージ(中等度〜高度)
局所麻酔下で胸の中にドレーンという管を入れて、たまった空気を体の外に排出する治療です。(※3)
気胸では漏れた空気が胸腔内にたまって陽圧になり、肺が外側から押しつぶされている状態です。ドレーンで空気を排出して胸腔内を陰圧に戻すことで、押しつぶされていた肺が自然と膨らんでくるという仕組みです。
管が入っている間の感覚、抜くときの感覚
——これは経験した人にしかわからないものがあります。
④ 手術
空気漏れがなかなか止まらない場合、2回以上再発している場合、または再発をなるべく避けたい場合に手術が選択されます。(※3)
一般的には胸腔鏡を使ってブラを切除する手術が行われます。
ただし、肺嚢胞が多数ある場合など、一般的なブラ切除では解決しないケースもあります。また、治療法の選択については担当医によって提案内容が異なる場合があり、中には術後トラブルにつながるリスクが指摘されている方法を勧められるケースも存在するようです。特に肺嚢胞が多数あって手術を検討している場合は、気胸治療の経験が豊富な医師への相談をおすすめします。詳しくは今後の記事で書きます。
再発について
再発率は30〜50%とされており、一度再発すると再々発の可能性はさらに高まります。(※3)
「また起きるかも」という不安は、残念ながら根拠のある不安です。繰り返す気胸への向き合い方については、今後の記事で書いていきます。
次回
次の記事では「繰り返す気胸と肺嚢胞——希少疾患が隠れているかもしれない話」を書きます。
最後に
この記事はあくまで当事者として調べた内容と個人の経験のシェアです。同じ病気でも症状や経過には個人差があります。気になることは必ず担当医にご確認ください。
参考文献
※1「G-04 気胸」一般社団法人 日本呼吸器学会 https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/g/g-04.html
※2「気胸(ききょう)とは」社会福祉法人 恩賜財団 済生会https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/pneumothorax/
※3「自然気胸」KOMPAS 慶應義塾大学病院https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000257/
※4「呼吸器内科|希少肺疾患や自然気胸」順天堂大学医学部附属順天堂医院https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/kokyukinaika/disease/lam.html
※5「受験生と自然気胸について①」日産厚生会玉川病院 気胸研究センター https://www.tokyo-hospital.com/archives/29274/
※6「気胸」慶應義塾大学医学部呼吸器外科 https://keiothorac.umin.jp/patient/guide/diseases05.html
