デンマークの外国語教育とその必要性―移民との共生の視点から―【第五章:アンケート調査結果と考察】
北欧研究所の石本です。私は、2023年6月から2024年6月までの北欧研究所でのインターンシップ期間に、個人研究論文を執筆いたしました。章ごとにnoteの記事を分けており、本記事は、「第五章:アンケート調査結果と考察」となります。尚、その他の章は記事の最後に記載のリンクよりご覧いただくことができます。最後まで、ご一読いただければ幸いです。
文責:石本千智
5. アンケート調査結果と考察
5.1 回答者背景
本アンケートの回答者の背景に関して、デンマークを含めた23か国の出身者からの回答を得た。言語に関する調査の際、様々な背景を持つ者からの回答を収集することは重要であるのだが、その理由は、外国語学習には偏りがあり、既に習得している言語と同じルーツの言語であれば、個人にとってその新しい言語を学ぶことは比較的容易であるからだ。また、移住先と生活様式が似ている国の出身者は、移住先での生活に適応しやすいといった点も考慮する必要がある。こういった点を考慮し、本アンケートでは、回答者の出身国はヨーロッパ諸国のみならず、インドネシア、イラン、アメリカ、南アフリカ、ロシア、アルゼンチンなど、様々な大陸に属する国の出身者となった。

移民のみからの回答結果を集計すると、第一に、デンマークでの居住期間を問う質問では、移民の52.4%が1年〜3年間デンマークに住んでいると回答し、最も多い層となった。二番目に多かった回答は5年以上滞在で、移民全体の19%となった。したがって、移民の83%が1年以上滞在の中長期滞在移民で、1年未満の短期滞在移民からの回答は17%と比較的少なかった。第二に、移民がデンマークに移住した理由は、移民の47.62%が仕事と回答し最も多く、教育が二番目で、移民回答者の42.86%となった。第三に、出身国とデンマーク以外の国にも居住したことがあると回答した移民は、全体の54.8%に上った。

対して、デンマーク国民の回答結果は以下の通りである。まず、デンマーク国民のうち、87.5%は人生のほとんどをデンマークで過ごし、全体の62.5%はデンマーク以外の国にも居住した経験があると回答した。更に、デンマーク国外へ出たことのないデンマーク人は全体の12.5%となった。

5.2 語学能力と学習方法
まず、デンマークでの移民と現地人のリングワフランカとなっている英語の能力レベルについて尋ねたところ、回答者全体の96%が日常会話レベルの英語ができる(CEFRのB2~C2レベル)と回答した。移民のみの回答を注視した場合、95.2%が日常会話レベルの英語ができると回答したのに対し、デンマーク国民のみの回答を見ると、全員が日常会話レベルの英語ができると回答した結果となった。

更に、デンマークに居住する移民に対し、デンマーク語能力について質問をしたところ、僅か24.4%が日常会話レベルのデンマーク語ができると回答した。約半数である48.78%はCEFRの最低レベルであるA1以下のデンマーク語能力を有していると回答し、これは「身近な日常表現や、具体的なニーズを満たすためのごく基本的なフレーズを理解し、使用できる」程度のレベルである(British Council, 2024)。

また、何らかの形でデンマーク語の学習経験があると回答した移民は、全体の88.1%であった。具体的な学習方法として最も回答数が多かったのが「語学学校やクラスの受講」(89.2%が回答)、第二位が「デンマーク人との会話練習」(35.1%が回答)、第三位が「オンライン教材」(32.4%が回答)であった。オンライン教材としては、総合的な言語学習アプリ「Duolingo」を特記する者も見られた。インフォーマルな外国語学習方法として、近年はテクノロジーの発達に伴い、語学学習アプリの開発が革新的に進んでいる。Duolingoは、そういった近代的アプリの一つであり、2012年に設立された後、言語教育に対する革新的なアプローチとして世界的にすぐに認知された。Duolingoの公式ページでは、「学びたい人にとって、経済的資源に関係なく、どこにいても楽しく、効果的な学習ができるよう誰でも新しい言語を学習できるプラットフォームを作成することを目的としてアプリを開発した」と公開されている(Duolingo investor relations, n.d.)。また、2023年第4四半期、Duolingoは前年の同時期と比較して、デイリーアクティブユーザー数(DAU)が65%増加し、売上高が45%増加した(Q4FY23 Press Release, 2024)。更に、同社はこの期間に記録的な収益性を達成しており(Q4FY23 Press Release, 2024)、こういったインフォーマルな学習方法が世間から注目を浴びているのは明らかである。本アンケートでは、語学学校や正規の教育が外国語学習方法の大半を占めている回答結果には変わりはないが、確実に、現代社会における外国語学習のあり方は変化している。本アンケート調査で移民の32.43%言語学習方法としてオンライン教材を利用しているように、将来的には、Duolingoのようなアプリを使った語学学習が、従来の対面授業や実践的な学習方法を凌駕する、主要な語学学習方法になる可能性があることを、私たちは念頭に置いておくべきだろう。

5.3 職場で使用される言語
2023年の出入国在留管理庁による調査にて、日本人から外国人に対する偏見や差別は職探しの際に最も多く発生し、日本人が外国人労働者に求めるものとしては日本語能力が最も多い回答結果であったことは序論で述べた。このように、日本で外国人移民が職を求める際には日本語能力が強く求められる一方で、デンマークのアンケート調査では異なる結果となった。現在デンマークで仕事をしている者に、職場での使用言語について質問をしたところ、回答者全体の32.6%がデンマーク語を使用し、88.4%が英語やその他の言語を使用していると回答した(グラフ6)。そのうち、移民のみの回答を見た場合、僅か22.2%の移住労働者が職場でデンマーク語を使用し、97.2%と大多数が英語やその他現地語以外の言語を使用していると回答した(グラフ7)。更に、デンマーク国民のみの回答を見た場合、職場でデンマーク語を使用すると回答したデンマーク人は85.7%であり、母語であるデンマーク語を職場で使用しないデンマーク人が一定数いることが分かった(グラフ8)。またデンマーク語以外の言語を職場で使用すると回答したデンマーク人の割合は、57.1%であった(グラフ8)。



更に、移民を対象に、デンマークの職場で使用したい言語を尋ねたところ、15.38%の移民がデンマーク語を使用したいと回答し、84.62%もの移民が英語やその他の言語を職場で使用することを希望すると回答した(グラフ9)。2.2節でも述べたように、デンマークの労働市場では、英語を「受け入れる」意欲が「グローバルな考え方」の指標として見られるようになっているだけでなく、この意欲が企業への忠誠心を示す指標にもなっている。また、デンマーク人の英語能力の高さからデンマーク人と移民のリングワ・フランカが英語であることが暗黙にも確立しつつあり、本アンケート結果からは、デンマークにおいてデンマーク語を使用しなくとも仕事ができるだろうという移民側の大きな期待も垣間見られる。

5.4 語学能力と移民への待遇の相関関係
言語能力と移民の待遇や位置づけの関係性に関して、回答者全員に以下の三つの質問をした。第一に、「言語力が問題で不平等な扱いを受けた経験がある、又は見たり聞いたりしたことがあるか」の質問をし、回答者全体の36%が「ある」と回答した(グラフ10)。

移民の不平等な待遇経験として挙げられた具体的な回答は、以下の通りである(回答は全て、筆者によって英語から日本語に翻訳されている。なお、語学力が問題とはなっていない、質問とは関係のない待遇経験を綴った回答も多く、これらは省略した。):
公式文書やウェブサイト上で、デンマーク語のみでより詳細な情報が提供されることが多い。これは、外国人が申請する際に重要な情報である場合にも見られる。
大学の講義で、クラスメイトが休み時間にデンマーク語で話していると、疎外感を感じる。
差別とは言わないが、学校でデンマーク語話者の学生と一緒にグループワークのプロジェクトを進めるとき、デンマーク語がわからないメンバーがいることを知りながら、デンマーク語だけで会議を進めることで、意図せず英語話者の学生を排除してしまう場合がある。
一般的に、(デンマーク語能力がない場合に)仕事を見つけるのはかなり難しい。
デンマーク語が流暢に話せなかったので、ファーストフード店のキッチンアシスタントの仕事を断られたことがある。
デンマーク語ができないことを理由に就職を断られた。
非常に強い国家主義者で、英語で答えようとはしない多くのデンマーク人に会ったことがある。
デンマーク語でのみ会議が開かれる。
デンマーク人にとってデンマーク語で話す方が簡単であるため、(仕事で)すべての会議には招待されない。
説明するのは難しいが、もちろんデンマーク語を話す人の方がデンマークで仕事を見つけるチャンスは多い。それは合理的なことだから、「不平等 」であるかどうかはわからない。
デンマーク人は苛立って、デンマーク語で人種差別的な言葉を口にした。その時、私と一緒にデンマーク人の友人がいたため、そうであったと知った。
デンマークでの新生活が始まった頃、レストランで働いていたのだが、何人かのデンマーク人(おそらくコペンハーゲン外から来た人たち)は、その頃私がデンマーク語をまったく話せなかったことが気に入らなかったようだった。そのため彼らは他の言語で話すことを拒否した。
(デンマーク語の)文脈を理解することは難しい。誤解は容易に起こりうる。
デンマークは外国企業や外国人材をデンマークに誘致したいと言っているにもかかわらず、
政府、銀行、保険などからのすべての公式文書がデンマーク語である(最悪なのは、グーグル翻訳に簡単に通すことができない電子書籍のPDFである)。
他のEU諸国と比較して、永住権や市民権に必要なデンマーク語の流暢さのレベルが高い。
職場の公用語(私はデンマークにおいてアメリカ系テクノロジー企業で働いている)は英語だが、グーグル文書でデンマーク語のコメントを使ったり、デンマーク語でメールを送ってきたりする人がいる。私が密接に仕事をする必要がある何人かの人は、デンマーク人でない私が議論に加わる価値が何もないと思い込んで、意見を共有しなかったり、戦略議論に私を参加させなかったりする(私は国際的な経験が豊富であるにもかかわらずこのようなことが起きている)。
ネットワーク構築:デンマークの業界団体はデンマーク人だけのものであることが多く、外国人を統合したり、統合しようと試みたりすることはあまりない。
明らかにデンマーク語能力のない人々の前でデンマーク語を話すデンマーク人がいる。彼らは、デンマークにいるのだから皆がデンマーク語を理解してくれるだろうと期待している態度である。
英語を使用する仕事でもデンマーク語を話すことを要求される。
第二の質問では、「デンマーク語を話すことは、デンマークで歓迎されていると感じるために重要である」という考えに対し、賛同程度を尋ねた。結果、全体の60%が「強くそう思う」又は「そう思う」と回答し、「そう思わない」の回答は全体の14%で、「強くそう思わない」を選択した者はいなかった(グラフ11)。

「強くそう思う」又は「そう思う」を選択した理由として、以下のような回答があった:
ジョークはデンマーク語だから。
デンマークで最高の生活を送るための個人的な考え方である。
デンマークに溶け込むためには、どの国であろうと、その国の言葉を学ぶことが重要だ。
その国の言葉を話している方が、溶け込む努力をしていると思われると思う。また、相手にとってもコミュニケーションが取りやすくなるので、話しかけやすくなる。
仕事をしていても、世間話はすべてデンマーク語である。
デンマーク人は英語を流暢に話すが、それでもデンマーク語は地域社会でのつながりを築くために必要だ。
言語は時に個性や文化を表す。それがデンマーク人に近づくための条件のひとつだ。
デンマーク語を話すことは、人間の基本的な欲求を純粋に満たすことを目的とした生存に不可欠なことではないし、デンマーク語を話せない人が必ずしも「歓迎されていない」と感じるわけでもない。しかし、デンマーク語を話すことができれば:
社会に溶け込み、よそ者でなくなるのを実感できる。
現地の文化をよりよく理解することができる。
現地の人との交流や絆を深めることができる。
デンマーク語が流暢でなければ、良い仕事を見つけるのは非常に難しい。政府からの連絡はデンマーク語で来ることが多いので、デンマーク語を理解することは必要だ。
その国に住むには、その国の母国語を知っている必要があると私は思う。たとえ英語で "生き延びる "ことができたとしても、デンマーク語の知識があれば、より早く、よりうまく溶け込むことができる。
英語だけでも何とかなりますが、特にデンマーク語を話す人が大半を占めるイベントや集まりでは、完全に溶け込むのに苦労するだろう。
デンマークでは人々は一般的に、移民が英語を話せたとしてもデンマーク語が話せるようになることを期待している。
移民が彼らの言語を知るまでデンマーク人は冷たいように感じる。デンマーク語を話せることは、彼らのことをより理解するのに役立つ。
コミュニケーションや仕事のため
デンマーク語ができれば、デンマーク社会に溶け込むのにとても役立つ。
文化に溶け込むことは、文化そのものを尊重する方法のひとつだ。
あまり国際的でないデンマークの会社で仕事を始めてから、デンマーク人の友人たちと一緒にいると、みんなでおしゃべりしているときに、なんだか孤立しているような気分になりがちだ。最初はみんな英語で話していても、だんだんデンマーク語になっていく。
デンマーク語を話せないと不便というわけではないけれど、デンマーク語を話した方が歓迎されるのは間違いない。デンマーク人は少なくとも、移民がデンマーク語で話しているのを聞くのは嬉しいし、移民のデンマーク語のアクセントや文法的な間違いを訂正するときは、なぜかみんな我慢強くなる。
デンマーク語を話せば話すほど、その文化が身近に感じられるからだ。また、デンマーク人は少なくともあなたが母国語を話そうとすると、とても喜んでくれ、そして移民は最終的には地元の社会に溶け込むことになる。(デンマーク語を話せるようになることは)強制ではありませんが、とても役に立つ。
私の少ないデンマークでのデンマーク語使用の経験上、デンマーク語が話せるとやはり対応が違うし、特に高齢者の方には英語が堪能ではない方が多いので、デンマーク語の使用は、デンマーク内でスムーズに暮らすためには非常に重要だと感じるからです。
言語は文化である。考え方や無意識の行動は言語と密接に結びついている。
(デンマーク語を話さない)私は5年経っても常によそ者のように感じる。
デンマーク人は、デンマーク語を話せない/理解できない外国人を軽視することが多い。彼らは、相手がデンマーク語を話せない年っていてもデンマーク語で話し続ける。
「どちらとも言えない」と回答した者は全体の26%であったが、その理由としては以下が挙げられた:
デンマーク人は英語が上手で、英語で話していても歓迎されていると感じる。
デンマーク語は話せなくても生活できますが、知っていると生活がしやすくなります。
デンマーク語は話せないが、歓迎されていると感じる。
デンマークのどの地域かによるところが大きい
歓迎されないわけではないが、学ぶ努力を求められる。
どのような人間関係かにもよるが、必ずしもデンマーク語が話せなくても歓迎されていると感じる。英語が堪能なデンマーク人が多い。
デンマークのコミュニティの一員になるためには、デンマーク語を理解し、話せることは大きな利点だと思う。ほとんどのデンマーク人は英語が堪能だが、大多数がデンマーク語を話す集団の中にいると、彼らはデンマーク語を話す。
アカデミックな仕事でない場合においては、デンマーク語を話すことはより重要である。
デンマーク人は個人として英語を話すのは得意で、外国人とでもためらうことなくコミュニケーションをとることができるが、集団の場ではデンマーク語を話さない人を含めることを忘れがちで、外国人が集団に溶け込むのは難しい。
更に、反対派は14%であったが、その理由は以下が挙げられた:
デンマークでは多くの人がバイリンガルであるため、デンマーク語能力は大きな要因ではないはずだ。デンマーク語を話せなくても、歓迎されていないと感じたことはない。デンマーク語を話せない人がいるときは、少しネガティブな気分にもなる。
人々や仕事場とコミュニケーションをとるには、英語で十分だと思う。
多くのデンマーク人が英語を話せるため、デンマーク語を話せなくても困らないから。
デンマークの人々はとても礼儀正しく、コミュニケーションをとるために簡単に英語に切り替える。私の近所では、みんな挨拶をしてくれる。
第三の質問は、「現地語を話すことは、現地での正確な情報へのアクセスや権利取得の面で重要である」という考えに対する賛同程度を尋ねた。結果、回答者全体の72%が「強くそう思う」又は「そう思う」と回答した。また、「そう思わない」と回答したのは全体の8%で、「強くそう思わない」と回答した者はいなかった(グラフ12)。

「強くそう思う」又は「そう思う」を選択した理由として以下の回答が挙げられた:
ほとんどの事柄はデンマーク語のままなので、いちいち調べたりするよりもとても簡単だから。
仕事の契約書から注意書きまで、すべての情報がデンマーク語で提供されている。翻訳機を使うのは早くて簡単だが、疲れるし、今の翻訳機ではすべての情報を正しく理解するにはまだ不十分だから。
例えば、医者の予約やe-boksからのメールなど、必要な情報がデンマーク語で書かれていることもある。少し悲しいことだが、デンマーク語がまったくわからないと、重要なことを見逃してしまう。
すべての情報がデンマーク語で書かれているわけではないが、多くの情報はデンマーク語で書かれている。もちろん翻訳することはできるのだが、デンマーク語を知っていることは重要で、そうすれば翻訳する必要なく簡単にニュースを見たり、地元の新聞を読んだりすることができるからだ。また、いくつかの重要なメールや手紙はデンマーク語でしか送られてこない。
市民カードやイエローカードが送られてくるときの書類や、寮の契約書類が全てデンマーク語だったので、やはり公的書類はデンマーク語でしか対応していないということを痛感したため。
デンマークに関するニュースは英語で書かれているものが少なく、デンマーク語での分析が必要になるから。
重要かつ基本的な視点はデンマークの文化、つまり言語に根ざしているから。
すべての公式文書やウェブサイト(税金関係を除いて)はデンマーク語で、しばしば翻訳するのが難しい。しかし、英語での医療サポートは充実している!
デンマーク語が話せれば、より多くの情報を得ることができます。Siriや入国管理局などに問い合わせようとすると、質問に答えてくれる代わりに、サイトを紹介された。
どの言語でも同じことだ。翻訳はやはり誤解を招いたり、間違って翻訳されたりすることがある。
私の仕事以外の場では、情報がデンマーク語で配信されることが多く、グーグル翻訳を使わならなかった。
ほとんどの情報がデンマーク語で書かれているので、デンマーク語を勉強するのは便利で役に立つ。
「どちらとも言えない」と回答した者は全体の20%であったが、その理由としては以下が挙げられた:
つい最近デンマーク語を正式に学び始めた外国人(EU出身者)としてデンマークに長く滞在している間、デンマーク語を話す人と比べて権利が足りないと感じたことはない。議会選挙の投票など、デンマーク国民であることを要求される職務(これ自体がデンマーク語を話すことを要求される)を希望する場合は話が違ってくるので、この意味ではデンマーク語を話すことは重要かもしれない。例えば、デンマークの官僚制度を知るのはとても簡単で、ほとんどのことが二カ国語(デンマーク語/英語)で提供されている。同じように、公共機関でも、誰もが多かれ少なかれ英語を流暢に話す。したがって、デンマーク語以外の言語を話す人にとって、それが制限になることはない。
デンマーク人のほとんどは英語を理解できる。しかし一方で、デンマーク語が理解できれば正確な情報を得ることが容易になる。
デンマーク語を話すことが重要な地域もあるかもしれませんが、一般的にはデンマークでの情報へのアクセスや権利の取得の際には助けを得ることができる。
その言語をどの程度理解しているかによるが、理解し、意思疎通ができるのであれば、話せる必要はない。一方でもし状況が違っていて、デンマーク語を理解できなかったり話せなかったりすると、深い会話に入るのが難しくなる。
これに対し、「そう思わない」と回答した者は全て移民であったが、その回答理由は以下が挙げられた:
重要な情報のほとんどは英語でも書かれているから。
ほとんどすべてが英語で翻訳されているから。もしそうでない場合も、助けを求めれば教えてもらえる。
地下鉄でトラブルがあると、デンマーク語と英語でアナウンスがある。私がフランスに住んでいたときはそんなことはなかった。
以上、三つの質問の回答結果から生まれる議論は、デンマーク人の言語能力に対する回答者の態度に関してである。特に第一の、言語能力による不適切な待遇経験に関する多くの回答では、「デンマーク人は英語が話せるのに(こういった差別があった)」といったような、デンマーク人が英語を流暢に話せるという共通の前提認識が秘められているように見て取れる。第二、第三の回答でも、デンマーク語が分からなくても助けを得ることができ、最低生活レベルにおいてデンマーク語が必要となることは少ない、といったような回答が目立つ。つまり、デンマークでは国民の外国語能力が高いが故に、デンマーク国民が外国語を話してくれるだろう、という期待値が移民の間で高くなっていることが分かる。デンマーク人は、質的・量的に高いデンマークの外国語教育を通して、比較的外国語に堪能であるのだが、これが移民にとってはかえって都合が良く、このデンマーク人の語学の堪能さを利用して現地語をいつまでも習得せずに生活していく、というようなデンマークの移民は実際多く見受けられる。デンマーク政府が、移民に対して無料のデンマーク語講座を提供し、移民の現地語習得を促そうとしているが、無料である期間は移住してから五年以内と設定していることにも、納得がいくだろう。
一方で、いくつかの回答は、移住先の言語を学ぶことは、その土地の特徴や文化についての理解を深めることであり、それは移住先に住む以上大切なことである、ということを示唆している。これはデンマークに限らず、どの土地に移住しようとも、その土地の言語でしか表現できないようなニュアンスやユーモアというものがある。また、現代技術の発達のおかげで、紙媒体の辞書だけでなく、オンラインでも複数の翻訳ツールが利用できるようになってきたとはいえ、AI技術でも完璧に翻訳できない表現は多くある。更に、移民は移住先の言語が理解できなかったり文化的差異に直面したりすることで、虐待や、恐喝、搾取のターゲットにもなりやすいことは既に指摘されている(ICRC, 2017)。このような言語能力によって生じる不平等な扱いを移住先で経験することで、国際移民は孤立感、絶望感、あるいは反社会的な気分になり、鬱病等の精神疾患を抱えるケースも少なくない(BRYCS, n.d.)。特にデンマークの場合、前述のとおり、デンマーク人の高い外国語能力は否定しようがなく、そのため移民がデンマーク語を学ぶことの意義を見出すことが困難である可能性がある。移住先の言語習得は、移民がその個人的な利点と難点を比較した際に、利点が少ないと判断される場合、軽視されがちである。しかし、搾取や精神疾患などの目に見えにくい問題に対処することや、移住先の文化に対する理解を深める観点から、移民が移住先の言語を習得することは重要であると考えられる。
