いつまで新人賞を待つのか。自ら出版する小説家「山雨乃兎」の哲学
自分の内にある何かを表現したいと思いながらも、
一歩踏み出せずにいる方は多いのではないでしょうか。
今回お話を伺った稲見良一さんは、
いじめや事故、心の病といった
自らの壮絶な経験を
小説というフィクションに昇華させてきました。
新人賞という既存の枠組みに縛られず、
「出版して人生に楔(くさび)を打つ」
という独自の哲学。
誰かに認められるのを待つのではなく、
自ら「小説家」という旗を立てた
稲見さんの言葉をお届けします。
理不尽な経験こそが、物語を支える「リアリティ」になる
——稲見さんの小説の根底には、ご自身の壮絶な実体験があるそうですね。
子供の頃は、勉強も人間関係も非常に順調でしたが、
小学校の高学年で環境が変わり、
理不尽で過酷ないじめを受けるようになりました。
肩の怪我を負い、
得意だった野球でも
ストライクが入らなくなりました。
高校時代には、
柔道の時間中の事故で相手の下敷きになり、
体内で出血する大怪我を負いました。
それが原因で、不眠症にもなりました。
その後、32歳の時には知人に騙されるような形で
200万円の借金の身代わりになり、
1日に8回も銀行から督促の電話が鳴る
極限状態を経験したんです。
ーーそのときに感じていたことを聞かせていただけますか。
全く眠れなくなり、
「考想伝播」が強くなって
統合失調症を発症して入院しました。
ーー考想伝播とは何でしょうか。
テレパシーが出るような感覚で、
自分の考えていることが
相手に知られてしまっているのではないか
と感じてしまうのです。
当時は本当に地獄でした。
ーー地獄のようなご経験……。その経験が今に通じていることはあるのでしょうか
今となってはその「闇」の経験こそが、
私の小説のリアリティを支えています。
小説において「現実にもありえそうだ」
と読者に思わせる力は
こうした泥臭い経験を経ていないと
なかなか書けないものです。
設定を変えて自分の経験を盛り込むことで、
読者が深く感情移入できる
作品を作ることができます。
「小説」だからこそ、社会に訴えられること
——ご自身の経験を表現する手段として、
なぜ「小説」を選ばれたのでしょうか?
小説なら、
自分ではない登場人物の視点を借りて、
自分を客観的に見ることができます。
それに、日常で店員にイラッとしたような
些細な感情も、
小説のストーリーに乗せれば
読者に共感してもらえます。
もっと大きな視点で言えば、
「社会的システムがおかしい」という怒りを
フィクションの世界で描き出し、
読者に「あなたの頭で考え直してください」と
問題提起できます。
現実のトラウマがあったとしても、
それを小説という装置の中で表現することで、
社会を動かす力になると信じています。
新人賞を待つより、自ら本を出して「通過儀礼」を終える
——30作以上も新人賞に応募し続けながら、自ら出版する道へシフトされた理由を教えてください。
大手出版社の新人賞に応募していましたが、
自分の泥臭いリアリティが
評価されない既存のシステムに対し、
このまま応募し続けることに
行き止まりを感じていました。
そんな時、ツイキャスで知り合った友人に
「君の小説は面白いんだから、
電子書籍でもいいから
自分で本を出さなあかん」
と強く言われたんです。
そこからAmazonのKDP
(Kindle ダイレクト・パブリッシング)
を使って自ら出版し始め、
合計14冊を世に出しました。
ありのままの自分を慰めるな
——自ら本を「出版する」ことには、
どのような価値があるとお考えですか?
私は、人生のどこかで
通過儀礼をねじ込んでいかないと
いけないと思っているんですよ。
誰かに認められるのを待って
何にも形にならないより、
まずは一冊の本として世に出し、
自分の人生に確かな「楔(くさび)」
を打つことが何より重要なんです。
たとえ妥協や葛藤があったとしても、
形にして世に問うことで初めて、
自分を積み上げていくことができます。
世間では
「ありのままの自分を認めよう」
と言いますが、
私はそんなことしなくていいと思っています。
競争することも大事。
それで内心で「優越感」を持った方がいいんです。
14冊の本を販売したことで、
これでようやく誰が見ても「小説家」と言える
立場まで来られました。
そうやって自分を積み上げていかないと。
一冊の本を世に出すことは、
自分の人生に確かな楔(くさび)
を打つことと同じなんです。
あなたの中にあるモヤモヤを、一冊の小説に変えてみませんか
——現在はご自身の執筆以外にも、
出版のサポートをされているのですね。
はい、執筆と並行して
KDPでペーパーバックを出したい方向けに、
本文の文字レイアウトを
作成する仕事もやっています。
自分の内にあるモヤモヤしたものや、
社会構造への怒りを形にしたいけれど、
どうすればいいかわからないという方は多いはずです。
新人賞に投稿し続けて浪費するより、
まずは本という形にして
人生の「通過儀礼」を済ませてしまうこと
を私はお勧めします。
——最後に、この記事を読んでいる「表現したい」方へメッセージをお願いします。
自分の体験をフィクションとして描き出し、
形にすることで救われる人がきっといるはずです。
社会に訴えたいことがあるのなら、
小説という世界の中で
存分に描いていくことができます。
私の作品や、
レイアウト作成のサポートを通じて、
「小説を書いてみるのもいいな」と
一歩踏み出す人が増えたら嬉しいですね。
待っているだけでは何も変わりません。
まずは形にして自分を積み上げ、
人生に楔を打つという選択肢を、
ぜひ考えてみてください。
山雨乃兎さんのブログはこちら→新(朝日を忘れた小説家)山雨乃兎のブログ
山雨乃兎さんのAmazon著者ページはこちら→ 山雨乃兎Amazon著者ページ
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取材・文:宮田舞
