日本人の物語00097【神代】塩盈珠と塩乾珠
ワダツミは、ホオリを送り出すに当たって和邇(わに)に送らせました。行きはシオツチが用意してくれた無人の小舟でしたが、帰りは和邇が送ってくれるのですね。和邇とは現在のサメのことです。
宮殿から陸に戻ったホオリは、兄ホデリに再会し、ワダツミに教わったとおりの方法で釣り針を兄に返しました。その後しばらくすると、ホデリの生活はみるみる貧しくなりました。ホデリはホオリに嫉妬し、滅ぼそうと攻め寄せて来ます。
このあたり、古事記の記述の展開が非常に速いです。兄と再会したときの兄の様子や、呪いの作法を行ったときの兄の反応などは一切書かれていません。貧しくなる経緯や、攻めてくる経緯も一切語ってはくれません。
ホデリが攻め寄せてきたのを見て、ホオリは塩盈珠を天にかざしました。するとみるみる洪水が起きて、ホデリは溺れ苦しみました。塩盈珠はその名のとおり、潮を満たすための道具だったのです。
溺れるホデリが助けを求めると、今度はホオリは塩乾珠を天にかざしました。するとみるみる水が引いて、ホデリは助かりました。塩乾珠はその名のとおり、潮を引かせるための道具だったわけです。
ホデリは土下座して「私はこれからあなたに仕えます」と誓いました。この後、ホデリの子孫たちは天皇に仕える身となったといわれています。こうしてホオリは兄との争いに勝ちました。
古事記では、兄弟のうち末弟が必ず勝つストーリーになっています。オオクニヌシしかり、この後出てくる神武天皇も綏靖天皇もしかりです。古事記が末子相続を原則とし、兄弟の争いは全て弟が勝利するのは、天武天皇を賛美するためと考えられます。古事記編纂の時代は、天武天皇や持統天皇の時代ですから、兄・天智天皇と対立していた天武天皇を賛美する必要があったのかもしれません。
さて、兄との戦いに勝ったホオリでしたが、その後、トヨタマヒメが陸地にやって来て
「私は妊娠しています。天つ神の子を産むには、陸で産んだ方が良いと思ったのでやって来ました」
と言いました。
これを聞いたホオリは海辺に産屋を建てますが、その産屋の屋根をまだ葺(ふ)き終えないうちに、トヨタマヒメは産気づいてしまいます。産屋に入ったトヨタマヒメは、
「子を産むとき、私は本来の姿に戻ります。ですから、出産の間、どうか私を見ないようにしてください」
と言いました。
さあ、タブーが設定されました。イザナギがイザナミに会うために黄泉の国へ行ったときにも出てきたパターンです。もうどうなるかはお分かりですね。
