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日本人の物語01339【室町/義持期】くじ引きの疑惑

くじ引きの話を深堀りしても無意味かもしれませんが、こういう話こそ深く掘り下げたくなってしまいます。

 当時、「くじ」は神意を尋ねるための手段として広く用いられていました。今もなおその名残りが公職選挙法に残っています。同法95条2項では
「当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長がくじで定める」
との記載があり、同数のときはくじで決める旨が定められているのです。
 この義円が選ばれたくじ引きには「やらせ疑惑」も取り沙汰されています。疑惑の根拠は、
・万里小路時房の日記『建内記』に「くじは3度引かれて3度とも義円と出たと聞いた」とあること
・4人のうち、唯一義持と母親が一致する(つまり血縁が濃い)義円が選ばれていること
が挙げられます。
 歴史学者の森茂暁教授は、その著書『満済』(ミネルヴァ書房)の中で
「本書執筆の途中で、他の学問研究分野からひとつの有力なアドバイスがあったことを付記しておこう。それは、足利義教が室町殿後継者に指名されるきっかけとなった例のクジなのであるが、『建内記』の記事では四本のクジを三度ひいて三度とも義教の目が出たことになっている。このことについて、私の同僚で数理社会学を専門としている小林淳一教授にうかがったところ、四本のクジを三回ひいて三回とも同じ目が出ることは作為がない限りほぼ有り得ないという結論とともに、そのことを証明する数式を書いたメモを頂いた。私には確率の問題はよくわからないが、この小林教授のコメントからも『建内記』の記事の不自然さが理解されよう」
と述べています。おそらく小林教授のメモには
「(1/4)^3=1/64」(4分の1を3乗すると64分の1である)
という式が1行書かれているだけでしょうし、そもそも数理社会学の教授を担ぎ出さずとも算数の得意な小学生に聞けば分かる話だと思われますが、いずれにせよ「3度とも義円と出た」という話はいかにも眉唾です。それに、こんな重要なくじを引くのは1度にとどめるべきでしょう。
 ここから森教授は、恐らく満済日記の記述通りくじは1度しか引かれておらず、3度引かれたという話は義円の将軍就任を正当化しようとして幕府が広めた噂であろうと推測しています。万里小路時房はその噂を聞いて書き留めたのでしょう。
 ということは、疑惑の根拠の1点目は棄却されます。
 ただ、義持と同じく藤原慶子が産んだ義円が選ばれた点は、やや怪しく思えます。できるだけ義持と縁の深い人物を選ぼうという意図が読み取れるためです。
 いずれにせよ、くじが真に不正なく引かれたものかどうか、現代を生きる我々がその真相に迫ることは不可能のようです。

結局、結論は「分からない」です。そりゃそうですよね。

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