日本人の物語01415【信広渡海】和人とアイヌのトラブル
平秩東作は放送中の大河ドラマ『べらぼう』に登場しています。
和人とアイヌの交易が盛んになると、トラブルも増えてきます。まして和人とアイヌは文化・習慣の違いも大きかったようです。
これは江戸時代に松前に滞在した商人・平秩東作(へづつとうさく:1726~1789)の見聞記の記述ですが、アイヌには「ツグナイ」という概念があり、道理に負けた側が勝った側に物を渡す文化があるようです。
例えばある和人がアイヌの小舟の中で小便をしてしまいました。アイヌはツグナイを出せと迫りますが、和人は「水をこぼしただけだ」と騙そうとします。アイヌ側が証拠を得るために「ではふんどしを見せろ」と迫り、和人はやむなく脱いでみせ、アイヌにツグナイを支払いました。
ところがその後、和人は「嫌がっているものを無理やり見るとは無礼ではないか」と言ってツグナイを要求しました。アイヌは困って、取り立てたツグナイ以上のものを支払ったといいます。
またあるとき、用事があって和人がアイヌの家に訪ねていくと、「今日は上げられない。帰ってくれ」と言われました。和人が怒って無理に家に入ると、ちょうど妻が出産中でした。アイヌは憤ってツグナイを要求したところ、和人は謝ってツグナイを支払ったものの、その後
「日本では産穢(さんえ)といって、出産を見ると穢れるとされている。会えない理由を説明せず、穢れに触れさせた罪はどうするのか」
と主張して、ツグナイを取り返したというのです。
結局、理屈で争うとずる賢い方が勝利するわけで、こうした和人の態度にアイヌはひどく悩まされたようです。
また、「アイヌ勘定」という言葉があります。これは漁獲物などを交換する際に、和人がアイヌをごまかす手法だそうです。例えば十個の品を数えるときに
「始まり」「一」「二」「三」……「八」「九」「十」「終わり」
などとカウントして、十個取るべきところを十二個だまし取ったりするのです。アイヌの中には、
「始まりと終わりがなければ良いのだがなあ」
と嘆きながらも渋々その取引を認めた人もいたようです。
和人組織がますます蝦夷ヶ島に進出してくると、こうした詐欺で利益を得る物もますます増えていきます。アイヌ人たちの不満は大いに溜まっていき、それが爆発したのがコシャマインの乱です。
コシャマインの乱自体は室町時代の出来事ですが、アイヌと和人のトラブルとして取り上げた事例は全て江戸時代のものです。室町時代の例を取り上げたかったのですが、良い文献がありませんでした。
