日本人の物語00085【神代】アメノワカヒコの死
頼みの使者、アメノワカヒコが8年経っても帰って来ません。この状況を受けて、タカミムスビとアマテラスはまた神々に相談します。
オモイカネは、「ナキメ(鳴女)を遣わしてみましょう」と提案します。
もうそろそろオモイカネの提案は頼りにならない……と気づくべきだと思うのですが、他に案がなかったのでしょう。
ナキメとはキジのことです。タカミムスビとアマテラスは、ナキメに対して詔を覚えさせ、地上に遣わしました。ナキメは地上に飛んで行き、アメノワカヒコに向かって
「なぜ8年も報告がないのか」
と詔を告げました。
するとアメノワカヒコは、なんとアマテラスから賜った弓矢でナキメを射殺してしまったのです。矢はナキメを貫通して空高く飛んでいき、タカミムスビとアマテラスの元へ届きました。
タカミムスビは矢を拾い上げて驚愕します。血にまみれたその矢は、まさしくアメノワカヒコに授けたもので、アメノワカヒコの裏切りを意味していたからです。タカミムスビは
「もしアメノワカヒコに二心(ふたごころ)がないならば当たるな。もし邪心があるならば、アメノワカヒコに当たって死ね」
と言いながらその矢を地上に投げ返しました。
果たして、その矢は就寝中のアメノワカヒコの胸に当たり、アメノワカヒコは死にました。
ここで古事記は、突然メインストーリーとは無関係な挿話をさしはさんでいます。アメノワカヒコの葬儀の様子です。
アメノワカヒコが死に、シタデルヒメは泣き喚きました。その声を聞いた親族たちが次々と集まり、葬儀が始まりました。葬儀のさなか、オオクニヌシの子のタカヒコネ(高日子根)が弔問に訪れました。
シタデルヒメにとっては兄にあたるはずのタカヒコネですが、このタカヒコネが夫・アメノワカヒコに酷似していたらしく、シタデルヒメはこれを夫と勘違いして抱きつきました。するとタカヒコネは激怒し、
「なぜ私を穢れた死人になぞらえるのか」
と言って喪屋(亡骸を安置する建物)を破壊して帰ってしまいました。
現代人からすると訳の分からない挿話ですよね。死者を弔うために葬儀に来ておきながら、その死者を「穢れ」と言って忌み嫌い、葬儀を荒らしてしまうわけです。これは古事記の死生観を表す一コマのように思われます。つまり死者を穢れと呼んで不吉なものと捉え、生ある者を死者と見間違える行為は(葬儀を荒らす行為よりもはるかに)大変無礼なものと捉えられるのが、日本神話の価値観なわけです。
