日本人の物語00068【神代】黄泉比良坂*
黄泉比良坂までやって来たイザナギでしたが、そこに怪物と化したイザナミが追いついてきます。イザナギはイザナミが出て来れないように、「千引の岩(ちびきのいわ)」で黄泉比良坂を塞いでしまいました。「千引の岩」とは、千人の力を持ってしてやっと引くことができるくらい巨大な岩、という意味と考えられます。イザナギはそんな岩を一人で持ち上げられる能力を持っているようです。
すると岩の向こうからイザナミの声が聞こえてきました。
「愛しい人よ、あなたがこのようなことをするのなら、私はあなたの国の人々を1日に千人、絞め殺しましょう」
イザナギは言い返します。
「愛しい人よ、あなたがそう言うのなら、私は1日に千五百の産屋を建てよう」
この状態に至って、なお「愛しい人よ」と呼びかける感覚がすごいなあと感心してしまいますが、このやり取りによって、この世界では1日に千人が死に、千五百人が産まれるようになったとのことです。
そして、ここで言う「人」とはどうやら神ではなく人間のことのようです。
古事記では、神が出てきて神を産んだりするのですが、果たして人間はどうやって産まれたのでしょう。最初からいたのか、神が創ったのか、どうも判然としません。ただ、この時点では既に大八島には人間というものが存在していたようです。そして、イザナギとイザナミのやり取りによって、人間が死んだり生まれたりするようになったというのです。
さて、このやり取りが行われた「黄泉比良坂」の伝承地が、島根県松江市東出雲町にあります。
交通量の多い国道9号沿いに、「黄泉比良坂には信号左折」という大々的な看板が立っているのもいかがなものかと思いますが、そこを曲がって小道に入っていくと、徐々におどろおどろしい雰囲気の山道になり、いかにも黄泉への入口らしい仄暗い森があるのです。
階段を上ると、幅2メートル余りの「千引の岩」がぽつんと置かれています。どうも千引の岩というには小さすぎる気もします。この岩を持ち上げると悪霊たちが次々と出てくる‥‥といった気にどうもなれません。
その岩の隣には、イザナギが実を取って投げたという桃の木があります。ご丁寧に「やまももの木」と書かれた看板がぶら下がっています。
なお、その黄泉比良坂から車で5分のところに揖夜神社(いやじんじゃ)があります。イザナミを祀る全国的にも珍しい神社です。



