日本人の物語01680【幕間】小氷河期の到来
某SNSで腹立たしい出来事があり、それを契機に書き足した回です。
日本の戦国時代が到来した原因としては、
・応仁の乱によって室町幕府を中心とした秩序が崩壊したこと
・明応の政変によって将軍家が分裂し、下剋上の風潮が高まったこと
が挙げられますが、近年は「小氷河期の到来」を原因に挙げる説も注目されています。
15世紀から19世紀にかけて太陽の活動が衰弱し、特に15世紀から16世紀にかけては「シュペーラー極小期」と呼ばれ、地球の気温は平均で0.5~1度程度下がったといいます。加えて、南太平洋の海底火山クワエが噴火し、大気中に噴出した灰が日射量の減少をもたらしました。1万年以上前の本格的な氷河期に比べると大きな変化ではありませんが、これを「リトル・アイス・エイジ」と呼び、「小氷河期」「小氷期」などと訳されます。
0.5~1度程度とはいえこの気温低下は農作物に大きな被害を及ぼし、全国的な飢饉を発生させたと考えられます。その限られたパイを争うこととなり、100年以上にも及ぶ戦国時代が到来したというのです。まだ学界で広く受け入れられた説ではありませんが、確かに注目に値する説だと思われます。
一方で、こうした説は将軍家と管領家の分裂といった個々の歴史のダイナミズムを軽視しているようにも思われます。
「歴史を動かすのは為政者個人ではない。大衆の動向や気候変動といったもっと大きな要素が歴史を変えるのだ」
という言説は確かにもっともらしいのですが、歴史は偶然の要素でいくらでも変わり得るものであり、そこに必ずしも普遍の原理が潜んでいるというものではありません。
近年、『3時間で分かる○○』『スキマ時間で学べる○○』といった書籍が多数発行され、いわゆる「ファスト教養」が流行しています。これまで述べてきたとおり、斯波家と畠山家の分裂は極めて複雑な原因で起こり、極めて複雑な経緯を辿ってきましたから、「ファスト教養」ではとても学べません。そこに「リトル・アイス・エイジの到来」という1分で理解できる上に、ディテールを無視して大局的な見地に立ったかのように思える新説の登場は、諸手を挙げて歓迎されるのです。
本稿はまえがきで述べたとおり、人物の個性に着目した通史を志向する企画です。また「ファスト教養」に真っ向から反対して徹底的なディテールを重視しています。よって、私としては戦国時代が到来した原因として享徳の乱と応仁の乱を挙げ、この2事件に関わる多くの人物の利害関係やパーソナリティが組み合わさって偶発的に発生したもの、と総括しておきたいと思います。複雑なものはいたずらに単純化すべきではなく、複雑なまま理解すべきだと思うのです。
何があったかというと、SNSで教養講座を開設している人が、「歴史は大局的に理解すべきであって、例えば鎌倉時代とか室町時代といった細かい話を知るのは無意味である」との独自の主張を展開しているのを見たのです。
その人は戦国時代が到来した原因を「名前は忘れたけど何とかいう海底火山の噴火」と説明し、視聴者コメントの中に出てきた「斯波」という字を読めず、「管領」と聞いて「あー、関東管領? 上杉謙信だよね」と言っているほど歴史について無知のようでした。(関東管領だけを知っていて管領を知らない人もいるのですね)
そのような人間が解説する歴史講座に多くの人が集まっている現状には、危惧を抱かざるを得ません。
