日本人の物語00993【南北朝前期】兼好と徒然草*
この連載で文化史について取り上げる必要があるのかなあ、といつも迷ってます。結局、中途半端に私の好きな文学者だけを取り上げております。
正平4/貞和5(1349)年頃、兼好が『徒然草』を執筆しました。ここで徒然草のエピソードやその特徴について紹介しておきましょう。
兼好は吉田神社の神職の子として産まれたといわれていますが、その生涯については不明な点が多く、そもそも吉田神社の関係者であること自体が後世の創作との可能性が濃厚です。そのため、近年は吉田姓ではなく卜部兼好(うらべのかねよし)と呼ばれています。
徒然草は243段からなる随筆で、笑い話、エスプリ話もあれば、「もののあはれ」を描いた美的情緒あふれるエッセイもあります。いくつかご紹介しましょう。
【笑い話】
・出雲神社に参詣した男が、2体の狛犬が互いに背を向けて立っているのに気づき、皆々の注意を引き付けて「何かいわれがあるのだろう。ありがたいことだ」としみじみ感じ入っていたが、その後、近所の子供がいたずらで狛犬を動かしただけと判明する。(第236段)
・怖がりな僧が猫又に襲われたと言って人に助けを求めたが、飼い犬が飛びついてきただけだった。(第89段)
【不思議話】
・高僧が弟子に「君はしろうるりに似ているな」と声をかけ、事あるごとに「しろうるり」と呼びかけるが、弟子から「それは何ですか」と尋ねたところ、「知らん。もしそんなものがあれば君に似ているだろう」と答えた。(第60段)
・ある武士が「大根は万病に効く薬だ」と信じて食べ続けたところ、敵の襲撃時に大根の化身が現れて助けてくれた。(第68段)
【エスプリ話】
・仁和寺の僧が石清水八幡宮に参詣したが、山の麓にある社にだけ参拝し、山の上に本殿があることに気づかず帰ってきてしまった。何事も詳しい人の助けがあった方が良い。(第52段)
・木登りの名人が、弟子が危険な高所で作業しているときは声をかけず、低いところまで降りてきたところで「危ないぞ、油断するな」と声をかけた。本人が危険だと分かっているときよりも、安全だと思っているときこそ注意が必要だという話。(第109段)
【美的情緒の話】
・桜はその盛りの時だけが見頃なのではなく、しおれた後も見る価値があるものだ。恋もまた、ひたすら会って契りを結ぶだけが良いのではなく、長い夜を独り寂しく明かし、昔の恋をしみじみと思い出すのも良いものだ。(第137段)
徒然草は全体的にひねくれた話が多いのですが、読み物として楽しめる一著であり、日本三代随筆に数えられるのも頷けます。

