生成AI時代に最適なデータ分析レポートツールを「可塑性」で選びたいです
TL;DR (今北産業)
メガベンチャーのデータアナリストの独断と偏見によると、生成AI時代のデータ分析レポートに必要なのは下記だけど、最適解のツールが見当たらないよ
生成AIの可読性(プレーンテキストである)
セマンティックレイヤー連携されたデータである
探索&可視化の「可塑性」が高い
はじめに: 生成AIで失職しそうなデータアナリスト
こんにちは!某メガベンチャーでデータアナリストとして働いているじゃっこと申します。
突然ですが、最近俄かにデータアナリストとして失職する危機を感じており、その様子を(ChatGPT o3が)漫画に描いてみました。

これまでの一般的なデータの流れは、データエンジニアがデータ基盤を準備し、私たちアナリストがそのデータを使って分析し、インサイト(=有用な気づき)を抽出して、ビジネスユーザー(企画担当者や意思決定者など)に届けるというものでした。

しかし、生成AIの進化によって、データエンジニアが作ったAI搭載ツールをビジネスユーザーが直接操作し、インサイトを得られる未来が見え始めています。こうなると、アナリストの役割が飛ばされてしまうのではないか、という懸念が出てきます。
このような新しい時代に、私たちデータアナリストはどのような役割を担えるのでしょうか?私は、データアナリストが持つ専門知識や、データから本質を見抜くための「探索的思考」のプロセス(=どのように問いを立て、データを掘り下げていくかという思考の進め方)を、いかにしてAIに効果的に「教え」、AIと協力していくかが重要になると考えています。例えば、アナリストの経験則から生まれる「こういうデータパターンなら、こういう仮説が立てられる」といった着眼点や、「このデータを見たとき、まずここを深掘りしてみよう」といった思考の"コツ"を、AIが理解できる形(形式知)で伝えていくイメージです。その結果、ビジネスユーザーはアナリストの知見を学習したAIの力を借りて、これまで以上に迅速かつ多様なインサイトを得て、より質の高い意思決定ができるようになるはずです。

この「データアナリストの知識・思考プロセスをAIに教える」流れをスムーズにし、人間とAIのどちらにとっても扱いやすい情報伝達の形を見つけるには、どのようなレポート形式や手法が適しているのでしょうか?
本記事では、この問いに対する一つの答えとして、「可塑性(かそせい)」という考え方を提案します。「可塑性」とは、もともと物理学の用語ですが、ここでは「一度作成したレポートや分析結果を、目的や状況に応じて簡単に形を変え、再利用したり、さらに深掘りしたりできる性質」と捉えてください。具体的には、レポートが固定された情報ではなく、対話的にデータを探索できるような柔軟性を持つことを指します。この「可塑性」を確保することが、AIとデータアナリストがうまく連携し、ユーザーがデータから最大限の価値を引き出すための重要なポイントになると考え、この記事で議論を深めていきたいと思います。
最近話題の「プレーンテキスト」「セマンティックレイヤー」
最近、私の悩みのタネの一つが、「生成AIが本格的に活用される時代に、データ分析の結果やレポートは、どのような形式で作成・管理するのが最適なのか?」 という問いです。
最近、生成AI界隈のエンジニアやプロダクトマネージャーの間では、「AI時代は、情報をプレーンテキスト(=装飾のない文字だけのデータ)で管理すべきだ」という意見がよく聞かれます。確かに、AIが情報を理解し、再利用することを考えると、見た目は整っていても構造化されていないスクリーンショットなどより、Markdownのようなテキストベースのデータ形式の方が適している場面は多いでしょう。
一方で、私たちデータ分析の世界では、「セマンティックレイヤーの重要性」が俄かに注目度を増しています。これは、データや指標(メトリクス)の定義をビジネスユーザーにも分かりやすい言葉で一元管理し、誰が分析しても同じ意味・同じ数値でデータにアクセスできるようにする仕組みのことです。dbt LabsやSteep社のブログ記事などでも、このセマンティックレイヤー(あるいは、指標中心のアプローチであるMetrics-first)がAI時代の鍵になると論じられています。これも、AIとの連携や分析の質を担保する上で非常に重要な考え方です。
しかし私は、これらの潮流に加えて、もう一つ、これからのレポートに欠かせない3つ目の評価軸があると考えています。それが、本記事のテーマである「可塑性(かそせい)」です。
先に述べたように、「可塑性」とは「一度作成したレポートを、目的や状況に応じて容易に形を変え、再利用・再分析できる性質」を指します。より具体的には、レポートを見た人が、その場でデータの切り口を変えたり、異なる視点から集計し直したりできる「双方向性」や「対話性」のようなイメージです。
プレーンテキストでの管理は、AIが情報を読み取りやすくする上で役立ちます。セマンティックレイヤーは、分析の信頼性と結果の再利用性を高めます。そして、「可塑性」は、これらのしっかりとした土台の上で、人間とAI、あるいは人間同士が、データを介してより効果的に対話し、さらに深い分析や考察を進めることを可能にする、いわば「分析プロセスにおける柔軟性」と言えるのではないでしょうか。
なぜ今、「可塑性」が重要なのか?
まず、冒頭で触れた「データアナリストの知識・思考プロセスをAIに教える」とは、具体的にどのようなことでしょうか。これは、単に分析に使うSQLクエリをAIに提供するだけではありません。
例えば、経験豊富なアナリストが「このデータを見たとき、まずここに着目し、次にこういう角度から深掘りしてみよう」と直感的に判断するような、仮説構築や検証に至るまでの暗黙的な思考ステップがあります。この思考の道筋や、時には「こういうデータパターンなら、こちらの解釈も成り立つかもしれない」といったアナリスト特有の"思考の癖"や"着眼点"まで含めて、AIが理解できるような明確な問いの形や分析の手順として形式知化し、インプットしていくイメージです。優れた料理人がレシピには書かれていない「火加減のコツ」や「素材の組み合わせの妙」といった経験知を弟子に伝えるように、アナリストの暗黙知をAIに「翻訳」していく作業に近いかもしれません。
このようなアナリストの知見をAIが効果的に学習し、活用するためには、アナリストやユーザーが試行錯誤するプロセスそのものが、AIにとっても「見える」状態になっているのが理想的です。そして、この理想を叶える上で不可欠なのが、レポートや分析ツールの「可塑性」なのです。
ECサイトのRFM分析レポートの例で言えば、「ユーザーの月間訪問回数」を10回ごとに区切って集計した結果を共有した後、「やはり訪問回数が少ない層(0回から10回)は1回ずつグループ化して見たい」という要望が出たとします。従来のやり方では、アナリストが元の分析プロセス(SQLの再集計やNotebookレポートの再出力)に戻って対応する必要がありました。
理想としては、ユーザー自身(あるいはAIのサポートを受けながら)がその場で条件を変えたり、さらに気になる点を深掘りしていけることでしょう。
例えば、レポートに表示された「優良顧客」の定義(例:過去の購入金額や購入頻度の閾値)を、ユーザーがレポート上でスライダーを調整するように直感的に変更できるとします。その変更に応じて、関連するグラフや集計値がリアルタイムで更新される。
さらに進んで、「この新しい定義での優良顧客について、特にAという商品カテゴリへの関心度を深掘りして」といった自然言語での指示をAIに与えると、即座に追加の分析結果が表示され、新たなインサイトに繋がるかもしれません。
これが「可塑性」が実現する対話的なデータ探索の一例です。
従来のレポート作成は、多くの場合「片道切符」でした。アナリストがSQLを書き、データを集計・可視化し、レポート(多くはPDFや静的なダッシュボード)を作成して共有する。もし、レポートを見た人から「このグラフ、別の切り口で見たいんだけど?」というリクエストがあれば、アナリストは再びSQLを修正し、グラフを作り直すという手間が発生していました。LayerXの原山さんも、この手戻りが分析のスピードを著しく損ねていることを指摘しています。
生成AIの能力向上や関連ツールの進化により、データ分析レポートは、単なる「結果報告書」から、さらなる「探索と対話の出発点」へとその役割を変えつつあります。
レポートを見た人たちが、会議中に疑問に思った点を深掘りできるので、従来なら一旦持ち帰っていたような意思決定がその場で済むようになるのです。
またその検討過程を生成AIも学習することで、生成AI自体の性能もさらに上がり、データから得られるインサイトの速度・質・量が最大化されていくのではないでしょうか。
おわりに:「可塑性」の担保がAI幻滅期も阻止する?
最近のデータエンジニア界隈の議論を見ていると、AIツールを導入しても、結局のところ裏側のデータがきちんと整理されていなければ真の価値を引き出すことは難しく、むしろ「AIに対する期待外れ(AI幻滅期)」を迎えてしまうのではないか、という懸念も生まれているようです。
自分も焦りを感じている。「AIに生データ突っ込んだらそれっぽい結果返ってきたからええやん」となり、「基盤整備は金がかかるが価値を生まないもの」とみなされるバッドシナリオはあり得る気がします。勿論、本当に品質が高ければバッドではないですが、結局品質的な課題が出てくると思うので。 https://t.co/vRU9qsCM1V
— ikki / stable代表 (@ikki_mz) May 4, 2025
私は、この期待外れを防ぐためにも、「可塑性」が重要な鍵を握るのではないかと考えています。つまり、レポートが静的な結果を提示するだけでなく、対話と探索を生み出すプラットフォームとして機能することです。
ビジネスユーザーにAIツールが「価値のあるインサイトを提供してくれる」と心から感じてもらい、AI積極的に活用してもらうためには、ユーザー自身が納得感を持ちながらデータを探索できる環境が不可欠です。
そして、その実現の鍵を握るのが、本記事で議論してきたレポートや分析プロセスの「可塑性」なのではないでしょうか。
ただ、現時点では、では実際にどのツールやワークフロー(仕事の進め方)が「可塑性」を担保する上で本当に優れているのか、という評価はまだ確立されていません。
実際に検討しているツールを比較検討した章もあったのですが、長くなりすぎたので別記事に再整理して切り出す予定です。
個人的には、例えば下記のような将来を描いています。
①データウェアハウス(基盤の中間テーブル)はdbt/Dataformで管理
②データマート(アドホックな分析用の中間テーブル)はクエリをGitHubで管理
③GoogleスプレッドシートのConnected Sheetで②に接続し、対話的に分析やテーブル・グラフ作成ができる
- シートの表はCSVなので生成AIからもプレーンに読み取れる
だからこそ今、私たち現場のアナリストたちが自身の経験や試行錯誤を共有し、活発に議論を交わすことが非常に重要だと感じています。
「うちの会社ではこんなツールを使って、レポートの双方向性を高めているよ」
「プレーンテキストのバージョン管理と可塑性を両立させる、こんなアイデアがある」
「その悩み、すごくよくわかる!一緒に解決策を探っていきたい」
もしこの記事を読んで、このように感じた方がいらっしゃれば、ぜひコメントやSNSなどでご意見や事例を共有していただけると大変嬉しいです。また、もし「この筆者と、ああでもないこうでもないと議論しながら、これからのデータ分析のあり方について一緒に探求してみたい」と思っていただけたなら、ぜひお気軽にTwitterのDMなどでご連絡ください。カジュアルな意見交換など、ぜひお願いします。
まだ明確な答えのないこの問いに対して、共に悩み、考え、試行錯誤できる仲間が見つかることを心から願っています。
