新人研修|掌編小説集「ゆうぐれどき」#2
わたしは内定先の会社へ向かった。社長の新人研修を受けるために。
研修は社長室で行われた。部屋は広く荘厳な造りで、窓からは都会が一望できた。緊張で喉が乾く。
「リラックスしてください。大丈夫ですよ」と、教育係の女性が言う。座り心地のいいエグゼクティブチェアに腰掛けると少し落ち着いてきた。
「あの、わたしに社長が務まるのでしょうか」
「ご安心ください」と、彼女は壁を指し示す。そこには歴代社長の肖像写真がずらりと並んでいた。
「みなさん、新卒で社長になられたんですから」
「なるほど、そうなんですね」と、胸を撫で下ろした。なんとかなりそうだ。
ノックの音に続いて、一人の老いた男が入ってきた。彼は先代の社長だ。
「あの、社長っていうのは何をするんでしょうか」
「まあ……色々ですよ」
彼は親指で鼻下の白んだ髭を擦りながら答えた。
「色々というのは……」
「まあ、会社ですから、細々としたことがね……」
彼は親指にこびりついたらしい吹き出物をシャツの黄ばんだ襟首で拭った。
「先代社長、ありがとうございました」と、教育係が礼を言うと、彼は無言で会釈して去っていった。
「おおよそのところは以上になります。詳細は適宜LINEの方で連絡します」
わたし達はLINEを交換した。彼女のアイコンは実家の犬らしかった。
「何かご質問は?」
「いえ、今のところは」
聞くべきことが沢山あるような気がしたが、いざ質問となると言葉に窮する。
家に帰ると、これからのスケジュールが送られてきた。明日は株主総会で事業報告と質疑応答をするらしい。初仕事にしては少々重たいような気がするけれど、LINEで大体のことは教えてもらったから、まあなんとかなるか……。
〈了〉
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