最高検察庁 「保護観察」付き判決 積極的に求めるよう通知、というニュースに思うこと
日本の刑事司法の現場で、「処罰」と「更生」のバランスが変化しています。
その転換を象徴するニュースのひとつが、最高検察庁が全国の検察庁に出した、「保護観察付きの判決をこれまでより積極的に求めるように」という通知です。
罪を犯した人の再犯の防止につなげようと、最高検察庁が、裁判で「保護観察」の付いた判決をこれまでより積極的に求めるよう全国の検察に通知したことが、関係者への取材でわかりました。執行猶予の期間中に指導や支援をすることで、再犯防止や更生につなげるねらいがあります。
罪を犯した人をただ罰するだけでなく、執行猶予の期間中に専門的な指導や生活支援を受けてもらうことで、再犯防止と社会復帰につなげようとする動きが、検察の側から明確に打ち出された形です。保護観察とは、刑務所に収容するのではなく、社会の中で暮らしながら、更生に向けたプログラムや自立支援を受ける制度です。
保護観察所の職員(保護観察官)や地域のボランティアである保護司が、利用者と面談を重ね、生活の立て直しや再犯のリスクを下げるための支援を行います。
ちなみに、私は満期釈放なので保護観察制度を利用していません。
裁判所は、有罪判決の際に執行猶予を付けるかどうかを判断しますが、そのうえで「この人には保護観察が必要かどうか」を検討し、必要と考えれば保護観察付きの執行猶予を言い渡すことができます。ところが現実には、この保護観察が十分には使われてきませんでした。
執行猶予が付いた被告人のうち、保護観察が付けられた割合は、1994年には一三・九パーセントあったものの、2024年には四・九パーセントまで低下し、およそ三分の一にまで減っています。
ちなみに、私は実刑だったので執行猶予判決を受けたことはありません。
一方で、刑法犯で検挙された人のうち再犯者が占める割合、いわゆる「再犯者率」は四五パーセントを超える水準にとどまっており、「再犯の多さ」と「保護観察の少なさ」のギャップが問題視されてきました。こうした状況を背景に、刑法も改正されました。
改正前は、保護観察付き執行猶予中に再びQ1罪を犯した場合、必ず実刑となり、もう一度執行猶予を付けることは認められていませんでした。
つまり、一度つまずけば「次は必ず刑務所」という構造だったわけです。
しかし改正後は、一定の条件のもとで、一度に限って再び保護観察付き執行猶予判決を言い渡すことができるようになりました。
「一度失敗しても、もう一度だけ社会内でやり直す機会を認める」考え方が、制度として組み込まれたと言えます。今回の最高検察庁の通知は、この法改正の趣旨を、実務の場でしっかり生かそうとするものです。
ちなみに、私は刑務所を出てから10年以上経っているので、累犯加重されることは(ほぼ)ないです。
通知では、
・刑の全部が執行猶予になることが想定される事件で、
・保護観察によって再犯防止に資すると考えられる場合には、
これまで以上に積極的に保護観察付き判決を求めるように、と全国の検察庁に求めています。
これまでも薬物事件など一部の類型では、治療や生活支援と結びつける目的で保護観察が比較的活用されてきましたが、今後は窃盗や暴行など幅広い事件を念頭に置き、活用範囲を広げることが意図されています。そのためには、「どの事件で保護観察が必要か」を見立てる目と、その必要性を裁判所に伝えるための材料が欠かせません。
通知では、捜査の早い段階から、被疑者・被告人の生活状況や再犯リスクに関わる事情――仕事や住居、家族関係、依存症や障害の有無など――を丁寧に拾い上げ、保護観察の必要性を判断するための証拠を収集することが求められています。
そのうえで、公判で「どのような支援があれば再犯防止につながるのか」を具体的に示し、保護観察付き執行猶予が妥当であることを説得的に立証していくことになります。ここには、「検察は処罰だけを求める機関ではない」というメッセージが込められています。
従来も、検察官には再犯防止や更生の視点を持って起訴・不起訴や求刑を決める役割があるとされてきましたが、今回の通知によって、その姿勢がより前面に出てきた形です。
生活基盤が整えば社会の中で更生できると見込まれるケースについては、刑務所収容ではなく保護観察付き執行猶予によって、地域の中で支援を続ける選択肢が、より意識的に取られていくことが期待されます。一方で、刑務所の側では別の現実が進行しています。
日本の刑務所は、2000年代前半に受刑者数が急増し、多くの施設が定員を超える過剰収容状態に陥りました。
ちなみに、私はこの時期に収容されたことを書籍化して去年出版しました。
その後、犯罪全体の減少や刑事政策の変化などにより受刑者数は減少し、過剰収容は一定程度解消されてきましたが、今度は刑務官のなり手不足が深刻な課題として浮上しています。
厳しい勤務環境や安全確保のプレッシャー、勤務体制の問題などから離職が相次ぎ、十分な人員を確保できない施設も少なくありません。
「受刑者は減っても、人が足りず、現場の負担は依然として重い」という矛盾が、現場を悩ませています。こうした中で導入されたのが、懲役と禁錮を一本化した「拘禁刑」です。
従来の制度では、懲役には作業義務があり、禁錮には作業義務がないという形式的な区別がありました。
しかし実務の上では、禁錮刑の受刑者の数は非常に少なく、多くが任意で刑務作業に従事しており、「懲役と禁錮の違い」はほとんど意味を持たなくなっていました。
そこで、両者を一本化して拘禁刑とし、作業をさせるかどうか、どのようなプログラムを組むかは、受刑者一人ひとりの状況に応じて柔軟に決められるようにしたのです。拘禁刑の建前上の目的は、受刑者の特性やニーズに応じた処遇を柔軟に設計し、再犯防止や社会復帰に役立つプログラムを充実させることにあります。
たとえば、薬物依存が強い人には治療につながるプログラムを手厚く行い、読み書きや生活スキルに課題がある人には基礎的な教育や生活指導を行う、というように、画一的な「作業」だけでなく、多様なメニューを組み合わせていくイメージです。
その一方で、現場から見れば、限られた職員数の中で、誰にどれだけ手厚い支援や指導を行うか、優先順位を付けて資源を配分しやすくする制度でもあります。
拘禁刑によって、「全員に同じことをする」モデルから、「必要度の高い人に重点的に関わる」モデルへの転換が進めやすくなる面もあるでしょう。検察庁が保護観察付き判決の活用を強めること、拘禁刑の運用が始まっていること、そして刑務所現場で人材不足が続いていること。
これらは別々のニュースとして伝えられがちですが、少し引いて眺めると共通の背景が見えてきます。
それは、「すべてを刑務所に入れて解決する」という発想から、社会内処遇と施設内処遇を組み合わせ、限られた人的・財政的資源をどう配分するかを再設計している、という大きな流れです。
保護観察は、社会の中で再犯防止のプログラムや生活支援を回すための装置として、拘禁刑は、施設内での処遇内容を柔軟に組み替えるための装置として、それぞれ重要な役割を与えられつつあります。もちろん、課題も少なくありません。
保護観察所の体制は十分とは言えず、保護司のなり手不足も深刻です。
ちなみに、私は受刑生活の前半で身柄引き受け人を解任したので保護司も解任されました。
社会内処遇を広げるのであれば、その現場を支える人と仕組みをしっかり増強しなければ、制度だけが先に進み、支える側が疲弊してしまう危険があります。
拘禁刑についても、制度の柔軟さを生かして本当に個別化された処遇が行われるのか、それとも「人手が足りないからあまり手がかけられない」という現実の中で形骸化してしまうのかは、これからの運用次第です。検察庁の方針転換と法改正、拘禁刑の導入、刑務所と更生保護の人材不足。
これらを一本の連続した文脈として捉え直すことは、「再犯をどう減らすか」「処罰と更生をどう両立させるか」「地域社会の安全をどう守るか」を考えるうえで欠かせないと感じています。
ちなみに、私はまた刑務所に入ったら本をたくさん読みたいと思っていたので、執行猶予がついては刑務所読書ができなくなるので残念に思ってます。
今月末はこちらに参加予定。

個々のニュースを点ではなく線としてつなぐことから、これからの刑事政策と社会での生活との関係が、少しずつ見えてくるのではないでしょうか。
あと。最近思ったこと。
ここから先は
¥ 1,000
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
