ライターの雑記:映画「花様年華」の25周年特別版を観てきました
7月も後半、今年も暑いですね。先日は都内で複数の取材を行ってきましたが、あまりの暑さに少し熱中症気味に。真夜中に頭痛に苦しみましたがポカリのおかげで翌朝はすっきりでした。最近公開された記事もありますが、紹介のは別の機会に。今日は映画のお話です。
映画「花様年華 25周年特別版」を観てきました
2026年5月1日から全国で順次公開されている映画「花様年華 25周年特別版」が地元でも公開されていましたので、都内出張から戻り最終日に滑りこみで観てきました。BBCが選ぶ21世紀の偉大な映画100本の第2位の本作、第53回カンヌ国際映画祭ではトニー・レオンが主演男優賞と獲得し、監督のウォン・カーウァイの代表作でもある1本です。(この他にも有名映画祭の最優秀作品賞なども受賞)個人的にも大変好きな映画で、これまで何度も観ています。(DVDや当時のパンフレットも持っております)
ポマードとチャイナドレス。60年代香港とカンボジアの濃密な色気を纏いつつ、歴史的な背景にも触れる本作は、マギー・チャンの演技も素晴らしく、このような映画はなかなか今後も出ないのではないか、と思っています。レベッカ・パンなどの脇役がコミカルな演技を見せる中で、作品中で交わされる男女の会話は少ない本作。衣装・表情・指先・靴などのアイコンを通して動きがある映像が続くほか、ナット・キング・コールや梅林茂の曲、クリストファー・ドイルの映像が官能を演出しており、今回の4K版もやはり素晴らしかったです。
あえてベッドシーンをカットしたゆえに完成した「官能と秘密」
トニー・レオンといえば、2000年に公開の本作から7年後に公開された「色、戒(ラスト、コーション)」で主演女優のタン・ウェイとともに激しいベッドシーンを演じたことが話題となりました。こちらは事実上日本軍に占領されていた第二次世界大戦下の香港と上海が舞台となっており、暴力がシーツの上にまで及ぶ歴史映画です。官能というよりも、野心と悲哀の両方を抱えた男女が痛み分けのように交差するシーンが続きます。男は女の身体へ、女は男の心へ暴力を与えるのですが、悲哀を抱える者同士ゆえに、真に理解しあってしまう良作です。
一方、同じ香港が舞台ではあるものの花様年華ではこのような露骨なシーンはありません。厳密には撮影されていたのですがカットされています。(マギー・チャンが当時のインタビューで答えており、未公開シーンは一時期ネット上にも出回っていました)
指のふれあい、身体を支えあう様子、目線や表情の変化。2人で1つの小説を作るという遊びに興じる様子から、次第に男女の慈しみへと変化していく様子が撮影されています。また、赤が基調となっている衣装やカーテンも色気があり、あえてベッドシーンをカットしたことで、2人にしかわからない秘密が最後まで守られた、大変美しい大人の官能作品です。最後、アンコールワットで秘密が閉じられるシーンによって圧倒的な完成度となったのは、余計なシーンを排除したからでしょう。キスシーンすらありません。
明け透けなまぐわいではなく、2人にしかわからない秘密。私たち観客も観ることはなかった。本当に触れることができない過去になったわけですね。ここで、本作の中に出てくる文章を紹介しておきましょう。
「男は過ぎ去った年月を思い起こす。埃で汚れたガラス越しにみるかのように、過去は見るだけで触れることはできない。見える物はすべて 幻のように、ぼんやりと」
2046では何が描かれたか
花様年華には続編のような作品があります。木村拓哉も出演していた「2046」ですね。賛否両論ある本作ですが、個人的には嫌いではありません。花様年華のトニー・レオンとは打って変わり、やさぐれた嫌な奴になっている様子が見られるのですが、そもそも花様年華では大切な人を2度も失っているので、こうなっても仕方がない気もします。
さて、2046、とは2人が会っていた部屋の番号ですが、そもそも2047年に期限を迎える「香港の一国二制度」の前年なわけです。とても意味がある数字なのですね。実は、花様年華にも2046にも、そして花様年華の10年前に公開された欲望の翼も、香港が抱える複雑な歴史が垣間見えます。そんなことも踏まえてみると、何度でも楽しめるのでおすすめです。今回は個人的な思い入れが強い本作と、その続編2046について書きました。まったく古さを感じない作品ですので、この機会に。
