コント文学『食パン食べながら走って学校行くをやってみた』
高1の初夏。
勇気を出して憧れの『食パン食べながら走って学校行く』をやってみた。
『めっちゃ青春じゃん』と胸の高鳴りを抑えられず、玄関から弾け飛ぶように食パンを咥えて走り出した。
だが、想定外の事態が起きる。
『食パンを食べる』✕『走る』という圧倒的相性の悪さに気付いたのだ。
初夏の陽気も加わって、ダッシュしながらの食パンが容赦なく口の中の水分を奪っていく。
玄関を飛び出して100メートルを過ぎた頃には喉の渇きは限界を迎え、食パンが喉を通らない。
そして極限状態の食パン咥えた高校生に向けられる、道行く社会人達からの嘲笑混じりの好奇な目に気付き、急に恥ずかしくなってくる。
食パンを捨てる訳にもいかず、ジャムで仕上げた状態だからカバンの中にしまう訳にもいかず、俺は水分を求めて町を彷徨った。
通学路から一番近いコンビニに着いたが、食パン片手に入る度胸が無かった為、素通りして見つけた自販機でジュースを買って一命を取り留めた。
そして遅刻して学校に着いたら目撃談が広がっており、その日から俺のあだ名は『しょくぱんまん』
過去を打ち明け、後悔するから絶対にやめておけと忠告すべきだった。
あの日から30年。
高校生になった娘が寝坊して、食パンを咥えて家を飛び出した。
その後ろ姿はキラキラと眩しくて、自分が失ってしまった光を放っているように感じた。
これが最後の青春の輝きになってほしくないと切に願った。
