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闇 395(闇バレンタインの夜前編)


闇 395(闇バレンタインの夜前編)

2025/11/18 tue
前回の章


電車は狭山市駅を発車する。
無性にタバコが吸いたかった。
昔はよかったのにな。
四号車へ行けば喫煙者でタバコが吸えたのに。
トイレに行って吸っちゃうか……。

やめとけって。
あと二、三駅なんだからそのぐらい我慢しろよ。
このイライラを何とかしたい。

新井はちゃんと俺に電話を掛けてきて、何故飲み会へ呼ばなかったのか説明したじゃないか。
何故まだ苛立つ必要がある?

バレンタインなのにチョコレート一つももらえなかったからだろ?
そりゃあリングに立ったあの頃に比較すれば今はどうよ?
当たり前じゃねえか。

年は取る。
面も醜くなった。

でも飲み会で愛の分も真紀美の分も出した。
そう…、そこなんだよ。
君代にしてもそう。

あいつら俺にチロルチョコでいいから、一つくらい誰かくれたっていいんじゃないのか?

ハッキリイライラしない怒りの根源を突き止めた。
馬鹿かよ、俺は……。

二月十四日にチョコゼロという事で、怒ったところで何ができる?
もうじき小江戸号は本川越駅へ着く。
時間は夜の十一時手前。
あと一時間ちょいでこの聖なるイベントも終わる。

そしたら二千十七年度はゼロの年決定。

「あーっ! あ……」

思わず声を出していた。
近くの乗客が不思議そうな表情で俺を見ていたので、慌てて外の景色を眺めて誤魔化す。

みんな酷いよね、酷過ぎるよね。
この綺麗な夜空に輝くお月様だって、こんな俺に対し何もしちゃくれない。

「えー、次は本川越、本川越。終点になります」

あー、川越着いちゃったよ。
あと一時間で誰かチョコレートくれないかな。
気持ちが欲しいんだよ、俺は……。

このまま帰るには辛過ぎる。
どこかで一杯引っ掛けて行こうじゃないか。
いつもの大漁丸の方向へ行きだして、足を止める。

これさ…、篠崎の店行ったらバレンタインなのに一人寂しく飲みに来やがったとか思われないか?
いやいや、彼はそんな性格悪くないだろ?
でもさ、今日だけは行ったら負けのような気がする。

人間ね、特に男は絶対に下ってはいけない時って絶対にあるんだ。
それは今日。
だって何故ならバレンタインデーだから。

「あ……」

ずっと足りなかったジグソーパズルのワンピースの最後の一欠けらを見つけた。

この日誕生だったあのクソ男。
獲物を見つけた。
この怒りをぶつけるべき相手を。

今でも思い出す、あの時の事……。

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