闇 437(あれから十年編)
闇 437(あれから十年編)

2025/12/29 mon
前回の章
二千十八年一月五日、金曜日大安、小寒。
新年が始まってもう五日目。
新宿歌舞伎町の絶滅危惧種である裏稼業ゲーム屋のラッキーハウスの仕事も、二日目が終わる。
唯一の心配事はただ一つ。
埼玉りそな銀行の駐車場にいた野良猫ニャーニャーたちだ。
俺は大晦日も元旦も、もちろん三箇日も餌をあげようと行った。
しかし今年になってから何故か一匹もいないのである。
まだまだ寒いこの季節。
ちゃんとご飯は食べられているのか?
事故に遭ったのではないか?
様々な想像をし、いかに自身が無力であるかを思い知る。
そんな事を考えている内に、本川越駅へ到着した。
今日もいないのだろう。
そう思いつつも、俺は改札を出るとローカリーを迂回し、横断歩道へ向かった。
信号が青に変わり、急いで進む。
駐車場へ着くと「ニャー」と大きな声で呼んでみる。
「ニャー」
「……」

車の陰から出てきた一匹の猫。
色合いからニャンタッタとすぐに分かる。
彼女は俺を見ると近付いてきて足元へすり寄った。
頭を撫でても逃げようともしない。
「ニャンタッタ、他の猫はどうしたの?」
「ニャー」
「分からないか…、あ、お腹減っているよな? ちょっと待っててな。すぐ買ってくるから」
隣りのファミリーマートへ寄り、キャットフードに肉の缶詰を買う。
「ここ数日見えなかったでしたね」
「猫がずっといなかったんですよ。やっといたから買いに来たんです」
コンビニ店員と短い会話を済ませ、俺は再び猫の元へ向かう。
餌を与えながら一匹だけの猫を見て、あれだけいたニャーニャーたちは一体どこへ行ってしまったのだろうと不安を覚えた。
この子だけでも何とかしたいなあ……。
躾とか大変だろうけど、部屋へ一緒に連れて行って住むか。
このまま放っておく訳にもいかない。
「ニャンタッタ、一緒に来るかい?」
抱き抱えようとすると暴れて逃げ出す猫。
野生が染みついているのだ。
頭までは撫でさせる。
でも、餌以外はいらないのだろう。
警戒したのか少し距離を取った状態で「ニャー」と鳴く。
「ごめんごめん、悪かったよ。餌ここにたくさん置いておくから、他のニャーニャーたち来たら一緒に食べなよ? また明日も来るからちゃんといるんだぞ?」
「ニャー」
ジッと俺の顔を見つめるニャンタッタ。
お互いどれほど意思疎通ができているなんて分からない。
それでも俺を頼っているのだけは事実だ。
それなら俺は毎日ここへ来て餌をあげ続けよう。
帰り道を歩きながら、叔母さんのピーちゃんの顔が思い浮かぶ。
「おまえは本当に無責任だ」
そう否定してくるのだろうな。
うん、無責任だよ、だから?
そんな感じだ。
二俣川の時の兵糧攻めで死に掛けた俺。
あんなひもじい思いなど二度としたくない。
それは猫だって一緒だ。
餌を買うぐらいの余力だってある。
だったら俺はあの子たちへ餌をあげ続けたい。
それを無責任と言うならそれでもいい。
別にあんたの機嫌を取る為に…、評価を得る為に生きている訳じゃないのだ。
人を否定する前に、自分のした事を思い返せ。
弟だった貴彦を巻き込み、内緒で養子縁組した事を……。
「私が死んだら分かる」
生前そう言ったおじいちゃん。
俺、馬鹿だからさ、あれから二年以上経つけど何も分からないや。
まあ一時親戚兄弟みんながこぞって俺の実印を欲しがった事実。
そして誰一人俺に詳しい説明をしようとした人間はいなかった。
それだけが俺にとっての史実である。
勝手に想像して、勝手に一人で考えて俺も馬鹿だな、相変わらず……。
まあ何でもいいか。
俺は俺でしかなく俺に過ぎない。
人が良くてボンボンでうまく利用だけされた馬鹿親父も、部屋にいるだろう。
途中にある二十四時間スーパーのマルエツへ寄り、電話を掛けた。
「おい、何か腹減っているなら弁当買って行こうか?」
「そうだな…、カツ…、カツ丼がいいな」
「分かったよ」
俺は俺であればいい。
どうでもいい事を考えながら、俺はカツ丼を買い物かごへ放り込んだ。
二千十八年一月六日、土曜日赤口。
ようやく競馬開催。
一年の計は金杯にあり。
これだけ負け続けても辞められない理由。
もちろん悔しいかというのもある。
しかしギャンブルが好きだった斉藤弘一の分まで、俺は生きているのだからやっておきたい。
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