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闇 588(手書き請求光熱費編)

闇 588(手書き請求光熱費編)

2026/06/10 wed
※書かないと答えに辿り着けないから俺はこの作品を書いている。
※スキ二度押しユーザーは本当にウザいのでブロックする事にしました。
前回の章



二千二十二年十一月二十二日、火曜日友引、小雪。

インカジ『レディ』で仕事して河本マンションへ戻り、節制した生活。
一日出ればもらえる食事代の千円すら、パスタや缶詰、調味料などを買い、レシートを持って行き交換した。
保存の利く食料品のストックは、今後も何かしらの役に立つはず。

この窮屈な節約は、自分が競馬で馬鹿な行動をしてしまった楔。
どうせ金を使うなら、もっと有意義な使い方をしないと本当に駄目だ。

基本はやはり金をなるべく使わない事。
金さえあれば、ある程度の環境から抜け出す事もできる。

それをちょっとした賭博や流れで自分を見失うから、このような現状になっているのだ。

こんな俺にまずできる事。
それは自炊しながらの節制。
自分主体で切り開かなくては、ずっとこの停滞期が続くだけ。

俺は仕事を終えると米だけ研いでおき、起きたら普通の食事を作ってみようと思った。



二千二十二年十一月二十三日、水曜日先負、勤労感謝の日。

業務用スーパーで買える数十円の豆腐。
そして斜め向かいにある八百屋で安売りしている野菜。
一汁一菜…、古くから言われている食の基本。
でも同じ材料を使いながら、どこまで違う種類のものを作れるか。
それも一つの節約になるだろう。
材料を無駄に廃棄するよりはいい。

野菜をベースにした料理から味噌汁までを考えながら手際よく一品ずつ作る。
下手な外食の朝食メニューに比べれば、栄養のバランスも量もかなり上回った状態でできるのだ。

シンプルな食事を作り、一人寂しく頂く。
せめてこの時を写真に撮り、フェイスブックへ残しておこう。
五十一歳の俺が、一人で飯を炊き、このように食事をしていたという記録の為にも。


今日のご飯

2022/11/23 河本マンション 自家製料理

・ウインナーと野菜のオイスターソース炒め
・ほうれん草とインゲンとコーンのバター炒め
・白菜の漬け物
・冷奴
・麦飯
・豆腐とワカメとネギの味噌汁



人生転がり落ちるのは簡単。
這い上がるには丁重な積み重ねと時間を要する。

なるほど…、いつしか群馬の先生が言っていた言葉が何となく腑に落ちる。

「この世はすべて想像の世界。だけどマイナスの方向へ考えると転がり落ちるのは早い。プラスに考え、感謝を忘れないように。プラスは中々成果出るまで時間掛かりますから」

百合子と共に通っていた時期だから、岩上整体を始める前…、二千六年の時だったろうか?
どこが想像だけがすべてなのかまるで当時は分からなかった。

あの言葉は比喩なのだ。
自分の考え…、これが想像。

マイナスの方向へ考えると転がり落ちるも、何かの比喩。
文学賞を取り本を出して試合で戦ったあの頃。
俺は誰もこんな真似できないだろうという自負で有頂天になっていた。
いわば天狗になっているのだろう。
慢心は隙を生む。
慢心は努力を忘れ、結果自身を蝕んでいく。

成果が出るまで時間が掛かるのは当然だ。
何故ならこれまで何故転がり落ちたのかを運が無いなど、自分ではない何かのせいにしかしてこなかったのだから。

少しずつでいい。
変わろう。
いくら生きているとはいえ、五十を過ぎた。
人生の折り返し地点は間違いなく過ぎている。


二千二十二年十一月二十四日、木曜日大安。

昔から何故かオルゴールが好きだった。
しかしそれは漠然とした感覚に過ぎず、コレクションするほどではない。

若い時代に女性へメッセージカードを書く際、開くとオルゴールの音が鳴る程度のものを好んだ。
仕事中、急にこんな事を思ったのは何でだろう?

プライベートな会話を楽しくできる同僚がいないからだ。
だから待機中の暇な時間は携帯電話で意味も無く時間を潰す為に、何かしらのサイトを眺めている。

そんな中、アマゾンで月が中に入ったガラス玉の光を発するオルゴールを目にした。
鳴る音楽はカノン。

輪唱の一種で一つのメロディを複数のパートが異なるタイミングで追い掛けるように演奏する作曲技法。
またパッヘルベルのカノンというものもあるが、ピアノでドビュッシの月の光しか弾いた事のない俺にとって、クラシック音楽は詳しくない。

ただシンプルなカノンを奏でながら、回転しながら光を発するオルゴールが、あの薄暗いベランダにあったら何となくホッとする気分になるだろう。
タバコを吸うのによく行く場所でもある。

これは無駄遣いではなく、心の平安を得るものとして捉えれば四千円しない買い物は、いい方向へ行くのではないか。

乙女座生まれなので、ロマンチックな気分に浸れるのもいい。
光を放つ月型のカノンのオルゴールを購入しようとして、ちかの顔が浮かぶ。
そういえば彼女にこれをプレゼントしたら、どんな顔をするだろう?

数日前に俺は、同じものを二つ購入する事にした。
それが今日届いていたので、早速ベランダの椅子の上に置き、スイッチを入れてみる。

2022/11/24 河本マンションベランダ カノンの月のオルゴール

螺子回し式のオルゴールなので、音を出さずともお洒落なライトとしても活用できる。
それにしても部屋の前に置かれたトタン板のせいで、昼間なのにベランダはいつも暗闇に覆われていた。

ライトアップして音も慣らしてみる。
うん、心が安らぐなあ……。

カノンを聴きながらセブンスターを吸っていると、河本マンション大家の騒音が聞こえてきて気分が台無しになる。

何となく今の自分に足りないのは肉だと自覚した。
馬鹿みたいに高級肉など買えないが、ソース一つで安い肉でもいくらでも美味しく食べられるはず。

俺は玉ねぎを擦りおろし、調味料を加えていき、宮のたれみたいなソースを作ってみた。

2022/11/24 河本マンション 宮のタレ風ソース

ちかには今度地味だけど心温まるプレゼントをあげるとだけLINEを送る。
彼女はしきりに質問をしてきたが、俺はヒントを『バッハベル』とだけしか伝えず、ソース作りに専念した。
途中違和感を覚え、打った文章を読み直す。
『パッヘルベル』の間違えを送っているじゃねえか。
慌ててちかにヒント第二『パッヘルベル』と送るも、彼女は意味がまったく分からないようだった。

時間になるとインカジ『レディ』へいつものように出勤。
つまらない仕事を終え、淡々と帰ろうとすると帰り道「先輩!」とカミヤの人に呼び止められる。

「今日は焼鳥残ってますよ」
「寄ってきますよ」

2022/11/24 歌舞伎町平和通り もつ焼きカミヤ

千円台で済むささやかな幸せ。

2022/11/24 歌舞伎町平和通り もつ焼きカミヤ

今日は焼鳥や野菜焼きまでいつもメニューに加え頼んでしまったので、二千円越えか。
たまにはこんな一日も悪くないだろう。


二千二十二年十一月二十五日、金曜日赤口。

名義社長の小西がいきなり今日は仕事を終えたら食事会をすると言い出した。
どこの店へ行くのか聞くと、系列店『ダウンロード』のオーナー小田川が最近出した寿司屋らしい。

もうじき名義交代する小西は、連日暇さえあれば年下の小田川に媚びを売り、まるで子分のように歌舞伎町を徘徊していた。
今回店の経費で行ける食事会へ小田川の店を選んだのも、彼の機嫌を取る為だけの決定だろう。
俺が魚類は苦手だとか、前の忘年会でかに道楽でほとんど食べるものがなかった事などは、まったく気にしない。
小西にとって店の従業員の機嫌を取るよりも、上役のご機嫌伺いしか頭にないのだろう。

何故か中番の業務が終わり間際、休みなはずの片屋敷がレディへ来る。
自分が小田川から可愛がられているという自負を持っているせいか、彼もそこまでして媚びへつらいたいから来たのか。
仕事上は真面目なスタッフが多いレデイであるが、性格は寄生虫思考の人間が多い。

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