闇 614(トンカツひろむ編)
闇 614(トンカツひろむ編)

2026/07/17 fri
※1971年から書き始めて、とうとうこのシーンを書けるのだなという喜び。博多の部屋から見える景色がカンカン照りの昼間から、執筆に没頭して気付けばすっかり夜になっていた。でもこれはとても幸せな事である。
前回の章

二千二十三年七月十日、月曜日仏滅。
甲府市の信玄餅。
あれがあそこまで人気があるものだとは、思いもよらなかった。
インカジ『レディ』のスタッフたちへ人数分以上用意したつもりだったが、誰かが二つ以上食べたのだろう。
全員に行き渡らないという不測の事態。
まあこればかりは俺のせいではない。
誰か個人的な卑しさを出した者のせいだ。
良かれと思って買ってきたお土産。
しかしそれが元でこうなるとは複雑な胸中だった。
ジャンボ鶴田師匠での墓前の報告を済ませた俺。
何かしらの成長があったのか?
師からの聖なる力は得たのか?
自分では何も分からない。
それでも山梨県塩山の慶徳寺へ行って、良かったとだけは思える。
いつかまた小説を書き始め、執筆だけで自由に暮らせる日が来たら、ああいった落ち着いた場所に缶詰をしながら過ごすのもいいだろう。
川越にも新宿にも無い山…、そして海。
俺が幼少時代から足りていない環境は、自然そのものだったような気がした。
ふと自然に笑みがこぼれる。
十二年以上小説から遠ざかっている俺が、いつか印税生活?
何の努力もしていない男が、おこがましい。
志だけなら誰でも簡単に抱ける。
本当に大事な事は、言うだけでなく実行する事。
今の俺は何に対して何を動いている?
インカジ『レディ』の仕事を終えてからも、しばらく寝転がったまま様々な思考だけが頭の中を駆け巡っている。
どう足掻いても俺は、鶴田師匠のようにはなれない。
それでも懸命に藻掻き、あの背中へ少しでも近づけるように……。
いや、焦らないでいいのだ。
気付けば俺の方が年齢だけでは二歳も年上になってしまった。
無様なりに生き抜いてしまった俺。
ならばゆっくりでいいから、少しずつの地固めを。
どうやら俺は師に甘えていたのだろう。
二十三年ぶりに墓参りへ行けば、何かしらの気付きを得られるとでも。
安易に目に見えないものへ縋り、結果まとまった思考も何も無いまま。
果たして俺は成長をしているのか?
ただ塩山へ行ったという結果だけを欲していたのではないか?
書く事を辞め、再び裏稼業へどっぷり浸かり、十年以上の月日が流れた。
この間、俺は何を得た?
何を失った?
恋人も何もできず、ただ金と尊厳をピラニアのような連中に次々と食い千切られただけ。
ある時は財産を。
ある時は尊厳を…、矜持を……。
今の俺に何ができる?
書く事…、馬鹿な。
まるで書いていないだろ。
本当どうするんだ、これから?
何も考えず、女の柔肌へ顔を埋めたい心境。
これだけ考えて、この程度の思考しかない俺。
携帯電話が鳴る。
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