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闇 484(愚直な自己管理編)

闇 484(愚直な自己管理編)

2026/02/16 mon
前回の章


二千二十年二月四日、火曜日大安、立春。

時刻を確認すると日が明け四日。
今日の夕方には横浜のインターコンチへ行かねばならない。

何故なら池袋のキャバクラ『インペリアル』で偶然知り合ったエリとの初デート。
だから帰ってしっかり身体をそれまで休めておきたい。

なのに何でコイツらと一緒に新宿へ向かわないといけないんだよ!

本当に鬱陶しい。
俺の肩に寄り掛かって寝ている山下の頭を押しのける。

人を拉致同然にタクシー連れ込んどいて、とっとと寝てんじゃねえよ、この馬鹿。
川崎もダウンしている。
前方の助手席では橋本も寝ているようだ。

結局新宿に着いても中々起きず、俺がタクシー代を払う。
中々起きない遅番スタッフたち。

山下哲也の寝顔を見ていると次第に苛立ってきた。
この馬鹿は、人の金を一体何だと思っているのだ?
清原へ簡単に貸してやればいいだの、仕事終われば酒を奢ってもらえるものと勘違いし。
確かにこの業界では俺のほうが数年先輩ではある。
しかし年齢的に見れば、俺と一歳しか違わない。
もうコイツも四十七歳なのだ。
こんな生き方で本当にこの先、ちゃんと生きていけるのか?

全員の身体を揺さぶりながら起こし、山下だけ頬を叩く。

「いってーっ!」
「さっさと起きろ、この屑め」

ようやくみんなが外へ出た頃、後続車のタクシーに乗った香川たちが到着する。
吉岡が太鼓持ちのように香川の傍で様子を伺う姿。
権力を持つ人間へまるでゴマをするようにしか見えない。

俺はこんな男を護ろうとし、受け身のやり過ぎで頭がいっちゃってると陰で笑われたのかよ……。

いい加減自分の甘さに気付けって。
何度似たようなミスを侵すのだ?

区役所通りで香川と橋本が話し合い、この近くにあるルルの店へ行く事が決定した。
密かな好意を抱いていたルル。
いつもなら客と従業員の関係性が、今だけは逆転する。

そう考えただけで妙に胸が躍り、いつの間にか楽しさを覚える自分に嫌気が差す。
今日エリと横浜行くんだろ?
本当に俺はどこまで節操がないんだよ。

ルルの店は、区役所通り沿いにある方のオスロバッティングセンター向かいにあった。
エレベーターでも行けるが二階という事で、外側に面した螺旋階段を上がる。

「あら、いらっしゃい」

ドレス姿のルルは綺麗だった。
普段ならラッキーハウスでポーカーへ熱中するルルも、この店では飲み屋の女。

胸も大きい。
芸能人でいえば本条まなみを少しふくよかにした感じの顔立ち。
年齢は四十代であるが、こういう女と一緒にいられたら、それだけで幸せを満喫するかもしれないな。

俺が過去真剣に愛してきた女。

品川春美。
この女がいたから俺は絵を描き、ピアノを弾き、小説を書き始めた。
だがそれらと引き換えに、強さを比例して失ってしまう。
これは人間である為、構造上仕方のない事。
だが捧げたつもりの自身のエゴ中心の愛情が、おそらく彼女は重荷でしかなかったはず。
だから俺の人生に中途半端な形でしか接していない。
一方通行な愛情なのを自覚しなかった俺。
だからインターコンチへ誘い、一度は了承したもののドタキャンされたのだ。
この春美の行動で、俺は長年彼女を神格化していた事実に気付き恋心を失った。
去年たまたま彼女をインターネットで検索すると、武蔵野市議会議員になっているのを知り、軽蔑さえ覚えるようになる。
俺は彼女以外の異性を雑に扱い生きてきた。
そのツケが今なのである。

川窪愛…、妹代わりに可愛がったつもりのミサキ。
今は亡き憎悪の対象だったお袋。
小学二年生の冬、俺たち三兄弟を捨てて男と暮らすお袋に娘がいるという噂を聞く。
顔も知らぬ半分だけ血の繋がった妹。
そんな時期に知り合ったのがミサキだった。
当時はワールドワンで無尽蔵の金を貰っていた俺。
調子に乗っていた時期の為、意味不明な格好つけと迷走を続け、ずっと妹扱いした。
一度も口説いてくれないと言ったミサキ。
常に勝手に妹代わりだと納得させようとした俺。
気付けばいつの間にか異性として意識していた事に気付く。
だが俺は彼女との関係性が壊れるのを一番恐れた。
結果川越にいたはずのミサキは、沖縄に行ってしまい、男ができて幸せそうに暮らしている。

運命の分かれ道となった百合子。
本当に俺へ献身的に尽くしてくれた女だった。
歌舞伎町浄化作戦で捕まった俺を待っていてくれ、子供を欲しがる彼女。
三十半ばだった俺は彼女との子を授かる。
だが當間の性格を知らなかった俺は、また歌舞伎町での仕事を選んでしまい、結果数ヶ月無収入という地獄へ陥った。
百合子が怒るのも当然だ。
自分が馬鹿だったのに衝突して中絶させてしまった。
すべてお互いの醜さをぶつけ合った結果残ったものは愛情。
それでも俺の傍にいた百合子と平穏無事に暮らせればいい。
バツイチだった彼女の子供の里帆と早紀。
最初は慣れなかったものの、時間を掛けて懐いてくれるようになった。
この頃秋葉原で山下哲也を名義に使った裏ビデオ屋を長谷川と始め、組織には数ヶ月で数千万の利益を作る。
だが俺の給料は月三十万程度。
山下は百万前後の開きに嫌気が差し、辞めようとする前に店は摘発された。
表社会を歩いてという百合子の懇願。
サラリーマンを始めるも向かない俺。
おじいちゃんが金を出してくれ、岩上整体を開業。
その頃百合子は俺の小説が人気出るのはいいが、他の異性が近寄ってくる事に対し非常に過敏になっていた。
雁字搦めの束縛とヤキモチ。
妄想による俺への糾弾。
限界を感じた俺は、彼女と別れる事を決意した。

これが二千六年の十二月クリスマスイブ。
つまりもう十四年間も、俺は一人に生きているのだ。

途中で関わり合った女たちは、あくまでも淋しさを誤魔化すように抱いただけ。
気付けば時間だけが経っていた。

「岩上さん、どうしたの? ずっと黙ってて」

ルルが覗き込んでくる。
ドキッとした。

他の従業員たちはカラオケを唄い、ノリノリになっている。
よくもまああそこまで無邪気にはしゃげるものだ。

「岩上さん、次ヨッピーコレクションが唄いますよ!」
「あの屑野郎か…、どれ、写真でも撮ってやるか」

俺は悪ノリして映像まで撮り、フェイスブックへアップした。
徐々にみんなの限界が近付き、ようやくお開きになる。

ルルの店を出ようとすると、彼女が「岩上さんお酒強いね。私ももうちょっとで終わるから、ちょっと飲みに行こうよ」と誘ってきた。
ひょっとしたらこの女を抱ける?
でも、エリとの約束があるしなあ。

まあまだ真夜中なのでどうせ川越には帰れない。
始発が出るまで付き合うのもいいか。

ルルとそれで上手くいくならいくで、それもいいだろう。
時流の流れに沿って……。

「あれ? 岩上さん! どこ行くんすか?」

声がして振り向くと山下と橋本がまだいた。
そこへ準備を終えたルルが出てくる。

「……」

結局四人で飲みに行く事になってしまう。
何て邪魔な二人なんだろうか。

「この時間でやってる店あります?」
「叙楽苑でも行くか」

俺は歌舞伎町に来た当初から付き合いのある中華料理『叙楽苑』へ向かう。

「岩上さん、あなた叙楽苑知ってるの?」

驚いた表情で俺に聞いてくるルル。
むしろ彼女が叙楽苑を知っていた事のほうが俺にとっては驚きだ。

「もう二十年以上の付き合いですよ」
「あそこのママ優しいね」

そうか、ルルは中国人でママは台湾人。
日本という異国で暮らす彼女たちにとっては、同じ新宿でのネットワークで繋がりがあっても全然おかしくない。

「おー、岩上さん。お久しぶりね。あ、ルルまで一緒に?」

叙楽苑に入り、酒を飲む。
元々フラフラだった橋本と山下は、すぐ潰れた
ルルもかなり眠そうだったので、店に一万円札を渡し二人を置いて叙楽苑を出る。

酔っていたせいか、ルルから手を繋いできた。
朝の四時過ぎ。
数名の通行人はいるものの、歌舞伎町は閑散としている。

俺は彼女を細い路地へひっぱり、そのまま優しくキスをした。
あがらわないので舌を入れる。
この女とならどこまで落ちてもいいか……。

自然に大きな乳房へ手を持って行く。

「もう、駄目!」

そこでルルは正気に戻ったのか、拒んできた。
俺もそれ以上強引にはせず、黙ったまま彼女を送る。

東新宿駅の近くまで歩きながら、それでも彼女はずっと手を繋いだままだった。

見送ってから西武新宿駅方面へ向かい、職安通りを真っ直ぐ歩く。
この時間じゃ、小江戸号ないんだよな。
俺は駅に着くと、各駅停車の鈍行のソファーに座り、睡魔に引きずり込まれた。


やっと川越へ到着。

目を覚ますと狭山市駅。
気付いたら所沢駅まで来てたり、田無駅だった。
爆睡で何度も往復してしまったのだろう。
時刻は朝の八時近く。
帰るだけで三時間近く掛かったのかよ。

家に着くと泥のように眠る。

ルルを抱いた夢を見た。
ただの夢の中でも彼女が服を着たままだった。
服を脱がそうとしたところで目を覚ます。

そういえば連日コロナコロナって、コロナウイルスで世間を賑わせているけど、川越から横浜の往復って大丈夫なのか?

時間を確認しようとすると、エリからのLINEが届いている。
見ると本日インターコンチへ行く約束のドタキャンだった。

「……」

目の前で森田へ電話させて起きてからの断りかよ。
文句を言おうと思ったが、あの手の順守には何を言ったところで無駄な事に気付く。
以前のガールズバーの女と同じパターンだからである。

俺はエリをそのまま削除した。
相手にしたからこうなる。

しかしインターコンチの予約はしたままだ。
どうする?
誰を誘う?
ルル?

俺は彼女へ電話を掛けるが、いきなりこれから横浜へ行くかと言われても無理だった。
当たり前か……。

じゃああと誰を誘う?
優香か?
いや、あいつじゃこれから仕事があるから無理だろう。

聡子にLINEするも返事は来ない。

昨夜交換したちか。
彼女へしてみるか。

『え、エリちゃんと行くんじゃなかったの? ちか』

俺は正直にドタキャンされた状況を伝える。
恥ずかしかったが事実のみ。

『自分から話を振っといてありえへんわ。行きたいところなんですけど、今日もお仕事あってごめんなさい。 ちか』

断れはしたが、少しだけ救われたような気がした。
でもあと誰を連れていく?
榊先生のところのゆかちゃん?

「……」

いや、腹を括れ。
自分が金を出し、時間を使う事なのに何故ここまで苦労する?
森田へ電話して、仕事が入ったとキャンセルすればいい。

これは変に格好をつけてあのホテル自慢をした自身の罰。
もういい加減この癖を辞めないといけない。

俺は誠心誠意謝罪し、森田へキャンセルの電話をした。
気にしないでくれとは言っていたが、心が重い。

外に出てフラフラ歩きながらカガヤカフェに寄る。

「カレーセット。あとコーヒーゼリー」
「智さん、すみません。今日ゼリー終わってしまって、抹茶プリンになってしまうんですが」

2020/02/04 kagayaCafe 抹茶プリン

まあここには毎回来る度二千円ぐらいは使ってやろうという意味合いで来ている。
久しぶりにプリンを食べた。

今日と明日の夜まで暇だ。
クレアモールを歩きながらパチンコ屋へ入る。

花の慶次に座り、千五百円でいきなり当たった。

2020/02/04 パラッツォ 花の慶次

七千発ちょいになる。
この玉でシンフォギアへ移った。
五千発台まで下がったけど、シーンフォーギアー

またまたシーンフォーギアー

2020/02/04 パラッツォ シンフォギア

当たりはするが、まるで楽しくない。
毎回毎回単発で終了。
出玉はその度二百発。

2020/02/04 パラッツォ シンフォギア履歴

九回連続で単発終了。
毎度毎度単発のみでどーやって勝つのだろう?
これ、パラッツォが内部で絶対に何か操作としてんだろ?

手紙、手紙と来ているのに、連続で外れ……。

トライバーストなんて来ないだから、こんな無断演出辞めればいいものを。
ほら、赤シルエットで外れたよ。
何故ここまで引っ張って絶唱にならない?

八千発近くあった玉が全部飲まれた、クソシンフォギアめ。
何かパチンコもつまらないな。
こんな詐欺同然だと知りながら、何故俺は夢中になっているのだろうか。

エリは俺を裏切った。
シンフォギアは俺を癒さない。
じゃあこの虚しさをどう癒す?

簡単である。
俺を癒やすのはウイスキーだ!

俺は篠崎のいる大漁丸へ向かう。

トマトだ!

2020/02/04 大漁丸 店内

茄子だ!

2020/02/04 大漁丸 茄子のしょうが炒め

焼きおにぎりだ!

2020/02/04 大漁丸 焼きおにぎり

揚げ出し豆腐たー!

2020/02/04 大漁丸 揚げ出し豆腐

「これが俺のー…、絶唱だぁー!」

シンフォギアの真似をして店で叫ぶ。

「岩ヤン、妙にハイテンションじゃん」
「篠ヤン、聞いてよ。酷いんだよ、シンフォギアがさー」

「もう俺はパチンコなんてやらなくなったよ。金吸われるだけじゃん」
「ほんとそうなんだよねー…。ヤケ酒付き合ってよー」

「今日は無理だから、明日の夕方ならいいよ」
「ドタキャンは無しだからね!」

「何だよ、する訳ねえじゃん。今日は妙に鼻息荒いな」

さすがに昨日の今日キャバクラで知り合った女に、ホテルを予約して土壇場で断られたなんて言えなかった。
大漁丸でとことん飲み明かし、家に帰ると倒れるように眠った。


二千二十年二月五日、水曜日赤口。

降って沸いた休みも今日の夜から仕事か。
まあ働かないと給料にならないんだから、いつまでもダラダラしていられない。

昨夜篠崎と約束をしていたので夕方になると、本川越駅で合流。

「岩ヤン、どこ飲みに行くの?」
「弘武堂の奥まったところにあるシックなバーなんだけどさ。あれ? この道じゃなかったっけ?」

以前妹代わりに可愛がったミサキがいたキャバクラ『サクセス』は、何年か前に潰れている。
その裏側ぐらいにあったバーだと思うんだけどなあ……。

何本か道を間違えながらも、バー『グライス』へ到着。
地元の人間がこれだけ探すのだから、この辺は本当に道が入り組んでいる。

2020/02/05 Dining&Bar GROUSE

中々の数の酒を置いてある店。
そんなに来れていないが、こことリバティが、川越ではお気に入りのバーである。

お馴染みグレンリベットにスカイダイビングを注文。

2020/02/05 Dining&Bar GROUSE Glenlivet12yaers&SkyDiving

ビールを飲んでいた篠崎も何かカクテルを飲みたいと言うのでパラダイスを頼む。

2020/02/05 Dining&Bar GROUSE Paradise

「何かたまにはこういうバーで飲みっていいもんだね」
「篠ヤンはほとんどゆりの店でしょ?」

「まあ大漁丸が終われば目の前だからね。ここ出たら次ゆりちゃんとこ行く?」
「いや、やめておこう。あそこ俺が行くと高いんだよ」

そう言ってカマンベールチーズを乱暴に口へ放り込む。
篠ヤンは数種類のフライドポテトをちょいちょいつまんでいる。

2020/02/05 Dining&Bar GROUSE CamembertCheese&FriedPotato

「え、何でよ?」
「篠ヤンいつも、ゆりの店で会計は?」

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