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闇 412(エプソムとホットドッグ屋編)

闇 412(エプソムとホットドッグ屋編)

2025/12/06 sta
前回の章


目を覚ますと猛烈に左目が痛かった。
目というより目の上…、つまり瞼のところをレーザーで焼いたところだ。

おそらく寝ている内に寝相悪く布団に擦りつけてしまったのだろう。
これ、仕事どころじゃないかも……。

俺はラッキーハウスへ電話をして、責任者の橋本へ今の症状を伝えた。

「ん-、つまり今日赤崎さんが病院で目のところを手術して、そこが痛んだって事ですか?」
「ええ、眼瞼黄色種って部分を切ったというか焼き切ったんですが、そこの部分を擦ってしまったみたいで……」

「仕事を休みたいと?」
「行こうと思えば行けるんですが、ずっと痛みで左目を押さえながらの状況になってしまうんで、逆に他の従業員たちへ迷惑になってしまうかなと」

「まあそれじゃ来てもしょうがないですね。今シフト見たら、香川さんと川崎さん、吉岡さんもいるから問題ないと思うので、自分から香川さんに伝えておきますよ」

「すみません…、お手数お掛けしますが……」
「お大事にどうぞ」

仮病でも何でもないが、俺も随分と気弱になったものだ。
まあ今のあの店でそこまで無理をして身体を酷使する必要性もない。

疼く左目を片手で押さえつつ、プレステーション3の電源を押す。
ドラゴンズクラウンでもやるか。

駄目だ、目が痛くてゲームどころじゃない……。

仕方なく冷たいタオルを用意して左目に当てる。
今日は大人しく寝よう。

二千十七年六月九日、金曜日先勝。
夜中に目を覚ます。
もう日が明けて九日になっていた。

携帯電話を見るとラッキーハウスから着信が入っているので、折り返す。

「赤崎です」
「橋本さんから聞きましたが、赤崎さん、目大丈夫なんですか?」

「ええ、お陰様でずっと休んでいたら、随分マシになりました。多分寝ている時にレーザーで切ったところ擦ってしまったんでしょうね」
「まあ今日は何とかなるんで、明日からまた出勤大乗ですか?」

「ええ、明日はちゃんと行きますよ」
「病院行ったほうがいいですよ」

「病院行った帰りに擦っただけなんで、このまま安静にしていれば問題ないですよ」

「えーと…、十一日の日曜は赤崎さんそのまま休みで問題ないので、明日の金曜土曜の二日間お願いしますね」
「分かりました。今日はご迷惑をお掛けしました」

電話を切ってからタバコに火をつける。
あの蚊蜻蛉の香川も、一応体裁だけは整えて置きたかったのだろう。
まあ実際問題店に迷惑を掛けてしまった事は事実だ。
俺もこれは反省しなければならない。

目を冷やしながら寝たせいか、痛みはかなり治まっていた。
もういえば何も食べていなかったから腹ペコだ。

この時間だと呑龍しかないな。
俺は着替えを済ませ、立門前通りへ向かう。

呑龍 店内

「こんばんはー」
「おう、いらっしゃい」

壁に貼られた手書きメニューを眺める。
結局いくら見たところで俺の頼むメニューは決まっていた。

「すみません、しょうが焼き定食両方大盛りと、餃子と、あと柔らかい焼きそばを下さい」
「あいよー。あれ? 目のところどうしたの?」

「あ、これ、眼瞼黄色種ってやつみたいで昨日皮膚科でレーザーで切ったんですよ。これが脳とか心臓にできると一撃で死んでいたらしいですよ」
「そりゃあ気をつけないといけねえな」

仕事を休んでの深夜呑龍。
考えてみれば中々素敵なシチュエーションだ。

「へい、しょうが焼き、それと餃子ね」

呑龍 しょうが焼きと餃子

「わんぽーっ!」

呑龍のラー油はマスターがゴマ油に一味を入れて作る自家製なので、俺はたっぷり入れて酢と醤油を加える。

続いてご飯の大盛りが置かれ、俺は餃子から口へ入れた。

呑龍 しょうが焼き定食両方大盛りと餃子

続いてチマチマ刻んだキャベツを肉の上に乗せてからしょうが焼きを口へ運ぶ。
そのままご飯をチェイサー代わりに。

「はい、柔らかい焼きそばね」
「わーい」

呑龍 柔らかい焼きそば

俺はちょっとだけ酢を焼きそばの上に垂らす。
本当に少量だけ。
以前大量に酢をぶっ掛けた酢女を思い出す。

俺は炒飯や麻婆茄子を食らい、彼女はラーメンを啜りながら餃子を摘む。
彼女の餃子の食べ方は非常に変わっていた。
普通なら醤油に酢とラー油。
人それぞれ割合は違うが、中には酢は駄目で醤油だけという人間もいる。
それはそれで分かる。
だが、彼女の小皿には醤油もラー油もまったく入ってない。
ようするに彼女は酢だけで餃子を食べていたのだ。
「ねえ、醤油はいいの?」
「うん、私、酢だけで食べるのが好きなの」
このような食べ方をする人間を初めて見たので少しビックリしたが、変わっているなあと思う以外別段気にする事はなかった。
途中で俺がラーメンを食べたり、彼女が炒飯を食べたりとしていると、さすがにお腹が膨れてきた。
「俺、あと、こっちの食べるだけで精一杯になってきた…。あと、ラーメンと餃子頼むわ」
「もういらないの?」
「ああ、腹一杯だもん……」
「ほんとにもう食べない?」
「いいよ、食べちゃって……」
返事をするのもだるいぐらい腹が膨れている。
「じゃあ、私、食べちゃうよ?」
くどいぐらい彼女は、しつこく聞き直す。
「いいよ、ほんとに……」
俺がそう答えた瞬間だった。
彼女の手が酢の入ったビンに伸びる。
左手で蓋を外したかと思うとラーメンの丼に向かって、酢をダバダバ入れだした。
ほぼ満タンに入っていた酢をすべてラーメンにぶち込んだ彼女は照れ臭そうに笑う。
「私、お酢大好きなんだ……」
おいしそうに酢がたっぷり入ったラーメンを食べる彼女の姿を見て、俺は鳥肌が立っていた。

「……」

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